境目の物語
秘術の伝授
リティと旅ができることになり、俺はすっかり頬を緩めていた。しかし闘鶏様はまだ、果たせていない目的があるらしい。
《……お主ら、そろそろ本題に入ってもよいか?》
「ん? 本題って、これ以外にか?」
心当たりもなく、俺は首をかしげるのみ。その様子を見た闘鶏様は、あきれたようにため息をついていた。
《調査を許可した時に、合わせて言ったはずじゃ。お主はその身に従えておる歴戦を、そして儂ら霊獣族のことを知らねばならん》
闘鶏様は翼を大きく広げながら、その本題を告げた。
詳しく言われて、ようやく俺も思い出す。このひと言は闘鶏様の言う通り、火山に入る直前の会話で最後に言っていたものだ。
合点がいった俺は、特に意識することなく「ああ」と返事をしようとする。しかし俺の口よりも先に、
「えっ!? 霊術のことを教えてしまってもいいんですか!?」
リティが驚きの声を上げた。
《カッカッカ! なに、霊術師の鬼才を姉に持つお主と旅などして、霊獣族と関わらぬわけがないじゃろう。
それにこやつはすでに、歴戦を従えておる。ここで知識を与えておけばお主と並んで、かの冒険王にも迫る霊術師になるかも知れんからのぉ。カッカッカ!!!》
闘鶏様は高らかに笑いながら、大法螺を吹いてみせた。
というのはただの観察眼で受け取った印象だが、案外リティは期待を感じているように見える。何も言いはしないが、口元が緩んでるのがその証拠だ。
《まあ座れぃ。話はそれからじゃ》
告げながら、闘鶏様はちゃぶ台に飛び乗った。これと言い座布団と言い、もしかしたらこの話をするためだけに用意した物なのかもしれない。
思うのは心の中だけで、表面には出さない。俺はリティと同じように、すこしつぶれた座布団に座り直した。
三者の準備が整うと、闘鶏様は一呼吸入れる。次に話し始めた時は、平時の雰囲気に戻っていた。
《まずは歴戦を呼び出すとしよう。ではお主、己の胸に手を当ててみい》
「わかった」
言われた通りに、俺は右手を胸に当ててみた。
このままだと当然、何も起きない。それにこれくらいの動作は、高鳴る鼓動を感じる時にもよくやっている。
《そしたら精神の統一じゃ。深呼吸しながら、歴戦の姿を思い浮かべてみい》
「すーはー、すーはー、こんな感じか……?」
闘鶏様の指示通りに、今度はゆったりとした呼吸。同時に頭の中では、あの巨大鰐の姿を思い描く。
グリッチを殺した、憎い怪物。
ロトが斬り裂いた、巨大な怪物。
ヘキサの部隊を壊滅させた、強大な怪異。
闘鶏様の脅威から俺を救った、歴戦の覇者。
あの鰐の事は、正直今でも憎い。でも同時に、何度か助けられているという、非常に複雑な状態だ。
敵でありながら、味方でもある。その不明瞭な立場を、はっきりさせたい。
《◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇》
「っ!?」
突如頭の中に響く、理解の及ばないあの声。同時に胸の奥が、熱くなるのを感じる。
《そうじゃ、そのまま解き放てぃ!》
「はあぁぁーーーっ!」
闘鶏様の呼びかけに応じるように、熱くなった思念が渦を巻く。俺はその感覚に身を任せて、内なる思念を解き放った。
胸の中心から、漆黒が引きずり出される。それは人並みの大きさで、鰐の形をとった。
《◇◇◇……◇◇、◇◇◇◇◇◇◇》
サイズこそまったく違うが、喋る言葉は歴戦そのもの。鰐はあたりを見まわすように首を振り、最後に闘鶏様の方を見て静止した。
双方は向かい合うと、ワニは口を、闘鶏様は翼を大きく広げる。次に闘鶏様が呼びかけに用いたのは、このワニ同様の言語だ。
《◇◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇》
彼の声を聞いたワニは、唸り声を上げて顔を下ろす。しかし要求は呑んでくれたらしい。
《◇◇……、これで十分だろう》
あの言語から、いきなり理解できるものに変わる。雄叫びでも魔物の言語でもない、なんと人の言語だ。
それも流暢に話すものだから、思わず腰を抜かしそうになる。そんな俺を尻目に、闘鶏様はワニに問いかけた。
《早速じゃが、なぜお主がこやつに従っておる?》
聞かれたワニは、鼻で笑って答える。
《ふん、聞くまでもないだろう。このガキは俺を打ち負かした。敗者は勝者に従う、ただそれだけだ》
《ほ、本当にお主が認めたと申すのか!?》
事実を告げられた闘鶏様は、目を丸くして驚きの声を上げた。でもその気持ちは、身に染みてわかる。
《お主、歴戦を打ち負かしたというのは本当か?》
「まあ……あの時はロトが体を操ってたから。俺自身の力じゃ、どうにもならないと思う……」
闘鶏様に迫られても、俺は悲観的になるしかない。
歴戦を倒したのはロトであって、俺自身では傷すらつけられなかった。それは今でも変わらないかもしれない。
でも弱気になっている俺を、歴戦の覇者は認めなかった。ワニは激しい雄叫びを上げて、苛立ちを直接言葉に出す。
《誰が体を操っていようと、関係ない。その体は覇者の俺を、倒すに値する力を秘めている。
ならお前がすべき事は、さらに腕を磨き、力を引き出す。違うか?》
「……っ! そうだな!」
その喝は、俺の心に強く響いた。
ロトにできたことが、俺にできないはずがない。それにロトがいない今でも、俺は能力に気づけた。ならあの力だって、引き出せるようになるはずだ。
確信があるわけではないが、強い自信が湧いてくる。その様子を見た歴戦は、軽く鼻で笑うと共に口元を緩めた。
しかし何か言い忘れがあったらしい。漆黒の体をしているとはいえ、その表情に少しシワを寄せていた。
《それとガキども、一つ忠告だ》
「「ん?」」
今度はリティも合わせて指名される。俺たちは同時に返事をした。
《俺を呼び出すのは勝手だ。好きなように使えばいい。だが間違っても戦闘外で呼ぶな。体が縮む。
あと、もし度胸があるのなら、俺の本体に会いに行くといい。さらに実力を認められれば、欠片としての俺もより一層力を発揮できるだろう》
最後に《あまり俺には頼りすぎるな、それだけだ》と言うと、黒い粒子となって散った。
たぶんこれが、彼らの退去なのだろう。俺はそう思うことにした。
歴戦の覇者は、最後まで自分のペースで話し、満足するとすぐに帰ってしまった。その立ち振る舞いに一番影響を受けたのは、他でもない闘鶏様だ。
《まだ儂の話は終わっとらんのに、まったくせっかちな奴じゃ》
どうやら歴戦にも参加してもらう予定だったようで、計画の狂いにぶつぶつと毒を吐く。
しかしそれも一瞬のこと。気持ちを切り替えた闘鶏様は、すぐに話を再開した。
《お主、使い方は理解できたな。これが大いなる魂の欠片を触媒として、その力を借りる秘伝の術……その名も【霊術】。
そして大いなる魂こそが、儂ら【霊獣族】なのじゃ!!!》
「これが……霊術? それに霊獣族……???」
告げられたことに、頭がついていかない。
前者は、レッカや闘鶏様が使っていた超常現象を、俺自身も使えるようになるとは思わなかったから。
それと後者に関しては、名前すら聞いたことがない。
《当然の反応じゃな。儂ら霊獣族は見た目こそただの動物じゃが、魂の規格はまったくの別物。魂を測れぬ限りは、認識すらできんからのぉ》
語る闘鶏様は翼の動きも大きく、かなり楽しそうに見えた。でもそんな事をなぜ教えてくれたのか、俺にはわからない。
「なんで秘術なんかを、俺に?」
《最初に言ったはずじゃ。それに……リティ》
「はい?」
質問に対してかなり曖昧な返事をする闘鶏様は、目線をリティに向けて、彼女を呼んだ。基本的に話に関わっていなかったリティは、キョトンとした表情のまま答えた。
《お主、こやつの用いた型はわかるか?》
「い、いえ……。でも召霊、纏霊、即発のどれでもないと言う事は、イマージってことですよね?」
《正解じゃ。さすがは里一番の霊術師見習いじゃな》
リティの答えは見事に的を射ていたようで、闘鶏様は盛大に褒め称えた。その際に呼び出した獣拳で親指を立てる姿を見ると、霊獣族の格もよくわからなくなる。
しかし次に俺を見据えた闘鶏様は真剣に、今の答えを踏まえて説明を始める。
《霊術にはいくつか型があるのじゃが、ごく稀にどれにも属さんことがある。リティ、闘鶏を呼んでみよ》
「はい! 召霊術、闘鶏様!」
頼まれたリティは立ち上がり、右手をパッと開いて術を唱える。
すると手のひらが向けられた先に、淡い光を放つニワトリが現れた。レッカや闘鶏様のと同じ見た目だ。
《これが通常の霊術じゃが、お主のはどうも黒い。イマージなのは間違いないが、あんな色の霊術は初めてじゃ》
「そ、そうなのか。あ……だから興味を持ったとか?」
《カッカッカ! その通りじゃ。こりゃ一本取られたのぉ》
俺としては苦笑いものだが、闘鶏様は実に愉快な笑い声を上げた。
実験体として扱われてるとしか思えないが、霊術を知れてよかったと開き直るべきなのか。俺自身をけなすその言動に、憤りを覚えるべきなのか。
判断しかねた俺の中には、モヤモヤした感情が渦巻いていた。
何はともあれ、聞くべき事は聞いた。これでようやく霊堂からおさらばできる。
俺とリティは立ち上がり、痺れかけた足を伸ばして血の巡りをよくする。そうして出立の準備を整えた時、ふと疑問が浮かんできた。
「そういや闘鶏様、俺たちの目的はギルドだし、霊獣族と関わらない気がするんだが。そんな俺に教えてもよかったのか?」
《カッカッカ! あまいのぉ》
質問すると闘鶏様は、イヤな感じにニヤけて返す。俺が首を傾げると、翼で霊堂内の石像を指しながら話し始める。
《ここに飾ってある石像は、すべて霊獣族のみなを模したものじゃ。気になった時にでも確認しにくるとよい。
それに霊獣族は霊獣として認知されずとも、個体として目立つ者が多い。心配せんでも、気づいた時には絡まれとるじゃろうな》
「え、本当に?」
《歴戦、無慈悲、儂……》
「あ、はい……って無慈悲!?」
無慈悲ってヴァルフのことか!?
霊堂を見渡す。よく見ると、それっぽい石像もちゃんとあった。
でもあれの魂はまだ持って……いや、まだ認められてないってことか?
ここまで聞いても、霊獣族の基準はさっぱりわからない。それに魂の欠片とか言われると、もうついていけない。
でもいずれは慣れるのだろうか。霊獣の話題では一切の動揺を見せなかったリティのように、俺もなれるのだろうか。
抱えた疑問は降りてくれそうにない。でも多分、いま気にしても仕方ない。
それにこれで困った時は、リティに聞けばいい。もうここで考えるのはやめだ。
俺はばっさりと割り切るとともに、くるりと後ろを向く。そしてリティとともに、この暑苦しく重々しい霊堂を後にしたのだった。
(ryトピック〜霊術についてその1〜
知識が欠如しすぎているので簡潔に。
【召霊術】
霊獣族とやらを召喚? できるらしい。レッカや闘鶏様が使っているのを見た。
効果のみを発動させる【霊術技】もあるようだが……?
【纏霊術】
霊獣族を体に纏える? らしい。真剣勝負のときにレッカが、闘鶏様の翼を纏ってた。
応用で武具に纏わせる【装纏霊術】もあるらしい。レッカの絶縁八刀が確かそれ。
【即発術】
謎。見たことがない。たぶん瞬時に発動するタイプの霊術。間違ってたらごめん。
【イマージ】
能力に影響されて発現する霊術。内容によっては上記3タイプが使えないらしいし、俺もそのタイプだと思う。知らんけど。
《……お主ら、そろそろ本題に入ってもよいか?》
「ん? 本題って、これ以外にか?」
心当たりもなく、俺は首をかしげるのみ。その様子を見た闘鶏様は、あきれたようにため息をついていた。
《調査を許可した時に、合わせて言ったはずじゃ。お主はその身に従えておる歴戦を、そして儂ら霊獣族のことを知らねばならん》
闘鶏様は翼を大きく広げながら、その本題を告げた。
詳しく言われて、ようやく俺も思い出す。このひと言は闘鶏様の言う通り、火山に入る直前の会話で最後に言っていたものだ。
合点がいった俺は、特に意識することなく「ああ」と返事をしようとする。しかし俺の口よりも先に、
「えっ!? 霊術のことを教えてしまってもいいんですか!?」
リティが驚きの声を上げた。
《カッカッカ! なに、霊術師の鬼才を姉に持つお主と旅などして、霊獣族と関わらぬわけがないじゃろう。
それにこやつはすでに、歴戦を従えておる。ここで知識を与えておけばお主と並んで、かの冒険王にも迫る霊術師になるかも知れんからのぉ。カッカッカ!!!》
闘鶏様は高らかに笑いながら、大法螺を吹いてみせた。
というのはただの観察眼で受け取った印象だが、案外リティは期待を感じているように見える。何も言いはしないが、口元が緩んでるのがその証拠だ。
《まあ座れぃ。話はそれからじゃ》
告げながら、闘鶏様はちゃぶ台に飛び乗った。これと言い座布団と言い、もしかしたらこの話をするためだけに用意した物なのかもしれない。
思うのは心の中だけで、表面には出さない。俺はリティと同じように、すこしつぶれた座布団に座り直した。
三者の準備が整うと、闘鶏様は一呼吸入れる。次に話し始めた時は、平時の雰囲気に戻っていた。
《まずは歴戦を呼び出すとしよう。ではお主、己の胸に手を当ててみい》
「わかった」
言われた通りに、俺は右手を胸に当ててみた。
このままだと当然、何も起きない。それにこれくらいの動作は、高鳴る鼓動を感じる時にもよくやっている。
《そしたら精神の統一じゃ。深呼吸しながら、歴戦の姿を思い浮かべてみい》
「すーはー、すーはー、こんな感じか……?」
闘鶏様の指示通りに、今度はゆったりとした呼吸。同時に頭の中では、あの巨大鰐の姿を思い描く。
グリッチを殺した、憎い怪物。
ロトが斬り裂いた、巨大な怪物。
ヘキサの部隊を壊滅させた、強大な怪異。
闘鶏様の脅威から俺を救った、歴戦の覇者。
あの鰐の事は、正直今でも憎い。でも同時に、何度か助けられているという、非常に複雑な状態だ。
敵でありながら、味方でもある。その不明瞭な立場を、はっきりさせたい。
《◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇》
「っ!?」
突如頭の中に響く、理解の及ばないあの声。同時に胸の奥が、熱くなるのを感じる。
《そうじゃ、そのまま解き放てぃ!》
「はあぁぁーーーっ!」
闘鶏様の呼びかけに応じるように、熱くなった思念が渦を巻く。俺はその感覚に身を任せて、内なる思念を解き放った。
胸の中心から、漆黒が引きずり出される。それは人並みの大きさで、鰐の形をとった。
《◇◇◇……◇◇、◇◇◇◇◇◇◇》
サイズこそまったく違うが、喋る言葉は歴戦そのもの。鰐はあたりを見まわすように首を振り、最後に闘鶏様の方を見て静止した。
双方は向かい合うと、ワニは口を、闘鶏様は翼を大きく広げる。次に闘鶏様が呼びかけに用いたのは、このワニ同様の言語だ。
《◇◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇》
彼の声を聞いたワニは、唸り声を上げて顔を下ろす。しかし要求は呑んでくれたらしい。
《◇◇……、これで十分だろう》
あの言語から、いきなり理解できるものに変わる。雄叫びでも魔物の言語でもない、なんと人の言語だ。
それも流暢に話すものだから、思わず腰を抜かしそうになる。そんな俺を尻目に、闘鶏様はワニに問いかけた。
《早速じゃが、なぜお主がこやつに従っておる?》
聞かれたワニは、鼻で笑って答える。
《ふん、聞くまでもないだろう。このガキは俺を打ち負かした。敗者は勝者に従う、ただそれだけだ》
《ほ、本当にお主が認めたと申すのか!?》
事実を告げられた闘鶏様は、目を丸くして驚きの声を上げた。でもその気持ちは、身に染みてわかる。
《お主、歴戦を打ち負かしたというのは本当か?》
「まあ……あの時はロトが体を操ってたから。俺自身の力じゃ、どうにもならないと思う……」
闘鶏様に迫られても、俺は悲観的になるしかない。
歴戦を倒したのはロトであって、俺自身では傷すらつけられなかった。それは今でも変わらないかもしれない。
でも弱気になっている俺を、歴戦の覇者は認めなかった。ワニは激しい雄叫びを上げて、苛立ちを直接言葉に出す。
《誰が体を操っていようと、関係ない。その体は覇者の俺を、倒すに値する力を秘めている。
ならお前がすべき事は、さらに腕を磨き、力を引き出す。違うか?》
「……っ! そうだな!」
その喝は、俺の心に強く響いた。
ロトにできたことが、俺にできないはずがない。それにロトがいない今でも、俺は能力に気づけた。ならあの力だって、引き出せるようになるはずだ。
確信があるわけではないが、強い自信が湧いてくる。その様子を見た歴戦は、軽く鼻で笑うと共に口元を緩めた。
しかし何か言い忘れがあったらしい。漆黒の体をしているとはいえ、その表情に少しシワを寄せていた。
《それとガキども、一つ忠告だ》
「「ん?」」
今度はリティも合わせて指名される。俺たちは同時に返事をした。
《俺を呼び出すのは勝手だ。好きなように使えばいい。だが間違っても戦闘外で呼ぶな。体が縮む。
あと、もし度胸があるのなら、俺の本体に会いに行くといい。さらに実力を認められれば、欠片としての俺もより一層力を発揮できるだろう》
最後に《あまり俺には頼りすぎるな、それだけだ》と言うと、黒い粒子となって散った。
たぶんこれが、彼らの退去なのだろう。俺はそう思うことにした。
歴戦の覇者は、最後まで自分のペースで話し、満足するとすぐに帰ってしまった。その立ち振る舞いに一番影響を受けたのは、他でもない闘鶏様だ。
《まだ儂の話は終わっとらんのに、まったくせっかちな奴じゃ》
どうやら歴戦にも参加してもらう予定だったようで、計画の狂いにぶつぶつと毒を吐く。
しかしそれも一瞬のこと。気持ちを切り替えた闘鶏様は、すぐに話を再開した。
《お主、使い方は理解できたな。これが大いなる魂の欠片を触媒として、その力を借りる秘伝の術……その名も【霊術】。
そして大いなる魂こそが、儂ら【霊獣族】なのじゃ!!!》
「これが……霊術? それに霊獣族……???」
告げられたことに、頭がついていかない。
前者は、レッカや闘鶏様が使っていた超常現象を、俺自身も使えるようになるとは思わなかったから。
それと後者に関しては、名前すら聞いたことがない。
《当然の反応じゃな。儂ら霊獣族は見た目こそただの動物じゃが、魂の規格はまったくの別物。魂を測れぬ限りは、認識すらできんからのぉ》
語る闘鶏様は翼の動きも大きく、かなり楽しそうに見えた。でもそんな事をなぜ教えてくれたのか、俺にはわからない。
「なんで秘術なんかを、俺に?」
《最初に言ったはずじゃ。それに……リティ》
「はい?」
質問に対してかなり曖昧な返事をする闘鶏様は、目線をリティに向けて、彼女を呼んだ。基本的に話に関わっていなかったリティは、キョトンとした表情のまま答えた。
《お主、こやつの用いた型はわかるか?》
「い、いえ……。でも召霊、纏霊、即発のどれでもないと言う事は、イマージってことですよね?」
《正解じゃ。さすがは里一番の霊術師見習いじゃな》
リティの答えは見事に的を射ていたようで、闘鶏様は盛大に褒め称えた。その際に呼び出した獣拳で親指を立てる姿を見ると、霊獣族の格もよくわからなくなる。
しかし次に俺を見据えた闘鶏様は真剣に、今の答えを踏まえて説明を始める。
《霊術にはいくつか型があるのじゃが、ごく稀にどれにも属さんことがある。リティ、闘鶏を呼んでみよ》
「はい! 召霊術、闘鶏様!」
頼まれたリティは立ち上がり、右手をパッと開いて術を唱える。
すると手のひらが向けられた先に、淡い光を放つニワトリが現れた。レッカや闘鶏様のと同じ見た目だ。
《これが通常の霊術じゃが、お主のはどうも黒い。イマージなのは間違いないが、あんな色の霊術は初めてじゃ》
「そ、そうなのか。あ……だから興味を持ったとか?」
《カッカッカ! その通りじゃ。こりゃ一本取られたのぉ》
俺としては苦笑いものだが、闘鶏様は実に愉快な笑い声を上げた。
実験体として扱われてるとしか思えないが、霊術を知れてよかったと開き直るべきなのか。俺自身をけなすその言動に、憤りを覚えるべきなのか。
判断しかねた俺の中には、モヤモヤした感情が渦巻いていた。
何はともあれ、聞くべき事は聞いた。これでようやく霊堂からおさらばできる。
俺とリティは立ち上がり、痺れかけた足を伸ばして血の巡りをよくする。そうして出立の準備を整えた時、ふと疑問が浮かんできた。
「そういや闘鶏様、俺たちの目的はギルドだし、霊獣族と関わらない気がするんだが。そんな俺に教えてもよかったのか?」
《カッカッカ! あまいのぉ》
質問すると闘鶏様は、イヤな感じにニヤけて返す。俺が首を傾げると、翼で霊堂内の石像を指しながら話し始める。
《ここに飾ってある石像は、すべて霊獣族のみなを模したものじゃ。気になった時にでも確認しにくるとよい。
それに霊獣族は霊獣として認知されずとも、個体として目立つ者が多い。心配せんでも、気づいた時には絡まれとるじゃろうな》
「え、本当に?」
《歴戦、無慈悲、儂……》
「あ、はい……って無慈悲!?」
無慈悲ってヴァルフのことか!?
霊堂を見渡す。よく見ると、それっぽい石像もちゃんとあった。
でもあれの魂はまだ持って……いや、まだ認められてないってことか?
ここまで聞いても、霊獣族の基準はさっぱりわからない。それに魂の欠片とか言われると、もうついていけない。
でもいずれは慣れるのだろうか。霊獣の話題では一切の動揺を見せなかったリティのように、俺もなれるのだろうか。
抱えた疑問は降りてくれそうにない。でも多分、いま気にしても仕方ない。
それにこれで困った時は、リティに聞けばいい。もうここで考えるのはやめだ。
俺はばっさりと割り切るとともに、くるりと後ろを向く。そしてリティとともに、この暑苦しく重々しい霊堂を後にしたのだった。
(ryトピック〜霊術についてその1〜
知識が欠如しすぎているので簡潔に。
【召霊術】
霊獣族とやらを召喚? できるらしい。レッカや闘鶏様が使っているのを見た。
効果のみを発動させる【霊術技】もあるようだが……?
【纏霊術】
霊獣族を体に纏える? らしい。真剣勝負のときにレッカが、闘鶏様の翼を纏ってた。
応用で武具に纏わせる【装纏霊術】もあるらしい。レッカの絶縁八刀が確かそれ。
【即発術】
謎。見たことがない。たぶん瞬時に発動するタイプの霊術。間違ってたらごめん。
【イマージ】
能力に影響されて発現する霊術。内容によっては上記3タイプが使えないらしいし、俺もそのタイプだと思う。知らんけど。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
89
-
-
140
-
-
0
-
-
549
-
-
6
-
-
1
-
-
59
-
-
1168
-
-
35
コメント