境目の物語

(ry

新たな旅が幕を開ける

 それからも虫達の強襲は続く。
 時に130レベのアリの軍勢に押しかけられて、ある時は頭上から320レベの大グモに襲われて、またある時はムカデ十数匹に囲まれる。

 でもその度に突風が吹きすさび、豆知識とともに奴らを斬り裂いていく。一応例を挙げておくと、

『どこから攻められてもいいように警戒しておけ』
『高く飛びすぎるとトレントに串刺しにされるから、上には行かないように』

……って感じだったかな。
 思い返せば相当やばい状況だったのだが、その時の俺はそこまでの恐怖を感じていなかった。きっと、我道さんの安心感が俺たちを強く包み込んでいたのだろう。



 そして戦闘開始からおよそ3分経った今現在。

 突風により霧が晴れて、十分通るようになった視界。周囲一帯を埋め尽くす虫の残骸に、無造作に飛び散った奴らの体液。それらが強烈な悪臭を放ち、軽く眩暈を起こしそうにもなる。
 そんな状況にあるこの場。残骸の陰から不意に、1匹の生物が姿を見せる。

「……ッ!!?なんだあれ!!」

 そいつの頭は蛇のようにシュッとしていたが、後頭部からドス黒いツノが計4本、左右対称に生えている。

 首から腹部までは、カマキリのようなキチン質になっているが、胴体はスッポンに似たような構造。

 背中には骸の翼が備わっており、側面にはヒレのような形の前足が2本、昆虫のような形の後ろ脚が4本。

 さらに後端には、女王アリのようにでっぷりと太った尻尾が生えており、その先端にあるチューブ状の穴からは、紫に濁った煙が漏れ出ている。


 のんびり観察してしまったが、最低限それは普通の生物ではない異形。虫ばかりのこの森において、それはあまりに例外的な存在だった。しかも何故か、レベルが見えない。


『ようやく【地這いの死神クリーパー】が来たな』

 なにやらホッとした様子の我道さんが、地面に砲剣を突き立てながら言う。

 ギシギシッ!

「ッッ!!?」

 我道さんの、その動作の意図も汲み取れぬまま、化け物から骨を軋ませるような音が聞こえてくる。よく分からぬ恐怖に立ち尽くしていると、奴がこちらに尻尾の先端を向けてくる。
 チューブ状の先端はきゅうっとすぼまり、徐々に膨らみを持ち始め……


 そしてドバーーッと中身が吐き出される!!!


 そのとき、ふわっと体が浮き上がり、少し上へと持ち上げられる。気づくと俺とヘキサは我道さんに、それぞれ肩に掛けられるようにして抱えられていた。
 さらに頭の中に、我道さんの声が響き始める。


《たびたびで悪いが、念話を借りる。聞こえてるなら目をつぶってくれ》

「目? なんで?」

《今から全速力で逃げるから、だ!!!》

「逃げるって……うわぁっ!?」

 俺が聞き返すよりも先に、我道さんが走り始める。そのスピードは凄まじく、処理しきれない視界は激しく歪んでいく。
 しかもルートは煙の真上。原理云々うんぬんは置くとして、なぜそんなところを進むのかが分からな


《殺虫剤代わりだ。ここの虫たちはひとたび敵対すれば、こうでもしない限り追い払えない。あと煙は吸うなよ、二度と人には戻れなくなるぞ》

「えっ!?それってどういう……」

《知らない方がいい。あれらはそういう厄災カラミティーだからな。》

「おう……」

 厄災……か。何か深い意味でもありそうだが、現段階では見当もつかない。それは意味通りな森の生態系をあらわしているのか、それともクリーパーそのものを指しているのか。


《まあそれについては時が来たら必ず話そう。ちょっと飛ばすぞ、爪を立てない程度に掴まってろ》

 我道さんはサクッと話を切り上げたのち、さらにそのスピードを上げる。もはや音すら拾えないが、俺は念話で言われた通りしっかりとしがみついた。





 それからさらに多少の時が流れ……


《……ラグ、少し頼みができた。》

 さっきまでの悠長さから一転、深刻な雰囲気の我道さんが語りかけてくる。


「どうしたんだ?」

《今のままではチャンク替えに間に合いそうにない。》

「間に合わなかったらどうなるんだ?」

《森の座標が無茶苦茶にかき混ぜられて、外側に出る以前に、生きて帰ることすら困難になる。
 最悪の場合、疲れ果てたところを虫にたかられて腹わたをかき混ぜられ四肢をバラされ死ねない苗床にされさらには》

「もうその話はいいです!!! てかどうするんですか!?」

 話を割るようにして手段を尋ねる。でも我道さんのことだ、頼みってのを聞けば解決できるのだろう。

《お前ら二人をぶん投げて外に出す、それが一番の策ではあるな》

「つまり………投げさせろと?」

《その通りだ》

 俺たちだけぶん投げて森の外に、か。これ以上のスピードで投げられるとなると、怖いったらありゃしないが……断れば間違いなく死ぬよな。

 そういうわけで、結局答えは一つのみ。俺は我道さんに投げてもらうようお願いする。


「でも、それだと我道さんはどなるんだ?」

《私か? 虫たちと過ごす時間が延びるだけだな。
 なに、心配はいらない。下手しても再開が3日後になるだけだ。それに、常連の盾も回収しなければならないからな。はははは!》

 再び悠長さが戻った声で告げる。
 その後に足蹴りで毒煙を割った上で、我道さんは一気に高度を下げる。そして宙で三回転ほど回り、


《クッションはふかふかの砂地だ、受け身は取れよ。新たな旅へレッツゴーだッ!!!》

 瞬時の言葉掛けの後に、俺たちを思いっきりぶん投げた!!!


「うわあぁーーーッ!!?」

 俺は今までにないくらいの速さで飛ばされる。相対的に流れる豪風が、髪も服も、さらにはズボンまでも荒々しくなびかせる。

 そして陰りの暗さから一転し、金色の光がまぶたを貫く。ついに森を抜けたのだと、喜びに満ち溢れる。
 だが……

「……これ、どうやって受け身を取れと?」

 ふと思う。だってスピードの関係上、目が開けられない。砂地が地面だとしても、どの位置にどの傾きであるのかが分からない。それでは受け身の取りようが


ドサーーッ!!!!!


 響く轟音とともに、砂に突っ込んだ。その衝撃は凄まじく、わりと万全であった意識も、一瞬にして吹き飛ぶ。
 でも俺は、こころの中で確信していた。


 ここから、新しい旅が始まる


 第1章【出始めは蛙】完

それと、第2章へつづく………




(ryトピック〜森の虫紹介その2〜

巨大蜘蛛ヒュージスパイダー】平均Lv.330

 木の上で暮らし、たまたま下を通った哀れな生物を食らう、背丈2メートル強の大グモ。同じく暗殺によってのみ獲物を捕らえる蟷螂兵士のことをライバル視しているが、互いに虫なのでその意図が伝わっているかはわかっていない。
 基本は木上からの強襲を武器とするが、蟷螂兵士と違って正面衝突もこなす。その際は毒牙による特殊な神経毒により、獲物の動きを封じつつ鮮度を保ってストックする。

 木登り主体のため糸は持たないが、毒の鮮度保持性能に結構な需要あり。余裕があれば回収しておきたい。


【流星ホタル】平均Lv.200

 光の半分くらいのスピード(推測)で飛び回り、美しい光の軌跡を描くホタル。音速を超えて動くものを好敵手として認識し、突進をかます性質がある。
 貫かれればもちろん痛いじゃ済まないが、軽量のため硬いものには打ち負ける。鉄板を構えておくだけも倒せるが、それだけでは経験にならない。

 実は我道さんが毒煙を利用することになったのは、ほとんどこいつが原因。あれがなければ全員貫かれて再起不能に陥っていたんだとか、そこまでにはならないんだとか………

気絶蝶スタンバタフライ】平均Lv.120

 魔力による障壁を展開しているらしく、肉眼のみで視認する事はできない蝶。障壁の二次効果により、魔法への耐性が高い。
 自身の真下にいる生物の意識を揺さぶる羽音を立てることができ、数が増えるほど気絶へと近づいていく。1匹2匹ならなんとか意識を保っていられるが、3匹以上ではほぼ不可能。そこからさらに増えると意識障害などのオーバーキルまでしてくる、大変危険な存在である。

 風の噂によると、森の中における事故死の7割はこいつらが原因なんだとか。


地這いの死神クリーパー】平均Lv.???

 不明。

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