バミューダ・トリガー
四十三幕 巨漢
商店街の中へと歩みを進めた、「不審者」こと元怪校生・龍王 蓮鎖は、違和感はあるもののなかなか様になった女装をしていた。
それこそ、同じく元怪校生である秋仁たちでなければ男であると確信するのが憚られるほどだ。
「なぁ、なんかあると思わねぇか?」
いぶかしげな目をしてそう問いかけたのは、はじめこそ乗り気ではなかったものの、不審者の正体が知り合いであると確認してから好奇の目を隠しきれていない秋仁だ。
「確かにね。大なり小なり理由がなくちゃ、あの龍王先輩があんな格好をするとは思えないよ」
「そうだな。もうしばらく様子を見るぞ」
頼矢の一言に、二人は無言で頷いた。
―――――――――――――――――――――――――
東区の路地。
三、四階建ての建築物に囲まれた薄暗い場所に、二つの人影があった。
「ごふっ・・・」
ただし、その影は決して、友人同士や恋人などといった親密な間柄のものではない。
「経験、したか・・・?後悔を・・・体験、したか・・・?恐怖をォォオッッ!!!!」
見上げるような巨体、威圧的な髑髏の刺青。
それだけで万人に恐怖心を宿らせるであろう大男は、鋭い犬歯をむき出しにして、怨嗟のように猛る声をだす。
「がふっ、はぁ・・・うる、せぇな・・・!何を言われようと、情報は吐かねぇよ・・・ぐ、はぁっ・・・」
口の端から血を垂らしながら、地面に転がされた青年が言い切る。
「何故、だ・・・我、は・・・強き、者を、求めているというのに・・・!!貴様、では足りない・・・強い、奴の、居場所をぉ・・・おオォしィえろォォオ!!!」
獰猛な獅子のように目を光らせた巨体の男は、地面に這いつくばる青年の答えに、よりいっそうの怨嗟をたぎらせた。
「この、猛、獣が・・・!しっかり、俺を、殺して、行けやぁぁあ!!」
叫ぶと同時、青年は血の滴る手から、空色の輝きを放つニッパーを取り出した。
「身体断裂魔・・・!」
青年がその能力の名を叫ぶと同時、手にもつニッパーが瞬時に巨大化、人体を裂く刃と化す。
「ぐ・・・ぜってぇ・・・負けねぇ、裂けやがれ・・・木偶の坊ぉお!!!」
満身創痍、軋む体を無理矢理に動かして前進する青年は、限界まで開いた刃を巨漢に突き立てんと突きだした。
ギィインッ!
鋼鉄を金槌で叩いたような甲高い音が路地に響き渡り―
「忘れた、のか・・・」
無傷の巨漢が僅かに声を絞る。
「・・・何で、大人の、テメェが・・・」
(能力を使えんだよ・・・・・・)
バラバラに砕かれた刃が、地を打つ雨のように降り注ぐ。
「貴様の、牙は、我に、届かない・・・」
巨体の男は、脈動するように点滅する、紺色の光を宿らせた腕輪を掲げた。
「恐竜化・・・」
低く、重く響いた声色に、冷血動物の嘶きが重なる。
「は・・・体験したぜ、恐怖」
青年が力なく笑い―
「大地割竜」
―――――――――――――――――――――――――
数時間後。
陥没した町の一角から、身元不明の青年が遺体で発見された。
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