境目の物語

(ry

ギルドの幕開け

 ザイルさんにとんでもないことを言い放たれた俺は、驚きにクラっとして、危うく意識を失いそうになる。だがそこはなんとか堪えて、こちらから口を開く。


「なんで俺が……ギルドマスターってことになってるんだ?」

 落ち着いて聞くと、我道さんが答える。


『それについては決まったわけではないが……お前、ギルドの意志を継ぐとか言っていたのだろう』

「俺そんなこと言った!?」

『ああ言ったさ、常森のメモを読んでいた時にな』

「はっ! あの時か!!!」

 そこまで言われてようやく思い当たる。今思えば昨日の話だが、気分だけでそんなことを言っていたのだ。誰もいないから口にしていたが、よもや我道さんに盗み聞かれていたとは


〔いえ、僕です〕

「んんっ!!?」

 いきなり視界に文字が写し出され、椅子ごと俺はひっくり返る。その時ふと、あたまに乗っていたニット帽が外れる。だがそれは、ニット帽にしてはあまりにも、重かった。

 すぐに俺は、振り向く。
 そこにあったのは、黒いニット帽ではなかった。というか、あったではなく、居ただった。


「お、お前まさか……!」

 あまりの驚きに、声が震える。
 そこに居たのは、全身に目玉のような模様のついた巨大な蜥蜴。ヒャクメオオトカゲ、もといグールドモニター。

…そう、グリッチさんがいつも頭に乗せていた、あのトカゲである。


『姿、見せても良かったのか?』

〔はい、彼はホンモノなので〕

 我道さんが問いかけると、トカゲは背中に文字を浮かべて答える。それから椅子の足をよじ登って、テーブルの上に位置取る。


〔喋るのは初めてですね。僕はグル、グリッチ兄さんの弟にあたるものです〕

 テーブルに文字を浮かべることで、俺に自己紹介をするグル。そんな様子に驚きを隠せない俺は、数テンポ遅れた返答をする。


「…あ、ああよろしく。もしかしてあの時檻に文字を出していたのはグルなのか?」

〔はい。兄さんと違って喋れないので、あのような形で〕

 そうだったのか、と納得する。だからこそ二人が何者なのかが気になるところだが、今はそれを聞く時ではないようだ。そう言っているかのように、我道さんが口を開く。


『それでだが、ラグにはギルドマスターになってもらおうと思っている。と言っても、いま任せたいのは呼び込み仕事だがな』

「呼び込み? つまり各地の人を、俺たちのギルドに勧誘するってことか」

『そうだな。グリッチや常連のように、書類作業をしろってわけではない』

「なんだそういうことか」

 それを聞けて、ホッとする。自由でいられることが一番な俺にとっては、持ってこいの役割だろう。


「でもそれなら、なんで俺がギルドマスターなんだ?」

『それはもちろんラグの性質がメンバーにどんな作用を及ぼすのか気になっ………あ、いや今のは忘れろ。まだ言う段階ではない』

 あまりにも意味ありげな言葉が、我道さんの口からこぼれでる。さすがにこれはと思い聞こうとする俺だったが、我道さんは強引に阻止してくる。


『よし、引き受けてくれるならこいつをやろう』

 焦り気味な我道さんは、あろうことか隠そうともせずに、何もないところから十文字槍を出す。いや、何かから取り出すようにも見えた。


「どうやったんだ?今の」

 尋ねるとすぐに、我道さんの顔に汗が浮かぶ。肌が黒すぎて判別できないが、たぶん顔は真っ青になっている。そんな反応があまりに露骨すぎて、次どう聞くべきかも分からなくなる。
 すると我道さんはいきなり俺の肩を掴み、超至近距離で言葉を言う。


『お前は私が丹精込めて仕上げた十文字槍を受け取り、ギルドマスターになり、いま見たことを忘れる。いいな』

「あ、はい」

 何この怯えた強盗とのやり取りみたいなの。と、心の中では思いつつ、俺はその槍欲しさに承諾する。
 そして、全長2メートルくらいで扱いやすそうな槍を、がっちりと掴んで受け取った。


『よし、いい子だ。それでは話しを戻すぞ』

「えっ、あ、そうだったな」

 ついつい槍に見入っていたが、今するのは新ギルド設立についての会議であった。俺はすぐに槍を置き、会議に臨む体勢を整えた。





『では気をとりなおして会議スタート。ザイルさん、世界地図を頼む』

「おうよ、待っていろ」

 我道さんの呼びかけに応じて、ザイルさんが鞄を漁る。そして取り出したのは、1メートル平方の正方形に近い形をした羊皮紙。それをテーブルに広げると、地域ごとに色分けされた地図が展開される。


「この黄色い部分が、私たちのいる砂の交易街と砂漠の全域。それから一つ上の碧色の部分が、君がいた大森林だ」

 ザイルさんが、地図の中心付近を指しながら説明する。
 たしかにそこには黄色い土地が広範囲にわたっており、その中央ひとつ上には碧色の土地が曖昧あいまいに描かれていた。また大森林の下部以外は青色の土地に接しており、水関係のなにかであることを示唆しているようであった。


『それで、この場所が【双翼大国アグリネイト】。ラグの旅における目的地だな』

 我道さんが、青色部分のひとつ上、黄緑色の土地を指して言う。
 広さ的には砂漠と同じくらいだが、中央を青色の線……川か何かが横断しており、そこを対照的に灰色に塗られた部分もある。なんとも特徴的な地形である。


『で、ギルドを設立する場所についてだが……、この辺りを予定している』

 喋りながら我道さんの指が這い、アグリネイト右寄りの位置でピタッと止まる。右側にある灰色の部分から、さらに右にスライドした位置である。


「なんでここなんだ?」

「それはここが未開の土地、未だ誰の手にも渡っていない土地であるからだな」

 俺がとりあえずで質問してみると、ザイルさんが答えてくれる。しかしながら、資源が豊かそうな地形に未開の土地があるとは意外なものである。でもここを狙うってことは……


「他の奴らと競争でもするのか?」

 思い切って尋ねる。すると今度もザイルさんが、笑って答える。


「カッハッハ、その心配はいらん。なんたってここは【右翼国家デイリー】の真横に位置してなお、未開であり続ける場所だ。ただでさえ国が取れない土地を、命を賭けてまで取ろうとする無謀人はそういないからな」

「そんなに危険な場所なのか……。
でもそんな場所を、俺たちだけで取れるのか?」

 関心して頷きながら、さらに質問する。すると今度は我道さんが、返答に応じる。


『もちろん、今のままでは不可能だ。だがラグが今より強くなれば、それも十分可能な話。なんなら人手が集まれば、より現実味を増すだろう』

「だから俺の、ギルド勧誘ってわけか」

『その通り。やる気、湧いてきただろう』

「ああ、これは面白そうだ」

 しっかりと役割の理由が伝えられ、俺のやる気に火がつく。今度は嫌々といった気分もなく、新たな役割に打ち込めそうだ。



 気合いがみなぎる中、会議で話すことも一通り片付いたらしい。


『それでは会議も十分だな。ザイルさんもとい経営顧問、言っておくことはあるか?』

「そうだな……、経営の話はまた今度の機会にしよう。今は宣伝が先決だ」

 我道さんが確認を取り、ザイルさんは思考を巡らせながら頷く。それを確認してから、話の締めに入ろうとする。するとちょうどいいタイミングで、砲剣を持ったヘキサと後5人がやってくれる。


「我ら第六部隊も一員なのですから、忘れないでくださいよ」

「ヘキサもメンバーなのか!!」

「そうっすよギルドマスター!」
「我々も命の恩人である我道さまへの奉公として」
「ギルドなるものを盛り上げさせていただきます!」
「だからノナたちのこともよろしくね!」
「あーはいはいよろしくお願いします」

 6人ともが、個性あふれる気合いを見せる(そうでないのもいた気がするけど)。その様子に俺の胸が高鳴り、興奮ではちきれそうになる。


「では最初のときを上げるとしよう。みな円陣を組め!」

 ザイルさんがノリで案を出し、テーブルを囲うように丸く陣を作る。


『言葉はラグに任せる。一発いいのをかましてやるといい』

「ああわかった!」

 我道さんの言葉に従い、大きく息を吸う。そしてッ!!


「ギルドの設立目指して頑張るぞ!!!」

「『〔おおおーーーー!!!!!〕』」

 その掛け声と共に、俺たちの新しいギルドが幕を開けた。
 絶対にすごいギルドになる。それまでの道のりも想像できないほど充実したものになる。

 それを俺は、確かに予感していた。




(ryトピック〜新ギルドについて〜

 経営方針も正確な建設予定地も定まっていない、まだ形のないギルド。言っているだけなので、組織としての力もない。
 ギルドマスター(立場は創設者)であるラグレス・モニターズを筆頭に、
○謎の師匠ポジ我道さん
○経営顧問の竜人商人ザイル
○不思議なトカゲのグル
○元師団隊長のヘキサ
○その妹に当たるノナ姫
○新天地に期待するランド
○氷魔法の見せ場に心踊るカイ
○国にいる家族を心配するゴルド
○早く研究に戻りたいアル
の計9人+1匹で構成されている。

 無論、この中で営業の役を担えるものは少ない。そして未開の土地を切り開く人手も足りない。
 だからこそ、彼らの最初の目的は人手集めであり、ギルドへの勧誘である。

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