境目の物語
…色原我道は道を照らし、
『……ラグ、そろそろ離してくれないか?
こうしていられるほど、ここの虫たちは甘くないのだが。』
「ん? あ、悪い。」
我道さんに言葉を投げかけられて、ようやく気持ちが切り替わる。俺が抱きしめる力を弱めると、自然と彼は離れていく。
と思いきや、俺の顔面に一枚の紙が押し付けられる。
『M・M術式【回生術】起動っと』
我道さんが、紙に精神力を込める。するとそれは青白い炎を上げて燃えていき、チリとなって俺の身を包み込む。
そしてちょうど、首筋のあたりから全身へと、隅々まで何かが澄み渡るような感覚に襲われる。とても心地いい感覚だ。不調だった右腕も不自然なく動かせるようになり、後頭部の痛みも和らぐように感じられる。
『ヤブ医者虚さ………あ、いや、私の知り合いが得意としている治療技、回生術の簡略版だ。完治するまでここで休んでおくといい。』
「わかった。で、さっきの言」
俺は彼の指示に応えつつ、気になったそれを指摘しようとする。が、ほとんど口にする間もなく、彼の姿が霞む。
直後、軽めの斬撃音があらゆる方向から鳴り響き、幾重にも重なって聴こえてくる。しかもその後には羽の散る音までも聞こえてくる。
「まさかこれ、全部我道さんが!?」
とか思っていると、今度は人ひとりが俺の方へ放り投げられる。
「なんだなんだ!?
……ってこの人、もしかしてヘキサ?」
俺が判断に迷うにも無理はない。だって今この人は、鎧を着ていなかった。ありのままに言えば、ずいぶんと軽い鎖帷子を着た全身黒こげの白髪青年が、こちらへ放り投げられたのだ。
『ついさっき命まで狙われていたところ悪いが、ヘキサもご一緒させてやってくれ』
再度姿をあらわした我道さんに、頼みごとをされる。だがちょっと待て、
「えっ? 今なんて? 師匠って言わなかった?」
『言ったさ。気になるのであれば、森を抜けた後で話そう。まあ……その時が来ればだが、な!』
彼はそう言い切ると同時に力を込め、ふたたび姿を消す。でも今、俺は確かに見た。我道さんが、ヘキサの砲剣を握っているのを。
『次はこれか、セルフドライブ!!!』
今度はコンパクトな感じの技名を、叫ぶ声が聞こえてくる。だがそれとは裏腹に、鈍器で叩き潰すような打撃音が鳴り響く。流れるように続く鈍い音は、木々に叩きつけられる音か?
さっきまでとは全く異なる雰囲気に驚く俺だったが、それでも我道さんの強さはひしひしと伝わってくる。気になることと言えば、なぜ姿が消たりするのかぐら
『それは至極単純!我道さんが目にも留まらぬ速さで動いてい……あ、いや、そう!能力【透明物質我道さん】を発動しているからだ!』
まだ喋ってもないのに、霧の中から答えが返ってくる。しかも今の言い換え、なんか変じゃなかったか?能力って言うわりには、言い換える前の方がそれっぽいし………
疑問はさらに、深まっていく。散る羽音のうるささもさらに、深まっていく。
しかしここで突然、地面が小刻みに揺れだす。それに伴ってか、我道さんが正面に戻ってきた。
『そういえばラグ、測量術はどこまで習得した?力量か?魔力か?それとも潜在か?さすがに魂魄はまだだろう』
「ええと……たぶん力量まで、正確性はないけど」
我道さんの問いかけに、知ってる限りの答えを返す。すると彼はいきなり笑い始め、さらに言葉を続ける。
『はははは!!それは素晴らしい。
なら、今からやってくるムカデのレベルを、測ってみるといい。どれだけここが危険な場所か、よくわかるだろう』
それを言い終えるあたりで、我道さんが姿を消す。
その直後、前方から、霧の中ですら姿を確認できるほどの巨大な多足虫が現れた。我道さんが言った通りのムカデが、こちらに向かって猛進してきている。
さっそく俺は、流派で鍛えた観察眼を駆使してレベルを測る。
「……ええと、500だな。……はは、見間違えかな?」
おのずと笑えてくるぐらい、高い。どう考えても戦っちゃいけないし、そもそも逃げずにここで傍観してるってのもおかしな話だ。
『だがそれがここ、広大な迷いの森。強者たちが誇る、レベル上げの名所だ。あとあれのレベルは512だな』
悠長とした言葉と共に、我道さんが姿をあらわす。霧の中ですら目視できるほどの距離にまで迫り来るムカデを前にして、左手を胸にあてがう。
『…【ブレイブパリィ】っと!』
彼は息を吐くように物言いをし、強く踏み込む。
そして次に姿を消したと同時に、ムカデの頭部が大きくのけぞる。よく見ると、さっきまで奴の頭があった位置を、我道さんがふわりと落下している。
『ここからが本番だ、目を離すなよ!』
我道さんが言葉と共に砲剣を構えると、一瞬にしてその身が霞む。すると、そこからムカデの頭までを覆う白い霧が、一気に吹き飛んでいく。
同時にムカデの頭が斬り飛んでいき、一瞬遅れて重々しい衝突音が響き渡る。
『お次はこうだな!』
霧の空洞が軌跡となってムカデの胴を取り巻いていき、連鎖のようにその節々や脚が切断される。
それだけの動作にも関わらず、今度は激しい音が一切しない。視覚の情報ただ一つが、その迫力を伝えてくれる。
『あとはこれか?閃風斬ッ!ってやつ』
ムカデの尻尾あたりから声が響く。すると直後、凄まじい空刃が霧を割る。その波はムカデの胴体を真っ二つに裂く。
だがその波、そのままの勢いでこっちに向かってきて……
『おっとすまない、アブソーブシールド』
声と共に現れた我道さんが、しれっと取り出したテントの盾を構えて、エネルギー体の大盾を発生させる。それはきっちり波の勢いを削ぎ、最終的にはそよ風としてこちらに伝えてくれる。
『ふ〜、まあこんな感じか』
レンさんの形見をその場に置いて、ふ〜っと息を吐く。風に涼しむ我道さんのコートが、バサバサッと風になびく。その後ろには、バラされた上に等分に割られた胴体が、霧の奥深くまで連なっていた。
「これが、我道さんの力………!」
俺は常識を外れたその動きに、心を奪われる。そして、身をもって我道さんの強さを実感する。
胸の奥では今もなお、興奮でドキドキが止まることなく鳴り続けていた。
(ryトピック〜森の虫紹介その1〜
【蟷螂兵士】平均Lv.320
背丈4メートルほどの巨大なカマキリ。音もなく近づいては前脚で獲物を捕らえ、真っ先に脳を貫いて即死させようとする習性がある。
鋼のごとき硬さを誇るキチン質に守られているが、火の近くでは判断力が著しく低下するらしい。
【森林蛾】平均Lv.180
ゆったり飛びながら【林粉】をばら撒く巨大な蛾。戦闘能力は持たないが、ぶつかられるだけでもかなり危険。
林粉には植物を強引に成長させる性質があり、どんな環境でも森に変えてしまうと言われている。水に溶かして肥料にすれば、かなりの汎用性を見せてくれる。
【恐怖の百足】平均Lv.500
全長5キロを超える超巨大なムカデ。姿を見ることは死と同等のことだと言われており、圧倒的な機動力をもって蹂躙されてしまう。
ただしそれは、火を見て気が立っている時のこと。普段はほとんど動かずに、口元に近づいた虫のみを食べている。
またほとんど使われる事はないが、強力な神経毒も持っている。それと百足と言いつつ、その数は約46本。多少ばらつきはあるが、片側で偶数本の足になる事はない。
こうしていられるほど、ここの虫たちは甘くないのだが。』
「ん? あ、悪い。」
我道さんに言葉を投げかけられて、ようやく気持ちが切り替わる。俺が抱きしめる力を弱めると、自然と彼は離れていく。
と思いきや、俺の顔面に一枚の紙が押し付けられる。
『M・M術式【回生術】起動っと』
我道さんが、紙に精神力を込める。するとそれは青白い炎を上げて燃えていき、チリとなって俺の身を包み込む。
そしてちょうど、首筋のあたりから全身へと、隅々まで何かが澄み渡るような感覚に襲われる。とても心地いい感覚だ。不調だった右腕も不自然なく動かせるようになり、後頭部の痛みも和らぐように感じられる。
『ヤブ医者虚さ………あ、いや、私の知り合いが得意としている治療技、回生術の簡略版だ。完治するまでここで休んでおくといい。』
「わかった。で、さっきの言」
俺は彼の指示に応えつつ、気になったそれを指摘しようとする。が、ほとんど口にする間もなく、彼の姿が霞む。
直後、軽めの斬撃音があらゆる方向から鳴り響き、幾重にも重なって聴こえてくる。しかもその後には羽の散る音までも聞こえてくる。
「まさかこれ、全部我道さんが!?」
とか思っていると、今度は人ひとりが俺の方へ放り投げられる。
「なんだなんだ!?
……ってこの人、もしかしてヘキサ?」
俺が判断に迷うにも無理はない。だって今この人は、鎧を着ていなかった。ありのままに言えば、ずいぶんと軽い鎖帷子を着た全身黒こげの白髪青年が、こちらへ放り投げられたのだ。
『ついさっき命まで狙われていたところ悪いが、ヘキサもご一緒させてやってくれ』
再度姿をあらわした我道さんに、頼みごとをされる。だがちょっと待て、
「えっ? 今なんて? 師匠って言わなかった?」
『言ったさ。気になるのであれば、森を抜けた後で話そう。まあ……その時が来ればだが、な!』
彼はそう言い切ると同時に力を込め、ふたたび姿を消す。でも今、俺は確かに見た。我道さんが、ヘキサの砲剣を握っているのを。
『次はこれか、セルフドライブ!!!』
今度はコンパクトな感じの技名を、叫ぶ声が聞こえてくる。だがそれとは裏腹に、鈍器で叩き潰すような打撃音が鳴り響く。流れるように続く鈍い音は、木々に叩きつけられる音か?
さっきまでとは全く異なる雰囲気に驚く俺だったが、それでも我道さんの強さはひしひしと伝わってくる。気になることと言えば、なぜ姿が消たりするのかぐら
『それは至極単純!我道さんが目にも留まらぬ速さで動いてい……あ、いや、そう!能力【透明物質我道さん】を発動しているからだ!』
まだ喋ってもないのに、霧の中から答えが返ってくる。しかも今の言い換え、なんか変じゃなかったか?能力って言うわりには、言い換える前の方がそれっぽいし………
疑問はさらに、深まっていく。散る羽音のうるささもさらに、深まっていく。
しかしここで突然、地面が小刻みに揺れだす。それに伴ってか、我道さんが正面に戻ってきた。
『そういえばラグ、測量術はどこまで習得した?力量か?魔力か?それとも潜在か?さすがに魂魄はまだだろう』
「ええと……たぶん力量まで、正確性はないけど」
我道さんの問いかけに、知ってる限りの答えを返す。すると彼はいきなり笑い始め、さらに言葉を続ける。
『はははは!!それは素晴らしい。
なら、今からやってくるムカデのレベルを、測ってみるといい。どれだけここが危険な場所か、よくわかるだろう』
それを言い終えるあたりで、我道さんが姿を消す。
その直後、前方から、霧の中ですら姿を確認できるほどの巨大な多足虫が現れた。我道さんが言った通りのムカデが、こちらに向かって猛進してきている。
さっそく俺は、流派で鍛えた観察眼を駆使してレベルを測る。
「……ええと、500だな。……はは、見間違えかな?」
おのずと笑えてくるぐらい、高い。どう考えても戦っちゃいけないし、そもそも逃げずにここで傍観してるってのもおかしな話だ。
『だがそれがここ、広大な迷いの森。強者たちが誇る、レベル上げの名所だ。あとあれのレベルは512だな』
悠長とした言葉と共に、我道さんが姿をあらわす。霧の中ですら目視できるほどの距離にまで迫り来るムカデを前にして、左手を胸にあてがう。
『…【ブレイブパリィ】っと!』
彼は息を吐くように物言いをし、強く踏み込む。
そして次に姿を消したと同時に、ムカデの頭部が大きくのけぞる。よく見ると、さっきまで奴の頭があった位置を、我道さんがふわりと落下している。
『ここからが本番だ、目を離すなよ!』
我道さんが言葉と共に砲剣を構えると、一瞬にしてその身が霞む。すると、そこからムカデの頭までを覆う白い霧が、一気に吹き飛んでいく。
同時にムカデの頭が斬り飛んでいき、一瞬遅れて重々しい衝突音が響き渡る。
『お次はこうだな!』
霧の空洞が軌跡となってムカデの胴を取り巻いていき、連鎖のようにその節々や脚が切断される。
それだけの動作にも関わらず、今度は激しい音が一切しない。視覚の情報ただ一つが、その迫力を伝えてくれる。
『あとはこれか?閃風斬ッ!ってやつ』
ムカデの尻尾あたりから声が響く。すると直後、凄まじい空刃が霧を割る。その波はムカデの胴体を真っ二つに裂く。
だがその波、そのままの勢いでこっちに向かってきて……
『おっとすまない、アブソーブシールド』
声と共に現れた我道さんが、しれっと取り出したテントの盾を構えて、エネルギー体の大盾を発生させる。それはきっちり波の勢いを削ぎ、最終的にはそよ風としてこちらに伝えてくれる。
『ふ〜、まあこんな感じか』
レンさんの形見をその場に置いて、ふ〜っと息を吐く。風に涼しむ我道さんのコートが、バサバサッと風になびく。その後ろには、バラされた上に等分に割られた胴体が、霧の奥深くまで連なっていた。
「これが、我道さんの力………!」
俺は常識を外れたその動きに、心を奪われる。そして、身をもって我道さんの強さを実感する。
胸の奥では今もなお、興奮でドキドキが止まることなく鳴り続けていた。
(ryトピック〜森の虫紹介その1〜
【蟷螂兵士】平均Lv.320
背丈4メートルほどの巨大なカマキリ。音もなく近づいては前脚で獲物を捕らえ、真っ先に脳を貫いて即死させようとする習性がある。
鋼のごとき硬さを誇るキチン質に守られているが、火の近くでは判断力が著しく低下するらしい。
【森林蛾】平均Lv.180
ゆったり飛びながら【林粉】をばら撒く巨大な蛾。戦闘能力は持たないが、ぶつかられるだけでもかなり危険。
林粉には植物を強引に成長させる性質があり、どんな環境でも森に変えてしまうと言われている。水に溶かして肥料にすれば、かなりの汎用性を見せてくれる。
【恐怖の百足】平均Lv.500
全長5キロを超える超巨大なムカデ。姿を見ることは死と同等のことだと言われており、圧倒的な機動力をもって蹂躙されてしまう。
ただしそれは、火を見て気が立っている時のこと。普段はほとんど動かずに、口元に近づいた虫のみを食べている。
またほとんど使われる事はないが、強力な神経毒も持っている。それと百足と言いつつ、その数は約46本。多少ばらつきはあるが、片側で偶数本の足になる事はない。
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