騎士と魔女とゾンビと異世界@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

94話「サフィーとマッドサモナー」

「この戦力なら巻き返せるかしら。……いえどちらにせよ、巻き返すつもりでいくべきでしょうね。エミナもミズキにかかりきりになるでしょうし、私とアークス、戦士が二人増えたところで、実質的な戦力は、そう変わらない。でも……私が馬車で休んでる間に、随分と増えたみたいね」「俺のコネだぞ」「違うでしょ」 サフィーは当然のようにブリーツに返す。
「ドド、久しぶりね。数日見ない間に、たくましくなったじゃない」「いえ……ちょっと仲間が増えただけですよ。色々あって……」「いつものポチと、透明なクー、それにペイルホースのブラウリッター。上等じゃないの。魔獣使いなら使い魔は充実させないと」「そうですね。ありがとうございます」「その戦力、頼りにさせてもらうわよ。みんな、基本的には今までの立ち回りでいきましょう。私とブリーツ、ポチとブラウリッターは敵の殲滅よ」「お、おう……張り切ってるな」 ポチとブラウリッターは、サフィーに向かったこくりと頷いたが、ブリーツは若干、サフィーのテンションに気後れしている。
「ひとごとじゃないわよブリーツ、あんたはちょっと、戦い方を変えて」「お、おう……で、戦い方って?」「ストーンゴーレムは、私がある程度は処理できるから、エクスプロージョンよりも広くダメージの与えられる範囲魔法を使って」「そういうことか。まあ……分かったよ」
「よし、アークスとミーナは打ち漏らしを処理! モンスターを絶対に馬車には近付けないで!」「分かった! やってみる!」「りょ、了解だぴょん!」
「クーは今まで通りサポート、ドドは後方支援をしつつ、傷を負った人にトリートをかけてあげて」「「はい!」」 ドドとクーの声が重なる。
「さて……と……」 サフィーが迫りくるモンスター群を、睨みつけるように見据える。
「ミズキの傷が治るまでは、戦線を維持するわよ。っていっても、手加減は無用だから、全滅させたって構わないんだからね! 行くわよっ!」 サフィーが両手の剣を鈍く光らせ、正面に向かって走る。
「「「「おおーっ!」」」」 ドド、アークス、ミーナ、クーの声が重なり合い、この草原に響き渡る。
「ま……ボチボチいきますかね」 ブリーツが、そしてポチが、ブラウリッターがサフィーに続いて走り出した。
「たぁーっ!」 サフィーの二刀流が唸りをあげ、ブラッディガーゴイルと残り少ないリビングデッドを容赦無く切り裂いていく。
 ポチの牙と爪も、サフィーの二刀流に劣らぬ切れ味で、次から次へとモンスター達を仕留める。
 ブラウリッターの突進や足蹴りは、サフィーやポチに比べると威力は小さいが、ブラウリッターには、己に纏った炎と同じ色の、青白く燃える炎による攻撃がある。物理と炎の両方を駆使できるブラウリッターは、瞬間火力ではサフィーやポチを上回る能力を持っている。サフィーやポチに比べても、殲滅力で劣りはしない。
「風よ荒らぶれ、風よ猛れ、風よ暴れ舞え……ボウタイフーン!」 モンスターの周りの風は、見る見るうちに強くなり、あっという間に暴風のように荒れ狂い始めた。その風は、いつしか巨大な竜巻となり、ストーンゴーレムを含んだモンスター達を巻き込んでいく。もっとも、ストーンゴーレムは、この強風にすら耐える肉体を持っているので、大した打撃にはならないだろうが……。
「ま……上等か」 エクスプロージョンよりも広い範囲魔法。サフィーの注文にブリーツは悩んだが、得意な風属性魔法の範囲魔法、ボウタイフーンを使うことにした。
 それでも、完全にモンスター達を仕留められるわけではない。一部のモンスター達は、二人と二匹の攻撃を掻い潜り、馬車に接近してくる。
「はっ! やぁぁっ!」 アークスが、サフィーと同じくアームズグリッターのかかった白く光る剣を振るう。サフィーのように一撃必殺とはいかないものの、ブラッディガーゴイルやリビングデッド少数となら、アークスでも十分に戦える。
「聖なる雷土いかづちの力を以て、よこしまなる者へ裁きを! セイントボルト!」 それはミーナも同じだ。ブリーツのように強力な魔法でストーンゴーレムを倒し、範囲魔法で固まっているモンスターを一網打尽にすることはできない。しかし、打ち漏らした一部のモンスターを相手にするには十分な力がある。いや、力を手にすることができたのだ。
「凄いな、みんな……」 ドドは目の前の光景に驚嘆した。サフィーは一人、また一人と驚くべき速さで敵を薙ぎ倒していき、ポチやブラウリッターもそれに劣っていない。アークス、ミーナ、そしてブリーツも、要所要所で上手く前衛のサポートをしている。 ドドは自分の使用可能な魔法をフル活用してサポートに回りたいという欲求に苛まれた。しかし、ドドはそれを、ぐっと堪える。自分の役目は傷を癒し、もしもの時は魔力を供給することだ。ここで自分まで攻撃に回ってしまったら、味方をケアする役割が出来なくなってしまう。
「クー……」 クーは人の言葉を話せるが、今は全くの無言のはずだ。透明なのが取り柄のクーが戦闘中に声を出してしまっては、自分の居場所が相手にばれてしまう。らく、そういう意図があるからだ。クーは、何も言わずとも、戦闘中には全くの無言になっている。 そんなクーの方も、ロープでモンスターの足をすくってモンスターの動きを妨害、制限し、味方の戦闘を助けている。
「これなら……」 ミズキは戦線から抜けたものの、サフィーの殲滅力も凄まじい。一同は、大勢のモンスターに囲まれながらも、徐々にそれを押していっている。モンスターが召喚される勢いも、これ以上に早くなることはなさそうだ。後ろから冷静に戦況を見れる立場にあるドドは、明らかに戦況が良くなっていることを実感している。
「たぁぁぁぁぁ!」 サフィーが前方のブラッディガーゴイルを切り捨てると、その前のモンスター群の隙間から、何か異質なものが見えた。それはモンスターの類でなく、一人の人間に見えた。 サフィーは直感した。あれがマッドサモナーだと。
「マッドサモナー! 捉えたわよ!」 今回は、ミズキを救い出した時のように一点突破は図っていない。無理のない距離でモンスター達を殲滅した結果、ここまで辿り着いたのだ。つまり、正真正銘、マッドサモナーへ手が届く距離まで、ついに追い詰めたことになる。
「ん……」 ふと、サフィーが視線を感じて左を向くと、そこにはサフィーの方を見ているポチが居た。「……分かってる。私は冷静よ。ここまできたんだから……マッドサモナーに後少しで手が届くところまで来たんだから、ヘマしてたまるものですか」 人の言葉は分からないが、サフィーはポチに言った。そして、周りのモンスターを三体ほど斬り伏した後で、改めてマッドサモナーの方を向く。マッドサモナーを取り巻くモンスターは徐々に少なくなり、マッドサモナーの、黒いローブに包まれた姿が、より露になった。

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