境目の物語

(ry

ようこそ!魔王都市へ

次の日…

 俺は飽きることなく、観察能力を鍛えるために周辺の魔物を観察していた。でもやはり独学なので、あまり成長を実感できない。
 だがそんなことで諦めるほど、俺の覚悟は脆くない。その気持ちを一心に、俺は観察を続ける。

 すると、少し遠くに黒ゴブリンの群れが見えた。人数にして4人、うち1人はラプターに乗って移動している。


「もしかしてあれ……っ!」

 俺はさらに焦点を合わせ、じっくりと観察してみる。するとやはりそれはブレイブ達だった。
 もちろんラプターに乗っているのがブレイブ。ついでに彼のレベルは40ぐらいのようだ。


 ともかく俺は、迷うことなく彼らの方へと駆け出す。そして30秒も経たないうちにその場にたどり着き、彼らに声をかけた。


「おーいブレイブー! どこへ行くんだー? ていうか体は大丈夫なのかー?」

 すると皆がこちらを向き、笑顔で迎えてくれる。なので俺はその輪に入っていく。するとその中心でブレイブが、

「魔王都市に行くところだ。まだ疲れが抜けないから、ラプターに運んでもらっている。」

と返してくれた。
 その声を聞く限り、疲れ以外は問題なさそうだ。やっぱりブレイブの持久力がおかしい。
 まあそれはそうとして、魔王都市に行くのならちょうどいい。


「俺もご一緒させてくれないか。魔王に用があるんだ。」

俺はこう頼みを入れた。
 もちろんブレイブからの反応はオッケー。ただしここからは【人の言語】を使うように言われる。なので早速シフトを入れ、人と接する前提の状態への移行を済ませた。
 こうして俺たち5人は、あの都市を目指して歩いて行くのだった。



 それから8時間後の夕刻、昼食や戦闘を挟みつつ進んでいた俺たちは、焦土の領域を越えて都市の領域に入った。焦土との気温差のためか、吹きつける風がいつも以上に涼しくて心地よい。

 そして10分もしないうちに、俺たちはその都市のふもとまでたどり着いた。
……そう、ふもとである。遠目からでは分からなかったのだが、なんとこの都市、人工的に作られた土台から成っていたのだ。おかげで目の前は壁同然になっており、とてもじゃないが登れそうにはなかった。


「なあブレイブ、どうするんだ?」

俺は尋ねる。するとブレイブは、

「心配はいらねえ。ほら、上を見てみな!」

と返してくれる……、上?
 俺は言われた通りに上を見てみる。すると、土台の端ギリギリの位置に大きな魔物が立っているのに気づく。逆光のため姿が見えにくいが、あれは……

 と、俺がそれをよく見ようとした次の瞬間、そいつは躊躇なく飛び降り、100数メートルあるであろうこの高さを落下してきた。そいつが地に足を着けると同時に地震レベルの地響きが起こり、ラプター以外の4名をいともたやすく転倒させる。
 そうして転んだ体勢から起き上がって初めて、俺はその姿をたしかに認識できるようになる。


 それは、身長5メートルほどで、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな、牛と人を足して割ったような姿の魔物だった。レベルにして推定60……強い。
 そういえばギルドで聞いた事がある。魔王城のあたりには、【ミノタウロス】と呼ばれる脳筋の代名詞とも言われるほどの強力な魔物が生息していると。
こいつはそれで間違いないだろう。


 そうとなれば警戒しないわけにはいかない。ところがそんな俺とは逆にブレイブは前に出て、

「スロウス先輩、お久しぶりです!」

 なんともフレンドリーに話し始めた。もちろん俺は心配で落ち着けないので、スロウスとやらの様子もうかがってみるが、

「おうブレイブ、よく生きて戻って来てくれたなー!先輩としてこれ以上の喜びはないぞ!!」

 こちらも同じようなテンションで話しだす。だがその視線が俺の方へと移った瞬間、雰囲気が一転して殺伐とした感じになった。


「……おい人間、なぜ我が友ブレイブと一緒にいる?そして魔王都市に何をしに来た?」

 スロウスが俺に尋ねる。ヴァルフに比べればそれほど怖くないが、何されるかはわかったもんじゃない。ここは正直に……
 と考えていると、ブレイブが間に割って入り、

「彼はラグ、前々から話してた俺の大親友だぜ!」

と、暖かいフォローをくれる。
それに対しスロウスも、

「………、
な〜んだそうなら早く言ってくれよ。勇者かと思って警戒しちまったじゃねえか!」

ついさっきと同じ調子で返してくれた。
 俺はホッとした後、改めて自己紹介をする。そして友情の握手を交わすことで、互いの親睦を深めたのだった。



 俺たちが話しを終えると、ついて来ていた3人のゴブリンが「•••••••••••それじゃあ頑張れよ!」と言ったのちに、ラプターを連れて街の方へと帰っていった。なんか久しぶりの他言語翻訳だったな……。

 それはそうとして、どうやってあの高さを登るのだろうか……?と、俺は疑問を抱く。
 するといきなりスロウスに、その巨大な腕で掴まれてしまう。しかも剛腕ゆえにもがいても抜け出せない。まさか騙されたのか!?
 俺はあの一瞬警戒心を解いてしまったことを強く後悔する。だがそんな時スロウスが、

「跳ぶから頭引っ込めてろ!」

 と言ってから、地に足を食い込ませるくらいに踏み込んだ。


「(えっ、跳ぶって?この距離を?マジで言ってるの?)」

 俺はこの一瞬のうちに数多くの疑問を抱くだってこれを飛び越えるなんて現実味がなさすぎる。

 だが次の瞬間、冗談抜きでスロウスが跳び上がる。俺がとっさに頭を引っ込めると、はみ出たポニテが凄まじい勢いでなびき、その勢いの片鱗を確かに伝えてくれた。

 そして数秒後、スロウスがドスンと地に足を着けるのを感じる。そのあと腕を地面に近づけて、最終的に俺……とブレイブを解放してくれた。


「さあラグよ、ここが我ら魔王様の配下たちが暮らす平穏の都市……、魔王都市【カルムバーン】だ!」

 スロウスが先走ってこう告げながら、建造物があるであろう方向を指さした。俺はその先を追うように振り返ってみる。


 するとそこには、無数の整った建造物が建ち並ぶ、大規模な都市が広がっていた。素材があの機械人形トラウマに似ていたので少し気分をそこなってしまったが、その造形は明らかに人間のそれを上回っていた。

 そしてもちろんそこには魔物達が暮らしている。だが驚いたことに、その大部分は人と魔物の中間種である【亜人間族】だったのだ。具体的に言えば、多種多様な獣人族だったり人型の魔族だったり……
 とにかく多種多様な亜人間達が、笑顔と賑わいに溢れた活気のある都市を彩っていた。

 そしてその中央通りの緩やかな傾斜を進んだ先には、不思議な素材で作られたのであろう立派なお城が建っていた。きっとあそこに魔王が……


「どうだ、魔王様の造った都市はすごいだろう?」

 スロウスが感想を求めてくる。それに対して俺は強く頷くことで返事を返す。そしてしばらくの間、この都市の雄大さにひたすら圧倒され続けていた。



 そのあと俺たちはスロウスに導かれて、明らかに年季の入った宿屋【オオカミ亭】に案内された。どうやらブレイブの就任式とやらを明日とり行うらしく、とりあえず今日はタダで泊めさせてくれるようだ。


「それでは諸君、また明日! 新たな四天王の誕生を、こころから楽しみにしているぞ!
はーっはっはっは!!!」

 スロウスは高らかな笑い声をあげながら、お城の方へと帰っていった。一方のブレイブはそれを見届けることなく、

「俺は疲れた。もう寝る。」

とだけ言ってから宿へと入っていった。

 そして俺は1人取り残されてしまう。だがそれはそれで構わない。だって魔王に例の森について聞けば、もうこの都市とはおさらばなのだから。
 というわけで、俺は魔王に会うためにお城の方へと向かうのであった。




(ryトピック〜焦土と都市の気温差について〜

 今回ラグが感じていたように、焦土と魔王都市では気温が大きく異なる。具体的には

魔王都市(都市の外)の平均気温は21℃
無慈悲の焦土(現在)の平均気温は38℃

かなり激しい気温差がある。
 もちろん境界線である程度緩和されはするが、それでもやはり健康には悪い温度差なので、焦土を訪れる冒険者の方々にはなるべく体温を上げ過ぎないよう心がけて頂きたい。

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