境目の物語
砂漠の依頼その4
昨日の宣言通り、俺はヘキサたち6人隊を集結させた。砲剣使いのヘキサ、大剣使いのランド、魔法剣(氷)使いのカイ、槌使いのゴルドとその背に乗るアル、そして剣と槍使いの俺。
戦闘向きではないノナ姫を除いた、計6人のパーティ。そんな俺たちが臨むのは、旅先での重要な水源地に腰を下ろしたという、【砂獣】と呼ばれる魔物の討伐依頼、推奨Lv.70。
その名前だけでは容姿を判断しかねるため、それぞれの戦い方を把握し合いながら目的地へと足を進めていた。
「……っ? 皆さん止まってください」
先頭を歩いていたヘキサが、みんなの歩みを止めさせる。同じく先頭を歩いていた俺にはわかるが、そこにはクレーターができていた。
しかも不自然なことに、周りに枯れ木が生えており、地面は硬く保たれていた。
「まさかこれがオアシスっすか?」
ランドが不思議そうに覗き込む。だが俺は首を横に振る。クレーターの横に、綺麗な水に満ち溢れた広い池のようなものがあったからだ。外見としては、こちらの方が目的地の特徴に近い。
俺たちはより注意深く、オアシスらしきそれに近づく。周囲に魔物の気配はなく、照りつける日の下に静けさのみがある。
……いや訂正、そこに割り込むものが一つ。妙な砂埃がこちらへ向かっていた。
「あれは……砂漠魚か?」
冷静に観察し、みんなに伝える。それは砂の海を泳ぐ黄色い魚で、厳密には両生類。全長は50センチくらいで、10匹ほどの群れで活動している。
もとより人を襲う種ではないが、どうやらこちらには気付いてすらいない。このまま池に入って、水分の補給とするのだろうか?
そう観察しているうちにも、砂漠魚は先頭から池に飛び込む。そのまま水浴びを開始するところまでは、至って普通の光景だった。
しかし最後の1匹が飛び込んだ時。地面が一瞬沈み込んだ。
「っ!? 下がれッ!!!」
とっさに叫び、飛び退く。さっきまで立っていた場所が、一気に沈み込む。
そして次の瞬間、何かが中央部から跳び上がる。広範囲に砂塵を撒き散らしながら、砂漠魚全てを呑み込みにする。
「くっ、頼むヘキサ!」
「お任せくださいッ!」
指示に合わせて砲剣が向けられる。そして次の瞬間、
「【テトラバースト】ッ!!!」
の掛け声と共に、砲剣から放たれる砲撃。
それは砂塵を吹き飛ばして視界の確保に努めつつ、そこにいる何かにも命中した……が、
「ダメっす隊長!」
「やはり我々の属性では効果薄……か」
ランドやカイの発言通り、爆撃は皮膚すら焼けずにいた。砂漠の生物に純粋な火と氷では、やはり相性が悪いようだ。
それでも対象は視界で捉えた。背丈10メートルはあり、前足に鉤爪、後ろ足に水掻き、そして尻尾にツボのような膨らみと構造を持った、ウーパールーパーみたいな魔物………
「リンちゃんそっくり!?」
思わず出る一言。砂獣と呼ばれるこの魔物は、リンちゃんと同種の個体だったのだ。
強いて言えば、こちらの方がふた回りくらい小さい。だが強いことは間違いない。
「何をボサッとしている。ほらっ、尾撃が来るよ、さっさと避けろ!」
振り下ろされる尻尾に、咄嗟の指示を出すアル。ほぼほぼ反射的に左右へ飛び退く俺たちは、否応無しに戦いの開始を告げられていた。
「右を封じますよ、カイ!」
「了解しました!」
右の二人が走り出す。
「ランド、俺たちは左だ!」
「了解っす!」
左も遅れず動き出す。
そして両者とも先導が前、追従が後ろと分離して、
「トリブーストッ!!!」
「翡翠斬りッ!!!」
「氷刃ッ!!!」
「叩き斬るっす!!」
個々の技が繰り出され、四足にそれぞれの傷を負わせる。特にラグの剣は深く抉り、大きく体をよろめかせる。
だが砂獣は右前で踏み込み、大口を開けて食らいつく。
「チッ、一本喰らっとけ!」
すかさず飛び退き、槍を投擲。
砂獣が空を噛み砕くと同時に、その額に深く突き刺さる。
「逃すかッ!!!」
着地と同時に前へ飛び出す。
そして額を引き摺るように斬り上げ、傷口を大きく開かせる!
「今だみんなっ!!!!!」
ラグが叫び、4人が跳ぶ。
「テトラブーストッ!!!」
「斬り込むっす!!!」
二人が十字に傷口を斬り開き、
「氷結砕ッ!!!」
魔法の氷塊が放たれ、突き刺さり、
「うおおぉぉーーッ!!!」
締めの槌が氷塊ごと額を叩き割る。
氷塊はさらに深く突き刺さり、脳をも貫き通す。普通の生物であれば、即死しててもおかしく……
「あれ?」
砂獣がピクリとも動かない。もしかして本当に死んだ?
あまりにも呆気なく終わったことで、その状況を信じれなくなっていた。だが間違いなくそれはうつ伏せに倒れ、頭からは血と共に脳みそまでもが溢れ出ていた。
うしろでは手を打ち合わせる音がする。
「やりましたな」
「いいフォローでした」
「いい感じにできたっすよ!」
「だいぶ成長しましたね」
部隊の名残なのだろうが、ペアで互いに褒め合っていた。なんとも微笑ましいと言えばそうだが、気を抜けずにいる俺がいた。
Lv.70で小さかったとは言え、中身はリンちゃんと同じ砂獣。奥の手くらいありそうなのに、こうもあっさり……
「ラグさん帰るっすよ!」
ランドが能力の都合により、帰宅の確認にやってきた。少し思い悩みはした。でも俺のそれは勘に近いし、直接確認すれば済む話だ。
「素材を剥いで来る。ちょっと待ってろ」
俺は軽く伝えて、そのあとに砂獣へ近づく。
息もなく、脈もない。口からは赤く濁った水が滴る。皮膚の温度は変わらないが、内側の肉はすでに冷え始めている。
注意深く確認しながら、丁寧に素材を剥いでいく。その際も動悸が止むことはなかったが、何事も起こることなく、解体作業は終わる。
「……帰るか」
ぼそっと呟き、素材をポーチに押し込める。それからみんなの輪へと戻り、ランドの能力で帰宅する。
転移する直前にも、映っていたのは変わらぬ死骸。それに群れるハイエナがいるだけの、食物連鎖の風景であった。
ーーークエストリザルトーーー
○所持金-【650.c】→【1,400.c】(4,500を6人で分割)
○評判-砂獣の討伐報告で冒険者や衛兵からの評判が上昇
自己評価-【10点】
起点は作れたかもしれないが、倒したのは6人隊のみんなだ。やっぱり完成しきった団体に混ざっても、置き去りにされるだけなんだな。
……にしてもあの砂獣ってやつ、呆気なさすぎて楽しめなかった。みんなの連携が強かったのもそうだが、俺の勘ではあんなの全力じゃない。
今度ひとりで手合わせしてみるべきか、それともフゥさんにリンちゃん経由で聞いてみようか……
(ryトピック〜砂漠の魔物たちその3〜
【プランダーハイエナ】平均Lv.25
いわゆる現実世界のハイエナと同種の個体。こちらは一回りほど大きい。
基本は5匹以上の集団で行動し、草食動物や生物の死骸を食い漁る。また戦闘時の協調性が強く、10匹を超えるとLv.50を超えた冒険者ですら手こずる、最悪餌になる。
危険性はそこそこ高いが、基本移動し続けるため、駆除依頼もあまり出ていない。しそもそも数が力になるタイプなので、好き好んで戦う輩も滅多にいない。
【砂漠魚】平均Lv.5
砂の海を泳ぐ魚。死骸や小動物を主食とする砂漠の掃除屋。
基本的には砂砂漠にのみ生息し、獲物の観点からも人を襲うことはない。ただし自衛はとことんするので、下手に手を出すと酷い目に遭う。
戦闘向きではないノナ姫を除いた、計6人のパーティ。そんな俺たちが臨むのは、旅先での重要な水源地に腰を下ろしたという、【砂獣】と呼ばれる魔物の討伐依頼、推奨Lv.70。
その名前だけでは容姿を判断しかねるため、それぞれの戦い方を把握し合いながら目的地へと足を進めていた。
「……っ? 皆さん止まってください」
先頭を歩いていたヘキサが、みんなの歩みを止めさせる。同じく先頭を歩いていた俺にはわかるが、そこにはクレーターができていた。
しかも不自然なことに、周りに枯れ木が生えており、地面は硬く保たれていた。
「まさかこれがオアシスっすか?」
ランドが不思議そうに覗き込む。だが俺は首を横に振る。クレーターの横に、綺麗な水に満ち溢れた広い池のようなものがあったからだ。外見としては、こちらの方が目的地の特徴に近い。
俺たちはより注意深く、オアシスらしきそれに近づく。周囲に魔物の気配はなく、照りつける日の下に静けさのみがある。
……いや訂正、そこに割り込むものが一つ。妙な砂埃がこちらへ向かっていた。
「あれは……砂漠魚か?」
冷静に観察し、みんなに伝える。それは砂の海を泳ぐ黄色い魚で、厳密には両生類。全長は50センチくらいで、10匹ほどの群れで活動している。
もとより人を襲う種ではないが、どうやらこちらには気付いてすらいない。このまま池に入って、水分の補給とするのだろうか?
そう観察しているうちにも、砂漠魚は先頭から池に飛び込む。そのまま水浴びを開始するところまでは、至って普通の光景だった。
しかし最後の1匹が飛び込んだ時。地面が一瞬沈み込んだ。
「っ!? 下がれッ!!!」
とっさに叫び、飛び退く。さっきまで立っていた場所が、一気に沈み込む。
そして次の瞬間、何かが中央部から跳び上がる。広範囲に砂塵を撒き散らしながら、砂漠魚全てを呑み込みにする。
「くっ、頼むヘキサ!」
「お任せくださいッ!」
指示に合わせて砲剣が向けられる。そして次の瞬間、
「【テトラバースト】ッ!!!」
の掛け声と共に、砲剣から放たれる砲撃。
それは砂塵を吹き飛ばして視界の確保に努めつつ、そこにいる何かにも命中した……が、
「ダメっす隊長!」
「やはり我々の属性では効果薄……か」
ランドやカイの発言通り、爆撃は皮膚すら焼けずにいた。砂漠の生物に純粋な火と氷では、やはり相性が悪いようだ。
それでも対象は視界で捉えた。背丈10メートルはあり、前足に鉤爪、後ろ足に水掻き、そして尻尾にツボのような膨らみと構造を持った、ウーパールーパーみたいな魔物………
「リンちゃんそっくり!?」
思わず出る一言。砂獣と呼ばれるこの魔物は、リンちゃんと同種の個体だったのだ。
強いて言えば、こちらの方がふた回りくらい小さい。だが強いことは間違いない。
「何をボサッとしている。ほらっ、尾撃が来るよ、さっさと避けろ!」
振り下ろされる尻尾に、咄嗟の指示を出すアル。ほぼほぼ反射的に左右へ飛び退く俺たちは、否応無しに戦いの開始を告げられていた。
「右を封じますよ、カイ!」
「了解しました!」
右の二人が走り出す。
「ランド、俺たちは左だ!」
「了解っす!」
左も遅れず動き出す。
そして両者とも先導が前、追従が後ろと分離して、
「トリブーストッ!!!」
「翡翠斬りッ!!!」
「氷刃ッ!!!」
「叩き斬るっす!!」
個々の技が繰り出され、四足にそれぞれの傷を負わせる。特にラグの剣は深く抉り、大きく体をよろめかせる。
だが砂獣は右前で踏み込み、大口を開けて食らいつく。
「チッ、一本喰らっとけ!」
すかさず飛び退き、槍を投擲。
砂獣が空を噛み砕くと同時に、その額に深く突き刺さる。
「逃すかッ!!!」
着地と同時に前へ飛び出す。
そして額を引き摺るように斬り上げ、傷口を大きく開かせる!
「今だみんなっ!!!!!」
ラグが叫び、4人が跳ぶ。
「テトラブーストッ!!!」
「斬り込むっす!!!」
二人が十字に傷口を斬り開き、
「氷結砕ッ!!!」
魔法の氷塊が放たれ、突き刺さり、
「うおおぉぉーーッ!!!」
締めの槌が氷塊ごと額を叩き割る。
氷塊はさらに深く突き刺さり、脳をも貫き通す。普通の生物であれば、即死しててもおかしく……
「あれ?」
砂獣がピクリとも動かない。もしかして本当に死んだ?
あまりにも呆気なく終わったことで、その状況を信じれなくなっていた。だが間違いなくそれはうつ伏せに倒れ、頭からは血と共に脳みそまでもが溢れ出ていた。
うしろでは手を打ち合わせる音がする。
「やりましたな」
「いいフォローでした」
「いい感じにできたっすよ!」
「だいぶ成長しましたね」
部隊の名残なのだろうが、ペアで互いに褒め合っていた。なんとも微笑ましいと言えばそうだが、気を抜けずにいる俺がいた。
Lv.70で小さかったとは言え、中身はリンちゃんと同じ砂獣。奥の手くらいありそうなのに、こうもあっさり……
「ラグさん帰るっすよ!」
ランドが能力の都合により、帰宅の確認にやってきた。少し思い悩みはした。でも俺のそれは勘に近いし、直接確認すれば済む話だ。
「素材を剥いで来る。ちょっと待ってろ」
俺は軽く伝えて、そのあとに砂獣へ近づく。
息もなく、脈もない。口からは赤く濁った水が滴る。皮膚の温度は変わらないが、内側の肉はすでに冷え始めている。
注意深く確認しながら、丁寧に素材を剥いでいく。その際も動悸が止むことはなかったが、何事も起こることなく、解体作業は終わる。
「……帰るか」
ぼそっと呟き、素材をポーチに押し込める。それからみんなの輪へと戻り、ランドの能力で帰宅する。
転移する直前にも、映っていたのは変わらぬ死骸。それに群れるハイエナがいるだけの、食物連鎖の風景であった。
ーーークエストリザルトーーー
○所持金-【650.c】→【1,400.c】(4,500を6人で分割)
○評判-砂獣の討伐報告で冒険者や衛兵からの評判が上昇
自己評価-【10点】
起点は作れたかもしれないが、倒したのは6人隊のみんなだ。やっぱり完成しきった団体に混ざっても、置き去りにされるだけなんだな。
……にしてもあの砂獣ってやつ、呆気なさすぎて楽しめなかった。みんなの連携が強かったのもそうだが、俺の勘ではあんなの全力じゃない。
今度ひとりで手合わせしてみるべきか、それともフゥさんにリンちゃん経由で聞いてみようか……
(ryトピック〜砂漠の魔物たちその3〜
【プランダーハイエナ】平均Lv.25
いわゆる現実世界のハイエナと同種の個体。こちらは一回りほど大きい。
基本は5匹以上の集団で行動し、草食動物や生物の死骸を食い漁る。また戦闘時の協調性が強く、10匹を超えるとLv.50を超えた冒険者ですら手こずる、最悪餌になる。
危険性はそこそこ高いが、基本移動し続けるため、駆除依頼もあまり出ていない。しそもそも数が力になるタイプなので、好き好んで戦う輩も滅多にいない。
【砂漠魚】平均Lv.5
砂の海を泳ぐ魚。死骸や小動物を主食とする砂漠の掃除屋。
基本的には砂砂漠にのみ生息し、獲物の観点からも人を襲うことはない。ただし自衛はとことんするので、下手に手を出すと酷い目に遭う。
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