境目の物語

(ry

宴の傍らで

 あの後俺たちはラプターに乗って帰路を走っていた。……のだが、相変わらず繰り方が全くわからない俺は運悪く振り落とされてしまい、焦土の黒煤を全身に浴びてしまった。
 その上、前を行く2人がこのことに気づいていなかったらしく、完全に置いて行かれた俺は、徒歩で町を目指す羽目になってしまった。


 そこから歩き始めてより約2時間、背の高いあの物見塔を目印にした俺は、ようやく黒ゴブリン達の町まで戻ってくる事が出来た。
 クレーターのようにへこんだこの町は外側であれば全体を見渡すことができ、ここから見ると、町の中心に皆が集まっているのが見える。どうやら今朝倒したフェンリルの肉で宴のようなものを開いているらしい。

 ちょうどその時、俺の腹がグーっと音を上げる。ここまで歩いて帰るのに結構体力を消耗したから、だいぶお腹が空いているようだ。
 宴がいつ始まったのかわからないし、いつ肉が底を尽きるかも予想がつかない。せっかくの豪華な晩飯を逃すわけにはいかないと考えた俺は、急いでその中へと入っていった。


 やはり宴が始まってからはある程度時間が経っていたらしく、美味しい肉は全て平らげられており、残っていたのは未調理の生肉と何かの野菜炒めだった。ただ、ここ最近肉しか食えていない俺にとっては十分嬉しい事だ。
 野菜を食べられる事に少しありがたみを覚えた俺はそれらを側に置いてあった石皿に盛ると、早速それらを平らげようとした。だがここで問題が生じる。宴の騒音だ。

 ギルドにいた時は皆の歓声にもだいぶ慣れたつもりだったが、ゴブリン達は皆口うるさく、更には角笛まで取り出して楽しそうに吹き鳴らしている。ここまで来るとさすがに食事に集中できない。それに、宴に酔ったゴブリンに絡まれないとも限らない。
 食事の楽しみを邪魔されることを気にした俺はそそくさとこの場を離れ、どこか近くの火柱のある岩陰に腰掛けた。そしてその火柱の火を利用して肉を焼き、野菜と一緒に食いながらのどかに晩飯を済ませた。

 気の済むまで肉と野菜を食べた俺は、真っ暗な夜空を眺めながら昼間の疲れを癒していた。すると、どこからか指をパチンと弾くような音がした。一瞬勇者の仕業か?と思ったが、俺が辺りを見渡すよりも先に、ロトの声が聞こえてきた。


《話しかける前に予備動作を入れてみた
これでどうだ?》

「ロトの仕業だったか。でも、それなら突然の声に驚くもなさそうだな」

 前の心臓に悪いやつに比べると随分とわかりやすい。俺は正直にその気持ちを伝えた。


《なら今度からはこれでいこう
何かいい案があるなら言ってくれ》

「分かった。
……で、ロトが話しかけてきたって事は、何か用があるって事だよな。どうしたんだ?」

《おっとそうだった
随分と暇そうにしてるみたいだけど
彼からの目的は覚えているのか?》

彼?
……あ、多分我道さんの事か。


「そういえばそうだった。確か……魔王から森についての話を聞け、だったな。
……あ!!そうだった!」

 そこでようやく現状に気づく。目的は魔王のいる魔王城だったはずだ。それに一年の制限時間も設けられているんだった。ならこんなところで狼退治なんてしてる暇ないじゃないか。
 そう思い立った俺はすぐに立ち上がり、そこへ向かおうとする。だが肝心の魔王城がどこにあるのかわからない。ギルドからなら方角だけわかるのに…


《場所がわからないなら確認すれば良い》

「そうだけどよ、肝心の座標が……」

《物見塔の存在を忘れたのか?》

「あっ、」

 その言葉で察しがついた。そういえば土地の起伏の激しさのおかげで忘れていたが、ここはある程度魔王城に近いはずの場所なんだった。つまり、起伏の影響を受けにくい物見塔からなら魔王城を探せるってわけか。


《やれやれようやく気づいたか
君には客観的な視点が足りていない
先日の巨人達の時もそうだ》

「うう、それは……」

 そういえば勇者に恨みがあることも予想せずに和解しようとしてたんだっけ?今思えば確かに馬鹿すぎる作戦だ。それを考えた自分が悲しくなってくるぐらいだ。


《せっかくのいい流派なんだ
この機会にそれも鍛えるといいだろう》

「まさにその通りだな。ありがとう」

 俺は反省の気に苦しさを感じたが、立ち止まってては何も変わらない。それも肝に命じた上で、俺は物見塔へと歩みを進めたのだった。




(ryトピック〜焦土での注意点〜

 いたる所が黒く染まっているこの地だが、その要因はヴァルフの炎に灼かれた自然から生じるすすである。
 幸いなことにここでは風が弱いので煤が舞う事は滅多にないが、転けたりでもすれば、全身が煤まみれになる事は避けられない。その上この土地には水がないので、外に出るまでは洗うこともできない。
 またこの煤には炎の燃焼を強める作用も持っているので、可能な限り転けないように心がけるべきである。

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