境目の物語

(ry

運命の境目を刺す朝日

 あの後、会議が終わって外に出た俺は、今作戦でラプター騎乗をしなければならない事に気付いてしまった。そのためブレイブに指導を頼み、一夜漬けでそれの習得に励んだ。

そして作戦の日の朝。

 晩のそれで寝不足となった俺は、突き刺すような眩しさを放つ朝日に向かって大きなあくびをする。まだ眠気が抜け切らないが、ヴァルフとの闘いにそんな気で行けば間違いなく炭にされる。もちろんそんなのはお断りだ。
 俺は軽く首を絞めつけて血流をリセットすると、町の広場へと向かう。ブレイブ曰く、そこで部隊分けを再確認してから作戦を開始するらしい。

 俺が到着した頃にはすでに大半のゴブリン達が待機しており、作戦の開始を今から今かと待ちわびてざわざわとしていた。俺が誘導部隊の最後尾に着くと、ゴブリン達の間を割って勇者が姿を現した。
 彼は俺を見るなり『最前線が遅れるなよ』とだけ言って、俺を前方へと導く。
 最前線なんて聞いてないんだけど……と思いながら彼を追い、最前線へとたどり着くと、ちょうどラピッズの姿も目に入ってきた。


 俺は2人の後ろに位置取る。それを確認した勇者は先頭部に移動して、前方の、ちょうどブレイブのいる方向に合図を送った。その合図を受け取ったブレイブはさらに左側をまとめているトロンに合図を送り、互いに確認しあった後に両者が一歩前へ出た。


「全員、静まれーいっ!!!」

 トロンが一際大きな声で言う。するとゴブリン達が私語を止め、ざわざわとしたこの場が一気に静まり返った。次に、ブレイブが声を張り上げる。


「今これより、第11回討伐作戦を開始する。今回こそ絶対に成功させるぞー!!!」

 彼のその呼びかけに対し、静まり返っていたゴブリン達が、一斉に「おおーー!!!」っと声を上げる。ギルドでも聞くことのできないこの人数での掛け声に混ざってみると、不思議と心のそこから力が湧き上がってくる。今ならなんでもこなせそうだと思えるほどに。
 もちろんそれは他も同じだ。それらの様子を確認したブレイブとトロンは互いが担当する部隊の前方に移動し、部隊の指揮を執り始めた。


「それじゃ部隊のみんな、移動開始だ!」

 俺たちはブレイブ隊長の指揮の下、移動を開始した。投石部隊よりも先にラプター小屋に入り、それぞれが1匹ずつラプターに乗り、小屋を出る。一度町の外に移動した後に再度隊を並べ直し、規則正しい5人多列を形成する。
そして、

「行くぞー!!!」

 ブレイブが声を上げたと同時に、部隊全員……総計数十人にもなるゴブリン達が、一斉にラプターを走らせ始める。ラプターのペタペタと鳴る足音が、何重にも重なって鳴り響く。
 そんな不思議な音を背後に聞きながら、最前線を走らせる俺は先頭を走らせるブレイブ隊長を、そしてさらにその前を飛ぶ勇者を追いかけ、ただ一直線に目的地へと向かって行った。



……それとほぼ同刻、魔王都市の片隅に、ラプターを繰るゴブリン達を見据える人影があった。
 全身を覆う漆黒の外套がいとうに身を隠し、素顔すら仮面で覆い隠すその者は、外見だけで人か魔物かを見分ける事はできない。だがそれでも一つだけ、確かに分かる事があった。

 それは、その者が仮面で隠し通せない程に、その内側でニヤリと笑っていた事だった。




(ryトピック〜【スコーチラプター】について〜

 彼らは過酷な焦土を生きる狡猾な鳥竜の怪異であり、同種族のスチールラプターと比べ、黒煤同等の色と大柄な肉付き、そして鋭い目つきを持つ。
 冒頭の説明通りかなり高い知能を持っており、獲物に気づかれる事なく近づける静粛性と、目線のみでの高度な意思疎通を可能としている。

 本来ならその肉体と知能を活用した頭脳派な狩りを得意とするのだが、彼らはこうも考えるようになった。『知能ある者の配下となり、身体能力を以って奉仕すれば、危険なく糧に有りつけるのでは』と。

 そうした個体がゴブリン達に力を貸すようになり、従順に仕事をこなせるように進化した者は、専門的に【ワーカーラプター】と呼ばれるようになっていった。ただ、その知能は今もなお衰えることはない。

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