境目の物語

(ry

ヴァルフとの戦い〜埋もれし業火〜

 ブレイブは……「ヴァルフの元へ連れて行け」と言ったのか?
 一瞬、俺の思考が停止する。だが彼の目には一切の曇りがなかった。むしろ、真剣な眼差しをうかべており、その行動に疑問を抱く必要などないことを物語っていた。
 きっと、その通りにすべきだと直感した。

 俺は一言「……分かった」とだけ言うと、彼のからだをゆっくりと背負う。彼のぬくもりが、俺の背にじんわりと広がっていく。
 俺はこのあたたかさに、ヴァルフとの戦いの終わりを感じる。それは喜びかもしれないし、虚しさかもしれない。

 でも俺は、この終わりから逃れてはならない。自らが望んだこの戦に終止符を打たなければならない。
 俺はそれをはっきりと自覚し、奴がいるであろう火柱の発生地へと歩みを進めることにした。



……おおよそ十分ほどした後、俺たちはそこにたどり着く。同時に俺の視界には、悲惨な光景が映り込む。

 崩れ去り、崖と傾斜との区別すらつかなくなった壁面。
 いまだに残り火が燃え続け、耐えるのも辛くなるような熱気を帯びた大地。
 そして大きく窪み、灼けた岩石が液状になって流れ込んでいる、深さにして十数メートルほどある中心地点。

 そのどれを見ても、あの火柱が与えた影響の悲惨さが伝わってくる。そしてやはり、投石部隊の姿はどこにもなかった。まあ岩石がとけて溶岩になってしまうほどだ。たとえある程度火に強い焦土ここの住人だとしても、耐えられるはずはないだろう。

 少し言い方がわるいかもしれないが、俺は彼らの死から目をそらすようにしてわずかに残った冷静さを保ち、そのクレーターの中心を覗き込む。

 やはり、ヴァルフの姿がそこにはあった。

 だがその大きな身体は巨大で鋭い岩石に貫かれ、ピクリとも動かない。それどころかいつも身に纏っていたはずの炎の鎧がなくなっており、打撃物にズタボロにされたような痕が浮かぶ褐色の皮膚が露出していた。

……と、いろいろ観察していたところだが、俺一人の力だけではこの溶岩の湖に立ち入ることはできない。でもブレイブがいるから心配する事はない。
 それに、彼もこのことを分かっているようで、俺が頼むよりも先に能力を発動してくれる。するとかなりのスピードで溶岩が冷え固まっていき、気づいた時には俺と奴とを繋いだ幅1メートル弱の架け橋へと変身していた。

 俺は落ちないようバランスを取りながらその上を通り、ヴァルフのいる中心地点へと向かう。
 もちろんこんなことをするのは初めてで、なおかつブレイブを背負った状態にある俺は、この幅ですら何度もバランスを崩しそうになる。だがここで落ちればすべてを無駄に終わらせる事になる。
 この自覚を抱き続けた俺は、なんとか無事に奴の真正面へとたどり着くことができた。

 俺はホッと息をつく。すると先ほどまで微動だにしなかったヴァルフが首を持ち上げ、露わになった真紅の眼をこちらに向けた。


『……貴様らか、吾輩わがはいをここまで追い詰めたのは……』

「喋った!?」

 俺は驚き、声を上げる。それもそのはず、今まで奴は狼ならざるおぞましい咆哮を上げていたのだ。それが言葉を喋れるなんて予想できるわけがない。
 だがブレイブに驚くような素振りはなく、それどころかその口を開いた。


「……ああそうだ、三万年ものあいだ【火の四天王】であり続けた……無慈悲のヴァルフをな!」

「ええっ!?」

三万年以上も生きている!?
ていうか火の四天王って何だ!?

 そのあたりの事情をまったく知らない俺は、すでにこの話についていけなくなっていた。だが頭の中が〔?〕で埋め尽くされている間にも、その話は続けられていく。


『そうか……、つまり貴様は……火の四天王の継承者……とでも言うわけか』

「ああ……俺こそが次期火の四天王……、ブレイブだ……!」

「………!?」

……火の四天王って何なのだろうか。まず人なのか役職みたいなものなのか、何をする存在なのか、そもそもなぜブレイブがそれになろうとしているのか。
 彼らのこれまでを見る限りでは、この地の主がそれに当たるのではと仮説立てることができる。でもそれなら、わざわざ四天王とかいう四人いそうな名前である点が噛み合わない。

 彼らがとても真剣な話をしている中、完全に場違いである俺はその正体に心当たりがないかを探るべく、堂々巡りのなかに閉じこもってしまっていた。
 だが結局その答えに到達する事はなく、彼らの話にもケリがついてしまったようだ。


『では最後に……、おいそこの小僧!』

「……えっ、俺!?」

 唐突にヴァルフに呼ばれた俺は、あまりの不意打ちにビクッと体を跳ねさせる。そのあとすぐに、「俺のことか!?」と言いたげに自身を指差した。だが奴の目を見る限り、それは俺で間違いないことがわかった。


『……貴様、吾輩が反射的に防壁を張ることに……気づいていたな!』

「えっ、まあ……確かにそうだけど」

『……やはりそうか』

 奴はそれを聞くと、考え込むように静かになる。だがなぜそれを聞いたのだろうか?
 正直いうと奴と話なんてしたくないし、いつ攻撃されるかもわからないから近くに居たくもない。だがこの好奇心を捨てる事もしたくはなかった。

 結局我欲に負けた俺は、思い切ってそれを聞くことにしてみた。


「何で最後にそんなことを聞いたんだ?他の奴らの方が目立ってたと思うが……」

『……なに、この癖を見抜いたのは……貴様で3人目だからな。吾輩がここまで攻守に優れた能力でなければ……、きっといい勝負ができたのだと……思っただけ、だ…………』

「そ、そうなのか……へへっ。」

 俺は奴に褒められたようだったので、少し照れくさくなってしまう。でも奴の言う通りであれば、今作戦のような拷問じみたことにはならなかっただろうな。お互いにそれを求めていたことが分かれば、それで十分だ。

 それを胸に刻み込む頃には、奴の首も力なくだらんと垂れ下がり、再びピクリとも動かない状態に戻っていた。今度こそ、完全にその命が燃え尽きたのだろう。
 またそれと同時に、ブレイブの意識が完全に落ちているのにも気づく。もちろん気絶しているだけで死んだりはしてない。……が、やはりここまで意識を持たせられたのが不思議でたまらない。

 ともかく、これにて作戦は終了だ。こんな熱いところなんてさっさと抜け出して町に帰りたい。
 俺はその気持ちに正直になるようにして、ただ一直線に町を目指して歩くのだった。



……うん。
 ほんと、ここで終わってくれればどれほど嬉しかっただろうか。だが現実は俺に対して非情だった。

 俺はたしかに一直線に帰ろうとしていた。だがちょうどこのクレーターから抜け出したその瞬間、雲なき天から凄まじい力を持った轟雷が降り注いだ。
 幸いそれが俺に直撃することはなかった。だがその衝撃は想像を絶するほどで、触れたわけでもない俺たちの身をたやすく吹き飛ばしてしまう。

 俺はなんとかして受け身をとり、ブレイブへのダメージを最小限に抑える事につとめる。それが問題なく成功したことを確かめてすぐ、それが落ちた方向を見てみる。
 するとどうだろうか、クレーターの中心部にさらなる巨大な亀裂が生まれ、そこへと溶岩が流れ込んでいくではないか。


『……これで奴も完全に消滅したな』

背後……もっと言えば上の方からあいつの声が聞こえる。そう、勇者様だ。

 俺はあの火柱に直撃して死んだものだと思っていた。だがそうではなかった。
 それに今、我道さんが言っていた主人公補正とやらを持っている事を思い出した。もしその力であの状況を生き延びたのだとすれば、あれを止める術などないのではないだろうか。

 また、俺の目的は魔王と話をすることだ。そして勇者様の目的は魔王を倒すことだ。この食い違いが、戦いに発展する事を考えれば、俺はどうすればいい?
 考えれば考えるほど、その結果に恐怖を感じる。そこに至っていないのにも関わらず、全身が寒気に襲われるようだ……。

『どうした?ヴァルフならもう死んだ。さっさと町に帰ろうぜ』

「……ああ」

 俺はその恐怖心をどうにか隠して、彼に返事をする。だが近くにいるだけでも死を予感するような感覚が俺を包み込む。

耐えろ…耐えろ…

 俺は頭の中で何度も復唱しながら、勇者様の隣を歩く。そんな、いつ精神が崩壊してもおかしくないような行動をとりながら、俺たちは帰るべき町へと向かって行くのだった。



(ryトピック〜【無慈悲の業火】について〜

 今はまだその理由がわかっていないが、なぜか無慈悲のヴァルフのみが所有している能力。タイプは【能力系】だが、応用の幅が広いため【特能系】の色が強い。

 その内容は今まで何度も見たように【炎を生成する】能力であり、あろう事か生成する際のコストが存在しない。
 つまり、生物を蒸発させるような熱量をに生成していたわけである。

 またこれにより生成される炎には魔法と同じ性質が含まれている。魔法攻撃を防ぐことができる反面、同じ事をされる事も多々ある。

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