境目の物語

(ry

…癒しの代償に踊らされ…

 俺はぶっ飛ばされた流れで大木と激突し、重たい一撃を喰らう。さらにそこから無防備の状態で落下し、地面とも激しく衝突してしまった。


「ぐぐぐっ、なんて力だ。全身が痺れるようで、とにかく起き上がらないと……」

 強打の影響で、全身が痺れるような感覚に包まれた俺だったが、感覚の鈍った体をどうにか持ち上げようとする。だがどうもうごめくばかりで起き上がれず、腕も地面を掴んでくれな……


「…………えっ?」

 視界が右腕のあるべきはずの位置を捉える。しかしそこにはズタズタになった腕はおろか、腕そのものが欠損してい……


「……ッ!!? がああアアァァァーーーーッッ!!!!」

 痛みに叫び声を上げる。

痛い!痛い!!痛い!!!

 そりゃ当然だ。腕そのものがちぎり取られたように無くなっているんだ。その分もあるし、傷口が露出してる分の痛みも凄まじい。
 さらにそこから血がドブドブと溢れ出ている。今の時点でもすでに出すぎているし、止血どうこうの状態じゃ……


 俺は無駄に冷静な思考を巡らせつつも、どうすべきなのかの判断ができないでいる。でもこんなところで死ぬわけには……



 そんな時、指を弾く音が響く。
 ロトだ、ロトが来てくれた!彼ならきっといい案を出してくれる!

「ロト!頼む助けてくれ!こんなところで死にたくな」

 そこまで言いかけたところで、彼の声が割り込む。


《ラ◆?
き◆な◆か?◆に◆起◆っ◆い◆?》

「………は?」

 彼の言葉はなんというか、ノイズでかき消されては聞こえてを、一文字ずつで繰り返していた。いつしかの夢よりも、よっぽど恐怖が強かった。

《と◆か◆生◆た◆の◆ら
【◆ネ◆ギ◆・リ◆レ◆シ◆ン】◆!!》

「えっ、なんだって?」

《【エ◆ル◆ー・◆ザ◆ク◆ョ◆】を!!》

 そこで彼の言葉がプツリと切れる。でも最後に同じ言葉を言ってくれたおかげで、内容は理解できた。あとはひとりで使えるのか……?

「……いいや、違うな。」

 やらなきゃ死ぬ。それだけだ。

 俺は徐々に薄れる意識の中で、腕が再生するイメージを練り上げる。どんなに痛くて辛くても、型にガッチリとはまるその瞬間を信じて。


 そしてその時は、予想よりも早く訪れる。


「……ッ!来た!!」

 ジグゾーパズルで最後のピースをはめる時のような爽快感。リペアを使う時も感じてきた、成功する時の感覚。これは間違いない。
その確信を胸に、発動する。


「【エネルギー・リザレクション】!!!」

 紡ぐと同時に、暖かい感覚に包まれる。それは最初に心の安心感を生み出し、そして


「……?
……ッ!?ーーーーーッッッ!!!」

 文字にも起こせないような叫び声を込み上げさせた。



 酷い痛みだった。腕の外と内とを同時に焼き焦がされるような、表現しがたい激痛だった。最低限、使うくらいなら死んだ方がマシだと思ってしまうような痛みだった。


《い◆み◆け◆は◆れ◆増◆て◆る!!?
◆に◆く◆ま◆耐◆ろ◆グ!!
◆を◆も◆な◆と
◆せ◆ま◆焼◆れ◆し◆う!!!》

 ロトが何か言ってる気がする。でも意味は理解できない。それにそもそも今、自身が痛みに悶えて転がりまわっている事にすら気づいていないのだ。そんな状態では、何を言われても無駄だった。


「(痛い…痛い……、誰か…助け…て………)」

 俺は壊れてしまいそうな頭の片隅で、そう呟く。それを最後に、俺は永遠にも感じられるほど深い苦痛の海底へと、ゆっくり引きずり込まれていった。





 私は霧の深い森を進み続ける。前方からは、つんざくような叫び声が鳴り続けている。
 声の主は間違いなくラグレス・モニターズ。反勇者組織の創立者グリッチ・モニターの、なのではないかと疑われている人物だ。

 しかし、双方は年齢がかけ離れている上に、髪色も全く違う。それに彼は、あの状況でも元のオオトカゲの姿に戻らなかった。いや、そもそもそんな姿を持っていないのだろう。
 そういう理由から、私はこの件をあまり信用していない。可能であれば、彼を手にかけたくはない。

 だが王はあろうことか、姫さまに手をかけた。私が最大限の忠誠を誓ったお方を人質に、民の望まぬことにまで手を伸ばしてしまった。そして今回も……


『しかしあの少年には、驚かされてばかりだ。魔導戦車相手に臆しなかった。ワニの怪物をこちらに仕向けた。
そして私の切り札までも、こうして耐え切ってしまった。本当に、奥が知れないな』

 ひとつ、ため息をつく。でもそれは彼の予想外な動きに翻弄されていたからではない。単純に、疲れていた。

 私がワニの背中から繰り出した【ヘキサ・ブースト】。あれは本来、この砲剣トライを使う私が、真に追い詰められた時のみに使用する、言わば最後の切り札となるシリンダである。
 正直なところ、あの状況はそれに値するものだった。使わなければ、彼に致命打を与えることすら叶わなかっただろう。

 だが、それをするには早過ぎた。ただでさえ人の身に収まらぬ反動を受けてしまうのに、準備運動なしの体には負荷がかかり過ぎる。むしろ、足を引きずってでも動けている私の方がおかしいのだろう。

 ただ、それでも、私の忠誠心は揺らがない。




『本当に……あなたのような優秀な人を、この手で殺めたくはありません』

 私は彼の前でそう言う。依然、彼は苦痛に声を上げながら、右腕を押さえて転がりまわってもいる。その腕に外面的な異常は見られない。だがこうしている以上、ヘキサ・ブーストで傷を負ったと考えるのが現実的か……


 ともかく私は砲剣を地面に突き刺して、シリンダをセットする。無銘のシリンダであるため性能は最低格だが、無抵抗の人間を裂くには十分。私はこれで、この戦いを終わらせるつもりだった。

 でも次の瞬間、彼は猛烈な勢いで転がりながら、ちょうど砲剣の鋭利な刃が彫られた方へと向かって来た。やっていることはただの自殺行為。ブーストを使うまでもなく、その首は落ちるのだろう。
 だができなかった。私は無意識のうちに、砲剣を引いていた。ぶつかるマトを失った彼は、そのまま私の鎧靴に乗り上げて、また別方向へと転がっていく。


『何も見えていないし、おそらく私にも気づいていない。明らかに、普通の状態ではない……』

 私は意識もせずに砲剣からシリンダを取り出し、代わりに緑色の紐が巻かれたシリンダをセットしていた。
 相手は処分すべき対象、姫さまのために殺さなくてはならない存在。それは嫌というほどわかっている。でもこんな、苦痛に悶え狂う子供なんて、私には……


『はぁ……』

 また一つ、大きなため息をつく。
 やはり本性には抗えない。殺すにしても、慈悲を欠かすことはできない。これはそんな私のたのシリンダ。本来、傷ついた部下から死の恐怖を少しでも取り除くための、平穏の魔法弾。


『【カームブレス】発射……』

 私はそれを彼に向かって、打ち込んでしまった。




(ryトピック〜回復技の代償について〜

 割といろんなところで使われている回復魔法や回復能力。これらは戦闘を継続する上で非常に優秀な手段となっているが、その代償には触れられないことが多い。
 もちろん、持久力をごっそりと持っていかれるのもその内のひとつである。がしかし、それ以上に重要なのは、回復に伴う苦痛である。

 実際に、回復技が適用されるときには、傷の再生にかかる持久力を前払いで持っていかれるのとは別に、それまでに感じるはずの痛みも前払いされている。ただ、傷薬や回復魔法ではその痛みを和らげる作用があるため、基本的にこれで悩む者はいない。
 しかし、その分まで考えられていない回復能力は別。この方法では持久力を激しく消耗してしまうだけでなく、苦痛もそのまま。酷い場合は痛みをより激しくしてしまい、そのまま廃人に………なんてこともある。

 みなさんも回復の乱用にはご注意を。

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