境目の物語
第2章【魄の少年、魂の少女】
「………ん、……ちゃん、…いちゃん、にいちゃん!」
「なんだ?」
どこからともなく、俺を呼ぶ子供の声がする。でも確か俺って、砂に突っ込んで気絶したはず。声なんて聞こえるわけがないんだが……
「にいちゃん、起きて!」
「起きてだって?気絶してるんだから、起きるも何もないだろ」
何者かの声に、完全自分目線の答えを返す。でも相変わらず声は聞こえ続けてるし、そもそも思考が働いている。もしかして、気絶してるわけじゃない……?
状況がまったく読めない。だから俺は行動を起こすため、目を開けてみることにした。
目を見開くと、豊かな野原の光景が広がる。本当に何もない、のどかな野原が……
「にいちゃん!」
「うわっ!?」
右からの一声に驚き、ビクッと跳ねる。でも何でこんなに驚いたんだろうか。声は目を開ける前から聞こえてたのに、その主もすぐ横にいるのに。
……すぐ横に声の主が?
俺はハッとなって、すぐに右を向く。だがそこには誰もいない。それにさっきから変だったことがある。声は聞こえてるのに、主の気配が一切ない。
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
今度は後ろから声が3人分、揃って聞こえる。だが振り返っても、やっぱりそこには誰もいない。
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
あらゆる方向から声だけが響く。その数は次第に増えて、重なり、まとまっていく。それはもはや耳を劈くだけでは収まらず、精神すらも侵蝕していく。
「にいちゃん!」
うるさい……
「にいちゃん!」
うるさい、
「にいちゃん!」
うるさいうるさい
「にいちゃん!」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
「………・…ラ……スにいちゃん!」
「うるさいッ!!!!!」
張り上げるような叫びと共に、目を覚ます。声は壁に乱反射して、余計に耳を劈く。額は汗にびっちょり濡れて、脈拍は痛みを伴うほどに加速している。
今のはなんだ?それに最後、ノイズが混ざっていたような……
「君、大丈夫?」
「ひっ!?」
横から聞こえた声にひどく驚いて、またもビクッと跳ねる。さらに、過敏に反応してしまったがために、反射的に飛び退いて背後の壁と激突してしまう。
「くっ痛ってて…」
痛みがじんじんと背中に応える。でもこの感じからして、少なからず今いるのは現実。悪夢の続きじゃないのなら、いったん落ち着いた方がいい。
その判断に従って、まずは深く呼吸をする。鼓動を落ち着かせるように、ゆっくりと。
それが終われば、次は状況の確認。ここが室内だと仮定するとして、まずは声を掛けてくれた人物を確かめなければ。
そういって視線を、声のした方へと向ける。ちょうど部屋の出入り口になっているところに、そいつは立っていた。
だがその全身を視認した瞬間、全身をゾーッとした寒気が襲った。自身の顔が青ざめていくのが、感覚だけでわかるようだった。
なぜならそいつは、見たことのない素材からなる服装と帽子に身を包み、顔には気味の悪いマスクを着けていた。極端に露出が少ないせいで人攫いか何かにしか見えないし、背おっている筒状の何かに関しては悪夢の影響もあって、俺の知らない部類の凶器にしか見えなかった。
「どうしたの、そんなに怯えて……って、あああっ!! ごめんなさい!」
そいつは心配するような素振りを見せたと思うと、突然謝り始めた。もちろん、俺の頭には?の文字しか浮かばない。状況に関しても、まったくわからない。
すると今度、彼女は急いで背中のそれを床に下ろし、帽子とマスクに手を掛け……、そして勢いよく、それらを脱ぎ捨てた。
頭にまとっていたものを全て脱いだことで、真っ白な長髪がぶわっと広がる。白くて美しい肌をした顔が露わになり、曇り一つない紅色の瞳がパチリ見開かれる。
俗に言うアルビノってやつなのだろうけど、まさかこんなに美しいものだとは……
「これ防塵マスクって言って、砂とかが目に入らないようにするための……あれ、ぼーっとしちゃって、どうしたの?」
「……えっ? ああ、わるい。あまりにも美しいものだから、つい。」
「あら、君もそう言ってくれるんだ。ふふっ、ありがと。君も十分かわいいよ。」
めずらしく心の声がそのまま出てしまったが、そこから思わぬ話が展開されていった。……何について話してたんだっけ?
「そういえば、ここはどこだ?」
俺はまず聞いておきたかったことを尋ねる。
「ここ? ここはテント付きサドルの中だよ。今は【砂の交易街】に向かってるの。あ、それと自己紹介もだね。
私はフゥ、この子はリンちゃん。私たちは2人で協力して、君たちみたいな砂漠の遭難者を救うお仕事をしてるの。」
「俺を助けてくれたのか!? なら救ってくれてありがとう。」
彼女に救われた真実を知った俺は、すぐにお礼の言葉を返す。正直なところ、どうやって砂から抜け出せばいいのかわからなかったから、とても助かった。
「あ、でもちょっと待て。砂漠ってのは何だ? そもそもリンちゃんってのはどこにいるんだ?」
俺は素朴な疑問を尋ねる。場所はともかく、人らしきものは俺たち以外見当たらないし………
「あー、森の内人は砂漠を知らないのね。ならちょうどよかった。嵐も止んだところだし、外を眺めに行きましょう。」
「外を!? 見たい見たい!!」
嬉しいことに、疑問が大きな進展を生んでくれた。もちろん俺は彼女に誘われるままに、出入り口に向かう。そしてフロントドアをバサッとめくり、外の光景を目の当たりにする。
まず俺の目に入ってきたのは、全面を埋め尽くすような黄色の大地。
「なんだこりゃ!? まさかこれ、全部砂なのか!?」
まったく新しいそれに、驚きと興奮が抑えられない。だって今まで見たことがある砂なんて、遊び場にあるものくらい。よくて河川にあるものであり、ここまで大規模なものは見たことがなかった。
それによく見ると、緑色の植物がポツポツと生えている。もしゃもしゃした植物が基本のようであるが、中には丸くて棘が付いたものもあり、ものによってはそれが細長く伸びている。
「あのトゲトゲしたのはサボテンね。ここでは水の供給源にもなってる不思議な魔物なの。」
「そうなのか……って、いま魔物っていわなかったか!?」
「そうだよ。だってあれ、サボテントレントっていう名前の魔物だもの。それに、ちゃんとあそこにお母さんっぽいのもいるよ。」
フゥさんが右後方を指差して言う。俺もその方向を見てみるのだが、なんと驚くことにそこにあったのはサボテン。しかも、超巨大などでは収まりきらないほどのデカさを持っている。
距離的には優に100ミルスを超えているはずだが、てっぺんが見えない。というか、雲を貫いて伸びている。あれ……動くの?
さすがに怖気付くしかなかった。でもフゥさんは笑って、「怖がらなくてもいいよ。あれは動いても1日1センチくらいだから。」と言ってくれた。
そのおかげでホッとすることができた俺は、次の質問に移る。
「ところで……リンちゃんってのはどこだ?」
「ふふっ、足元を見てみて。」
「足元?」
俺は言われた通り、下のほうを見る。だがそこには丈夫な革でできた床があるくらいで……ん?
ふと、小さな揺れを感じる。それは決して地震などではなく、どちらかと言えば生き物が動く時のような……
「はっ!! まさか!?」
俺はリンちゃんのありかに気づき、サドルの前方反り上がっている部分の先へと登る。そしてその身体を拝むのだが、
「えええぇぇーーーーーっ!!!!!」
驚きの声が止まらない。なぜならそのリンちゃんってのは、ウーパールーパーみたいな形をした動物だったからだ。しかも、背中にテントを張ってもスペースが余るぐらいの巨体を持った……
「驚いたでしょ。この子がリンちゃん、私の大の親友よ!」
「いやいや、どういうことなんだこれ!!?」
驚きのあまり、思考がまとまらない。えっ? これと? 親友だって!? どうしたらこんなやつと……
俺にはとてもじゃないが、理解できる領域ではない。
でも多分、ここはそういうところなのだろう。
新たなる砂の土地、見たこともない植物に、心を滾らせるような生物の数々。それらが待ち受けるこの場所こそが、俺にとっての新たな旅を与えてくれる。
それら全てが好奇心を刺激し、膨れ上がるのを感じながら、俺はこの獣の背中で揺られるのであった。
(ryトピック〜フゥとリンについて〜
アルビノな女性フゥさんと謎の獣リンちゃんは、2人(1人と1匹)で一つの救世主。チーム【風鈴救助隊】を結成してより5年、数々の遭難者を街へと運んできたエリート救助員である。
リンちゃんが獣特有の【獲物察知】で遭難者を探し、フゥさんが能力【千里眼】(1000ミルスレンジで任意に意識した地点座標のみを遠隔視する能力)を用いて正確な位置を突き止める。
大雑把な地点しか割り出せないリンちゃんと、元となる地点座標がなければ能力を行使できないフゥさんの奇跡のコンビネーションが、救世主としての実力を最大限に発揮している。
「なんだ?」
どこからともなく、俺を呼ぶ子供の声がする。でも確か俺って、砂に突っ込んで気絶したはず。声なんて聞こえるわけがないんだが……
「にいちゃん、起きて!」
「起きてだって?気絶してるんだから、起きるも何もないだろ」
何者かの声に、完全自分目線の答えを返す。でも相変わらず声は聞こえ続けてるし、そもそも思考が働いている。もしかして、気絶してるわけじゃない……?
状況がまったく読めない。だから俺は行動を起こすため、目を開けてみることにした。
目を見開くと、豊かな野原の光景が広がる。本当に何もない、のどかな野原が……
「にいちゃん!」
「うわっ!?」
右からの一声に驚き、ビクッと跳ねる。でも何でこんなに驚いたんだろうか。声は目を開ける前から聞こえてたのに、その主もすぐ横にいるのに。
……すぐ横に声の主が?
俺はハッとなって、すぐに右を向く。だがそこには誰もいない。それにさっきから変だったことがある。声は聞こえてるのに、主の気配が一切ない。
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
今度は後ろから声が3人分、揃って聞こえる。だが振り返っても、やっぱりそこには誰もいない。
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃん!」
あらゆる方向から声だけが響く。その数は次第に増えて、重なり、まとまっていく。それはもはや耳を劈くだけでは収まらず、精神すらも侵蝕していく。
「にいちゃん!」
うるさい……
「にいちゃん!」
うるさい、
「にいちゃん!」
うるさいうるさい
「にいちゃん!」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
「………・…ラ……スにいちゃん!」
「うるさいッ!!!!!」
張り上げるような叫びと共に、目を覚ます。声は壁に乱反射して、余計に耳を劈く。額は汗にびっちょり濡れて、脈拍は痛みを伴うほどに加速している。
今のはなんだ?それに最後、ノイズが混ざっていたような……
「君、大丈夫?」
「ひっ!?」
横から聞こえた声にひどく驚いて、またもビクッと跳ねる。さらに、過敏に反応してしまったがために、反射的に飛び退いて背後の壁と激突してしまう。
「くっ痛ってて…」
痛みがじんじんと背中に応える。でもこの感じからして、少なからず今いるのは現実。悪夢の続きじゃないのなら、いったん落ち着いた方がいい。
その判断に従って、まずは深く呼吸をする。鼓動を落ち着かせるように、ゆっくりと。
それが終われば、次は状況の確認。ここが室内だと仮定するとして、まずは声を掛けてくれた人物を確かめなければ。
そういって視線を、声のした方へと向ける。ちょうど部屋の出入り口になっているところに、そいつは立っていた。
だがその全身を視認した瞬間、全身をゾーッとした寒気が襲った。自身の顔が青ざめていくのが、感覚だけでわかるようだった。
なぜならそいつは、見たことのない素材からなる服装と帽子に身を包み、顔には気味の悪いマスクを着けていた。極端に露出が少ないせいで人攫いか何かにしか見えないし、背おっている筒状の何かに関しては悪夢の影響もあって、俺の知らない部類の凶器にしか見えなかった。
「どうしたの、そんなに怯えて……って、あああっ!! ごめんなさい!」
そいつは心配するような素振りを見せたと思うと、突然謝り始めた。もちろん、俺の頭には?の文字しか浮かばない。状況に関しても、まったくわからない。
すると今度、彼女は急いで背中のそれを床に下ろし、帽子とマスクに手を掛け……、そして勢いよく、それらを脱ぎ捨てた。
頭にまとっていたものを全て脱いだことで、真っ白な長髪がぶわっと広がる。白くて美しい肌をした顔が露わになり、曇り一つない紅色の瞳がパチリ見開かれる。
俗に言うアルビノってやつなのだろうけど、まさかこんなに美しいものだとは……
「これ防塵マスクって言って、砂とかが目に入らないようにするための……あれ、ぼーっとしちゃって、どうしたの?」
「……えっ? ああ、わるい。あまりにも美しいものだから、つい。」
「あら、君もそう言ってくれるんだ。ふふっ、ありがと。君も十分かわいいよ。」
めずらしく心の声がそのまま出てしまったが、そこから思わぬ話が展開されていった。……何について話してたんだっけ?
「そういえば、ここはどこだ?」
俺はまず聞いておきたかったことを尋ねる。
「ここ? ここはテント付きサドルの中だよ。今は【砂の交易街】に向かってるの。あ、それと自己紹介もだね。
私はフゥ、この子はリンちゃん。私たちは2人で協力して、君たちみたいな砂漠の遭難者を救うお仕事をしてるの。」
「俺を助けてくれたのか!? なら救ってくれてありがとう。」
彼女に救われた真実を知った俺は、すぐにお礼の言葉を返す。正直なところ、どうやって砂から抜け出せばいいのかわからなかったから、とても助かった。
「あ、でもちょっと待て。砂漠ってのは何だ? そもそもリンちゃんってのはどこにいるんだ?」
俺は素朴な疑問を尋ねる。場所はともかく、人らしきものは俺たち以外見当たらないし………
「あー、森の内人は砂漠を知らないのね。ならちょうどよかった。嵐も止んだところだし、外を眺めに行きましょう。」
「外を!? 見たい見たい!!」
嬉しいことに、疑問が大きな進展を生んでくれた。もちろん俺は彼女に誘われるままに、出入り口に向かう。そしてフロントドアをバサッとめくり、外の光景を目の当たりにする。
まず俺の目に入ってきたのは、全面を埋め尽くすような黄色の大地。
「なんだこりゃ!? まさかこれ、全部砂なのか!?」
まったく新しいそれに、驚きと興奮が抑えられない。だって今まで見たことがある砂なんて、遊び場にあるものくらい。よくて河川にあるものであり、ここまで大規模なものは見たことがなかった。
それによく見ると、緑色の植物がポツポツと生えている。もしゃもしゃした植物が基本のようであるが、中には丸くて棘が付いたものもあり、ものによってはそれが細長く伸びている。
「あのトゲトゲしたのはサボテンね。ここでは水の供給源にもなってる不思議な魔物なの。」
「そうなのか……って、いま魔物っていわなかったか!?」
「そうだよ。だってあれ、サボテントレントっていう名前の魔物だもの。それに、ちゃんとあそこにお母さんっぽいのもいるよ。」
フゥさんが右後方を指差して言う。俺もその方向を見てみるのだが、なんと驚くことにそこにあったのはサボテン。しかも、超巨大などでは収まりきらないほどのデカさを持っている。
距離的には優に100ミルスを超えているはずだが、てっぺんが見えない。というか、雲を貫いて伸びている。あれ……動くの?
さすがに怖気付くしかなかった。でもフゥさんは笑って、「怖がらなくてもいいよ。あれは動いても1日1センチくらいだから。」と言ってくれた。
そのおかげでホッとすることができた俺は、次の質問に移る。
「ところで……リンちゃんってのはどこだ?」
「ふふっ、足元を見てみて。」
「足元?」
俺は言われた通り、下のほうを見る。だがそこには丈夫な革でできた床があるくらいで……ん?
ふと、小さな揺れを感じる。それは決して地震などではなく、どちらかと言えば生き物が動く時のような……
「はっ!! まさか!?」
俺はリンちゃんのありかに気づき、サドルの前方反り上がっている部分の先へと登る。そしてその身体を拝むのだが、
「えええぇぇーーーーーっ!!!!!」
驚きの声が止まらない。なぜならそのリンちゃんってのは、ウーパールーパーみたいな形をした動物だったからだ。しかも、背中にテントを張ってもスペースが余るぐらいの巨体を持った……
「驚いたでしょ。この子がリンちゃん、私の大の親友よ!」
「いやいや、どういうことなんだこれ!!?」
驚きのあまり、思考がまとまらない。えっ? これと? 親友だって!? どうしたらこんなやつと……
俺にはとてもじゃないが、理解できる領域ではない。
でも多分、ここはそういうところなのだろう。
新たなる砂の土地、見たこともない植物に、心を滾らせるような生物の数々。それらが待ち受けるこの場所こそが、俺にとっての新たな旅を与えてくれる。
それら全てが好奇心を刺激し、膨れ上がるのを感じながら、俺はこの獣の背中で揺られるのであった。
(ryトピック〜フゥとリンについて〜
アルビノな女性フゥさんと謎の獣リンちゃんは、2人(1人と1匹)で一つの救世主。チーム【風鈴救助隊】を結成してより5年、数々の遭難者を街へと運んできたエリート救助員である。
リンちゃんが獣特有の【獲物察知】で遭難者を探し、フゥさんが能力【千里眼】(1000ミルスレンジで任意に意識した地点座標のみを遠隔視する能力)を用いて正確な位置を突き止める。
大雑把な地点しか割り出せないリンちゃんと、元となる地点座標がなければ能力を行使できないフゥさんの奇跡のコンビネーションが、救世主としての実力を最大限に発揮している。
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