ぱらのまっ!@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

6 宇宙人3

「いや……冗談じゃないぞ、これ」
 思わず声が漏れる。 ロニクルさんが本当の宇宙人だとすれば、ここは本当の宇宙船の中で、本当の宇宙空間の真っ只中だ。電波な女に掴まって拉致されるより、更に脱出不可能な状況に置かれている事になる。
「さっきから一人で何言ってるプ?」「ああ……いや、何でも無い」
 宇宙人に幽霊と話していると言ったりしたら、更に話がややこしくなりそうなので、俺は適当に誤魔化した。
「……ふふふ、変な奴だポ」
 ロニクルさんがそう言った瞬間、俺は頭を巨大な岩石で殴られた様な感じがした。変な奴に変な奴だと笑われる事がこれ程ショックだとは思わなかった。
「いや、落ち着け俺。相手は宇宙人だぞ……」
 俺は気を落ち着けるべく、必死に自分へ話しかけた。
「さて、早速分析を開始するポ」
 ロニクルさんはそう言うと、丸机の下からバッグを取り出した。俺のだ。
「あっ、それ!」「どれどれプ……」
 俺の叫びも空しく、ロニクルさんは俺のバッグを開け、それを物色し始めた。
「おい、人の荷物勝手に覗くな。プライバシーの侵害だぞ!」「駿一、あの素っ裸の不思議ちゃんに、そんな概念あると思う?」
 狼狽する俺の耳に、悠の声が聞こえた。
「……一理あるな、それについては諦めた方が良さそうだ」
 どのみち縛られて身動きが取れない。俺の運命も、俺のバッグの運命も、全てロニクルさんに託すしかない。
「ふむふむ、やはり地球人は電話とハンカチは持ち歩いているらしいプ」
 この様子だと、ここに捕らわれたのは俺だけじゃないらしい。過去に捕らわれた人はどうなったのだろうか。
「あと財布と……これは何だピ?」
 ロニクルさんが、徐に人形を取り出した。勿論、俺の持ち物で、恐らくロニクルさんには。いや、悠にとっても人形と認識出来るかは怪しい代物だ。
「呪い返しの藁人形」
 俺は必要最低限の言葉で答えた。
「ほうほう、初めて見るピ」「駿一……凄いのもってるのね」「こういう体質だからな。備えあれば憂いなしだ」
 悠は若干引いているようにも見えるが、俺は無視して普通に答えた。
「む……これは……」
 ロニクルさんが一瞬警戒した。
「危ないもんじゃない。ただのフルーツナイフだ」
 俺はその様子を見て、ロニクルさんが出す前に答えた。
「駿一、それって銃刀法違反じゃないの?」
 悠が言った。
「なんでだよ、ただのフルーツナイフだぞ? それに自衛のための守り刀なんだ。仕方がないだろう」「色々と大変なんだね、超霊媒体質も」「ああ、早く普通の人間になりたいもんだ」
 昔はこの体質をどうにかしないとと奮闘したもんだが、結局、どうにもならなかった。最近はすっかり諦めモードで、この超霊媒体質の日常を謳歌している。
「これはぬいぐるみかプ?」
 ロニクルさんは、片手に葱を持った、緑色のツインテールの人形を手に取った。
「かわいい! 何、このキャラ!」「ほお、知らんのか? 意外だな、お前みたいのが知らないのは……ああ、そりゃ知らんよな。考えてみたら、ついこの間までずっとあの世に居たんだもんな」
 俺はそんな事を口走りつつ、視線はロニクルさんの髪の方へと向けた。同じ緑髪だが、ロニクルさんの方が少し明るめな色をしているだろうか。
「でも、なんか意外だな、駿一がこんなかわいい人形を持ってるなんて」「そうか? あれが有るのと無いのじゃ随分違うんだぞ。あの中には俺の選りすぐりの神社仏閣のお守り、計二十三個が詰められてるんだからな」
 俺が全国津々浦々の神社と仏閣に足を運び、実物を吟味し、買って、携帯して実際の効果を試したお守りだ。我ながら信頼性の高い二十三個なのだが、そのまま持ち歩くのも少々物々しい話だと思ったので、適当なぬいぐるみに詰めて持ち歩いているのだ。
「……やっぱりそういう目的なのね」「……? 何だと思ってたんだ?」「何でもない……」
 悠はがっくりと肩を落とした。
「お前……やっぱり、他の地球人と違う。なんだかとっても変ポ」「そうだろうな。宇宙人から見ても変だってのは、ちとショックだが、ま、そのレベルで変人なら逆に開き直れる。勉強になったよ」「どういたしましてポ。こちらにとっても、興味深いサンプルですプ」
 どうやら俺を解放する気は全く無いらしい。
「俺の他にもここに連れてきた奴は居たんだろ、他の奴はどうしたんだ?」「要らなくなったから廃棄したポ」「……」
 俺は絶句した。ロニクルさんからしたら単なる処分なのだろうが、俺から、そして、今までにここに連れてこられた奴らからしたら、殺されたということだろう。宇宙人というものが一般的にどういう性格かは分からないが、このヴェルレーデン星人は容赦の無い性格らしい。
「ふむ、大体分かった。なら俺に一つ提案がある」「提案? 何だポ?」「ええとだな……そんなにサンプルが欲しいのなら、地球に住んでみたらどうだ。地球人の生態を肌で感じる事ができるぞ。なんなら、俺が手伝ってやってもいい」
 我ながら無責任な約束だとは思うが、生きて帰れるのならば何でもいい。それからの事は地球に帰れてから考えよう。
「地球で過ごしたけど、大勢で嘘を言い張る人が大勢いるので、普通に生活するにも気が気じゃ無いポ。お前と話していると、何だか気持ちが安らいでしまうポ」
 大勢を二回言ったのが変換機能のバグなのかは分からないが、それ以上に俺は予想外の答えに意表を突かれ、絶句してしまった。暫くの後に俺の口から出たのは、笑いだった。
「ふ……所謂、住み辛い世の中って奴か」
 俺は急に親近感を感じてしまい、吹き出してしまった。生まれた時から地球に住んでいる俺でさえ、常々そう思っている。
「そうそう、住みづらいんだプ。本来なら人々を鼓舞して統率すべき人が、逆に人々を不安にさせて、活気を奪っているんだポ」「ほう……その統率すべき人ってのは、総理大臣ってわけか」「うん、総理大臣をはじめとした、政府、または政治家に多くみられる傾向だプ。あと、大企業の重役とか、それなりに権力や財力を持っている人もだポ」
 ロニクルさんは、けろっとした顔でそんな事を言った。宇宙人にとってみれば、対岸の火事なのだろう。
「私利私欲に走る人……ってところか……そういや、ステマとかニュースでやってたな、ネットの」「ステマ……権力や財力によっての洗脳工作の事かプ?」「言い得て妙だな、面白い。的を得ている表現だと思う」
 地球の外から客観的に見ると、そんな感じに見えるのだろうか。洗脳工作という表現は過激に思えるが、中々に正確だと思う。
「ふむふむ……でも、それに関しては、地球人の工作は著しく品質の低いものだポ。現に一般人であるお前だって、大体判断は付く事だプ」「まあ……言われてみれば、確かにそうだがな」「だから、その事については、それほど問題ではないピ。それよりも、権力、財力の無い人間に選択権が無いのが深刻な問題なんだプ」「俺の住んでる日本は民主主義国家だから……大丈夫って事はないな。情報の隠蔽やら組織票やら、何よりまともな奴が少ないから、色々な選択の幅が無い」「……お前、投票権持ってるポ?」「いや、まだない。が、そんな年頃の奴でも、こういう事を考えてる奴は多いぜ。選挙だけが意思表示の場でもないしな。それに、最近大勢で、しかも謝りもしないで悪くないと言い張る連中が目立つってのは、俺の周りでも良く言われてるからな」「ほうほう、そうなのかプ。十代のサンプルは増やすべきかもしれないポね……うん、いい参考になったピ。ありがとうございますポ」「へっ……どういたしましてだ。幽霊よりかは宇宙人の方がマシなのかもな」「なっ……それ、どういう意味よ!」
 悠が話に急に割り込んできた。
「お前の事じゃねえよ。幽霊なんてうんざりする程見てるから、いい加減飽きてるんだよ」
 悠の事を言っているわけではない。少し静かにしていて欲しい。
「その無関心な返し方は何よ!」「なんだよ。別に無関心じゃねえよ」「……う~~!!」
 悠の低い唸り声が耳元に聞こえ、じとりとした視線が刺さってきたが、俺は気にせずロニクルさんと話を続けた。
「すまんな、ロニクルさん。ええと、どこまでいったかな?」「『幽霊よりかは宇宙人の方がマシなのかもな』ってお前が言ったところだプ」「おお、そうだった。ロニクルさんは覚えがいいんだな。脳の構造とかって違うのか? 地球人とくらべ……」「駿一っ! 呑気に話してる場合じゃないでしょ!」
 耳元で大音量の悠の声が響いた。
「うおおっ! 耳元で怒鳴るなよ!」「このままじゃ、駿一、殺されちゃうかもしれないんだよ!」「それはそうなんだが、これといった策も思いつかんしな……」
 とはいえ、このままでは俺は死んでしまう。宇宙空間に放り出されるのか、はたまた謎ビームで粉々になるまで焼かれるのか……。
「お前、ロニクルとは別の人と喋っているプ?」「言っただろ、しつこい幽霊が憑いてるんだ」「幽霊? ……幽霊。想像上の生き物……いや、死に物じゃないかプ?」「死に物て……」
 日本語的に死に物が正しいのかは……改めて言われてみると、俺にも良く分からないが……。
「まあ、いいや。そうだったらいいんだが……実際近くに居てな、俺には分かるんだ」
 俺がちらりと悠の顔色を窺うと、案の定、悠は不満そうな顔をしていた。呆れているのか、それとも諦めているのか。どちらにせよ、この調子で俺の中から出ていくのなら儲けものだ。
「お前は幽霊がフィクションではないというのかポ。中々に興味深いプ」
 そう言うと、ロニクルさんは徐に両手を俺の頭へゆっくりと伸ばし始めた。
「な、何をする気だロニクルさん」
 様々な霊との対峙によって鍛えられた、俺の第六感のヤバいものセンサーが、嫌な予感を感じ取った。
「お前の脳味噌、とっても見てみたいポ……」
 ロニクルさんは、ボーっとした顔をし、頬を紅潮させながら、更に手を伸ばした。

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