境目の物語

(ry

2と3の間の話

 時はサソリ退治を終えた日の夜。街にいた俺は今、革細工店を後ろにして、買った皮水筒に目をキラキラさせていた。
 そう、フゥさんに勧められた皮水筒を買ったのだ。ちなみに所持金の変動は


所持金-【3,050.c】→【50.c】


 持ち金はすっからかんになったが、別に後悔はしていない。だって金使わないし、水筒がないと干からびかねないし。


 そんな、言い訳じみたことを頭の中で呟いていた時。不意に、頭に固まったイメージが浮かび上がる。
 この感覚は………そう、初めて閃風斬を発現したときのようなもの。しかし今浮かんだイメージは技ではなく、行動理念のようなもの。たぶん流派。

 そう言うわけで早速ギルドカード、流派とスキルの面を開いてみる。



【所持流派】

○【奴隷派生】
 -【奴隷】Lv.MAX
  -【奉仕者】Lv.MAX
   -【親衛長】Lv.MAX
○【傍観派生】
 -【傍観者】Lv.MAX
  -【観察者】Lv.8
○【格闘派生】
 -【金欠流】Lv.MAX
  -【格闘流】Lv.1(new)




「………new?」

 見たことのない表示、困惑する俺。そこに1人の、近づく足音。
 俺は振り返り、それを見る。

 全身が影のように真っ黒、かと言ってトレードマークのニット帽もない、我道さんではない子供。
 しかしそのシルエットは俺と酷似し、髪が尾を引くとこまで全て同じ。強いて言えば、それは武器を持っていなかった。


「あんた誰だ?」

 尋ねる。しかし返答はな


《2日ぶりだね、ラグ》
「その声、ロトかッ!?」

予想外の返答と、その声の主。
 ロトの声は森の中で聞いてより、一切聞くことがなかった。だからてっきり機能停止したのかと………ん、機能停止?

 ふと頭に浮かんだその文字列。意味はわからないはずなのに、なぜか記憶の片隅に置かれていた。なぜ?これは本来の記憶?それとも別の?

 頭がひどく混乱する。そこにロトの声が割り込む。


《そのことは忘れて。君には話したいことがある》
「話したいこと?」
《あの時、君に何があったのか、だね》
「……ッ!!!」

 つい意識が鋭くなる。気になっていたこと、それを知る機会。俺は抵抗心も持たず、ロトの話を聞くことにした。





 二人はそばにあった階段にどっしり腰掛け、のんびりと話し始める。


《あの日、森に入った時、君は右腕をちぎられていた》
「そこでロトが、おかしくなったよな」

 思い起こし、口にも出してみる。あのあたりはどうも記憶が安定してないが、それだけはよく覚えていた。


《恐らく痛みによる記憶障害だね。
 そこを補足しておくと、君は腕を治すためにERを使用した。だけど異様な激痛に襲われて、精神崩壊すらもわずらいかけた。
もしヘキサに慈悲がなければ、君の旅は終わっていたと思う》
「マジかよ………何してんだ俺」

 ゾッとして、顔も青ざめるようだった。そんな様子を見てか、ロトは慌てて訂正を増やす。


《悪いのは君じゃない。森の性質も影響してたし、俺が【エマージェンシー】をつけ忘れたことが、何よりの原因だよ》
「そんなに大事なのか?そのエマージェンシーってやつ」
《大事も何も、あれなら痛覚遮断の作用がある。あの場で使っていれば、君が痛みを味わう必要もなかったんだよ》

 必至になって伝えるロトに、罪悪感すらも感じてしまう。だからそれ以上聞くことはできず、彼の息が整うのを待つのみだった。


《……ごめんラグ、話を戻すよ》

ロトは深呼吸を挟みながら言う。


《本当に言いたかったことは、君のちぎれた腕についてなんだよ》
「俺の腕?」

 首を傾げる。だってそれは、2日前に失っただけの、なんの変哲もない腕だ。今ごろ虫に食われているか、腐ってるかのどちらかだろう。


《甘く見ているようだけど、事はそうもいかない。これはあの時の激痛にも関係してるんだけど……》
「だけど……?」

 つい、ロトの長い溜めに合わせて声が出る。しかし次の瞬間、ロトはきっぱりと言い放った。


《君のERに合わせて再生した》


………は?再生した?

 信じられない。と言うか、信じて言い訳がない。
 でも彼の声は真剣さを保ったまま、さらに次へと続けられる。


《これはあくまで推測だけど、森という世界は君の腕がちぎれていないものとして働いていた。だから再生の際に、どちらも同じように再生した》
「つまりちぎれた右腕が、もう一人の俺になったと?」
《大体……そんな感じだ》

暗いトーンで告げられる。
 正直、頭がおかしくなる。だって俺が増えたということは、同時にどちらかが偽者になるということでもある。そんなの俺は認めない。でもきっともう一人の俺も、同じことを思っている。
 だから誤魔化すように喋る。


「で、でもあっちは森の中だ。生きているわけがない」
《普通はそう考える。でも最悪の場合彼は、かつての自分を思い出す。ワニを倒した時のあの力も、難なく使いこなすだろう》

 告げられるほどに、苦しさが湧き上がる。そんな奴と会えば、殺されるのは俺でしかない。そんなどうしようもない恐怖心が、心の底から湧いてくる。


《そこに悪いけど、お願いがある》
「まさか会え、とでも言うつもりか?」
《その通り。あれには俺の片割れが宿っている。合わさらない限り、君に語りかけることはできない》
「でも、会えば死ぬのは俺だろ。死ねってか?」
《そ、そんなつもりは……》

そこで一度静まる。
 かと思うと、ロトは不気味に笑い始めた。


《ふふふっ、そうだ。勝つのはあちらで、死ぬのは君だ》
「なっ!?」



《再開は◆◆◆◆◆◆だ。それまでせいぜい足掻くといいさ。君はまだ芸のない弱者なのだからねっ!!!》





………朝………


 俺は誰かの呼ぶ声に、沈んだ意識を引き上げられる。


「大分うなされていたが、大丈夫か?」

 聞き覚えのある低音の声。その主は多分ザイルさん。寝起きで視界がぼやけているが、ゴツゴツした手の感触からも、間違いはないだろう。

………あれ?じゃあ今俺、膝枕でもしてもらってる?

 ハッと気づき、すぐ起き上がる。
 急いで謝ろうと向きを変えるが、彼はとても不思議そうな顔で俺を見ていた。


「そんなに慌ててどうした? ここは夢ではないのだよ」
「分かってるよそれぐらい!」

 なぜか俺は逆ギレしていた。
 その行いに遅れて気づき、気まずい雰囲気がいやになる。だから俺は逃げるように、呼び止めも知らずにこの場を去っていった。





『no image の男に、2日続けて同じ夢』
「それに、うなされているはずなのに、夢を一切覚えていない」
『ギルマスがあれで大丈夫なのかザイル?』
「今は何とも言えんよ童子。でも予知夢の可能性が高い。もう少し様子見を手伝っておくれ」




(ryトピック〜【格闘派生】について〜

 この流派は金欠者がなりゆきで素手を極め、拳聖となったという御伽話おとぎばなしから生まれた流派。我流であるため指南書が存在しないが、本人の成長性を高める効果を持っている。

 なお、わざわざ金欠にならなくても、その気になれば派生流派【格闘流】から習得できる。
 ラグの場合は、能力が悪さして金欠流を意図せず乗り越えてしまったため、格闘流を習得している。

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