騎士と魔女とゾンビと異世界@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

72話「パコパコと進むコーチ」

 ――パコパコ。 ワムヌゥの足跡が辺りに、そしてコーチの中にも響く。 キャルトッテ村に向かっているコーチにはミーナ、エミナ、ミズキが乗っていて、さっきまでは全速力で走っていた。しかし、キャルトッテ村が近付いているのでコーチはスピードを落とした。 ミーナ、エミナ、ミズキの三人は、それぞれ魔力を、そして防御力を高めるバトルドレスを着込んでいる。 動き易さや精霊力の確保を念頭に置いているバトルドレスの多くは、肌の露出が多い傾向にある。勿論、三人とも、そんなバトルドレスの傾向に漏れずに肌の露出が高めのバトルドレスを着ている。だが、それでも魔法攻撃に加えて、物理攻撃に対しての防御力も、同程度の軽装と同じくらいに高くなっているので安心だ。万全の態勢でマッドサモナーに臨めるだろう。
「ええと、リビングデッドは町の周辺にも居るかもしれないんだよね」 ミズキが、アークスから聞いたことを思い出しながら言った。三人は、レーヴェハイムでマッドサモナーについてアークスから情報を聞いていた。アークスはマッドサモナーについて一番詳しいので、アークスからは出来る限りの情報を聞く必要があった。 そして、その事で実際に、マッドサモナーにどう対応したらいいかのヒントも沢山もらえた。これからキャルトッテ村に乗り込み、マッドサモナーと対峙する時にも有効に働くだろう。
「マッドサモナーが近くに居る可能性もあるぴょんから、ゴーレムやガーゴイルの類も出てくる可能性があるぴょん」 ミーナも、アークスと同じ世界の人間だとはいえ、騎士団ほどの情報を持っているわけではない。アークスの情報と、自分の持っている情報を整理したうえで組み合わせ、マッドサモナーについて警戒すべきことを話している。
「こちらは魔法使い三人。相手が強力な召喚魔法の使い手だとしても、それを上回る対応力はあるはず」 エミナは味方の戦力を確かめ、マッドサモナーへの対応方法を考えている。
「ええと……ミーナちゃんはリビングデッドには対処できるの?」 エミナがミーナに聞く。エミナはミズキがどれくらい魔法を使えるのかは把握している。しかし、ミーナがどれくらいの魔法使いかは分かっていない。「光属性で攻撃魔法なら、そこそこは使えるぴょん。実際に相手にするのは初めてぴょんが、リビングデッドは丁度、ミーナちゃんの適正とは、合ってるみたいだぴょん」「そう……最初は私とミズキちゃんのどちらかから離れない方がいいかもね」
「そうだぴょんね。自分でも、どこまでリビングデッドとやり合えるかは分からないぴょんから。それに、マッドサモナーは召喚魔法の使い手ぴょん。どんなモンスターが来るか分からないから、油断できないぴょんよ」 ミーナは気丈に振る舞っているが、本音を言えば、不安でいっぱいなのだ。発する言葉は不安の裏返しで、相手はリビングデッドだけではなく、強力な召喚モンスターも居るかもしれない。そんな時、自分は冷静に対処できるだろうか。できるとしても、力が及ぶだろうか。そんな事を考えずにはいられない。
「ええ……ミズキちゃんも、モンスターの弱点とか分からないだろうから、出たらその都度教えてあげるね。といっても、ガーゴイルとゴーレムだったら、あまり弱点という弱点は無いかもしれないけど」「そうなんだ。でも助かるよ。召喚モンスターと戦うなんて、僕、初めてだから」 ミズキの言ったことは、ミーナにとって少し意外だった。なにやら忙しいと見えるミズキは、ミーナには百戦錬磨の魔法使いに見えていたからだ。おっとりしてそうなミズキだが、たまに妙に風格を感じる時がある。というのがミーナの感じ方だ。
「でも、あの時に見たような、巨大なストーンゴーレムが相手だと、ちょっと骨が折れそうだよね」「ええ。打撃も頑丈さも、リビングデッドやガーゴイルに比べると特化してるから、魔力を消耗させられてしまうわね。大きいのも戦いづらいし」「だよねぇ。あの巨大ロボットのようなのがあれば、少しは楽なんだろうけどなぁ」「巨大ロボット?」「リーゼのことぴょんね」「ああ……」「ミーナは『巨大ロボット』でイメージ沸くんだね……エミナさんは知らないよね。ええと、こっちの漫画でそういうのがあってね……あ、そうだ。今度持ってくるよ、ロボットものの漫画」「そういうのがあるんだ……わっ!」
 コーチが急に止まった。進行方向とは逆の方向へ座っていたミズキとエミナは、その衝撃で体が大きく前に揺さぶられた。 対面のミーナには、ぎりぎり当たらなかったが、相当な衝撃がコーチの中に走った。「ど、どうしたの? マミルトンさん!?」 エミナは、コーチを飛び降りると、コーチの前へと駆け、このコーチの御者である、小太りで中年のマミルトンに声をかけた」「出たぞエミナちゃん! リビングデッドだ!」「はっ……!」 ミーナがコーチの前方を見ると、そこにはたくさんのリビングデッドが、こちらに向かって歩いている光景があった。
「リビングデッド……あれが……ミズキちゃん! ミーナちゃん!」「あれがリビングデッド……結構多いね……!」「やっぱり来たかぴょん!」 ミズキとミーナもすでにコーチを降り、エミナの後ろに位置取っていた。
「マミルトンさん、最初の手筈通りにコーチを安全な所まで引かせてください! 合図は手筈通りライトニングフラッシュで!」 光属性魔法ライトニングフラッシュ。威力は無いが、激しく発光する玉を放つ魔法だ。またコーチが必要になったら、ライトニングフラッシュを上空に打ち、御者のマミルトンに合図するという手筈になっている。「おう! エミナちゃんも気を付けてな! おっと、二人もな!」 マミルトンは三人に手を振りながらコーチを反転させ、大勢のリビングデッドとは反対側に走らせた。
「凄い人数……でも、やれない数じゃないわ……!」「エ、エミナさん……そうかな……僕、戦うの久しぶりだし、リビングデッドとまともにやりあうのは初めてかもしれない……」「大丈夫、ミズキちゃん。ミズキちゃんの光魔法だったらリビングデッドくらい一撃だよ。それに、魔力量の総量は、私よりもミズキちゃんの方が上だし、頼りにしてるよ」 エミナがミズキを見据え、微笑んだ。
「でも……無理はしないでね。無理そうだったら言って。出来るだけフォローするから。ミーナちゃんもね」「エミナ……わ、分かったぴょん……」 レーヴェハイムの魔法使いエミナ・パステル。レーヴェハイムに居る時は、穏やかで人が良さそうな人に見えたが、こと、こういった事態になると途端にたくましさを感じる。ミーナは、それまでの不安な気持ちが少し和らいだ気がした。
「ミーナちゃんだって、リビングデッドと戦う事なんて初めてだぴょん。どこまでやれるか分からないぴょんが……」 ミーナがリビングデッドを見据る。体には自然に力が入り、拳を握り締めていた。「戻って騎士団に応援を頼むにもどうなるか分からない。この世界の騎士団に頼るにも、時間がかかる……」 騎士団はレーヴェハイムには居ない。騎士団に応援を頼むとすれば、レーヴェハイムから1週間ほどかかるクルスティアが一番近い。そこにはレーヴェハイムで一番ワムヌゥを早く走らせることができる御者、シュトライが既に向かっている。「この三人でやるしか……アークス、ミーナちゃんは必ず帰るぴょん……」

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