騎士と魔女とゾンビと異世界@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

59話「リーゼ戦」

「く……一体、何なんだ……?」 アークスに襲い掛かる、レーダーに移らない何か。それは巨大な人型の岩だった。
「……ミーナ、ひとまずここに隠れてて。危なくなったら、もっと遠くに逃げるんだよ。あっちの方向に行けば、町があるから。何か移動に使えるような魔法、使える?」 アークスが、リーゼのミーナが乗っている方の腕を岩陰に下ろしながら、ミーナに色々と言っている。その言葉は、岩陰に移動して、そこに至るまでにも何回も言った言葉なのだが、ミーナはそれが気に入らない様子で、一貫して反論をしている。「ちょっとアークス、ミーナちゃんだって戦えるぴょん!」「ミーナ……無茶だよ。あんな大きなゴーレム、生身で戦ったら危険だよ。ほら、降りて、ここに隠れていて」
 リーゼと同じくらい巨大なサイズのゴーレム。見た目からして材質は石。ストーンゴーレムだ。しかも一体ではない。アークスに見える限り、三体のストーンゴーレムが、アークスの乗るリーゼに向かってきている。こんなに巨大なストーンゴーレムを、三体も同時に召喚するなんてあり得るのだろうか。アークスが、そう思った時、真っ先に浮かんだ人物が一人居る。
 マッドサモナー。この時空の歪みを探る任務とは関係が無いはずの人物だ。結構な質のブラッディガーゴイルを、何体も立て続けに召喚できるほどの熟練した召喚魔法使い。 今のところ、このストーンゴーレムを召還したのがマッドサモナーかどうかは分からない。マッドサモナーと同程度の、召喚魔法の熟練者だということだけだ。しかし、そんな希少な存在が、同じような場所で、同じような出来事を起こすだろうか。 この出来事は、偶然とは思えない。マッドサモナーと同一人物、または、マッドサモナーと繋がりのある人物の仕業だ。アークスは、今、起きていることについて、そう結論付けた。
「あんなの、ただの石人形だぴょんよ! ミーナちゃんが手伝えば勝つる! アークスだけじゃ頼りないぴょん!」「いや……」「ほら自信が無いぴょん! ミーナちゃんが手伝ってやるぴょん!」 アークスは嘘をつくのが苦手だ。ミーナはそれを知っている。だから、今の答え方で、ますます引けなくなった。攻撃魔法の方は、人並みに使える。だから、自分が手伝う事で、アークスの勝つ確率も上がるはずだ。手伝わないわけにはいかない。
「でも……ミーナは隠れてて。危なくなったら逃げるんだ。騎士は民を守らないといけないから」 ミーナの読み通り、アークスは、自分に勝ち目が薄いと考えている。マッドサモナーに関係しているとなったら、尚更だ。だから、自分がやられてしまった時のことを考えると、ミーナには逃げてほしいのだ。
「な、何を言うんだぴょん騎士だからって……」「来る……! ごめん、ミーナ!」「わわっ!」 ストーンゴーレムが間近に迫ってる。アークスは、リーゼの手の平をくるりと回して、強引にミーナを地面に落とした。ミーナが岩の陰に転がり落ちる。
「アークス! 何するぴょん!」「燃料は大丈夫だよね……」 アークスはストーンゴーレムとの距離を気にしつつ、リーゼの燃料表示を見る。燃料は三分の二程度は残っているので、ストーンゴーレム三体を相手にするくらいなら、補給しなくても百パーセントの出力でやりあえそうだ。リーゼを使用するといっても、人間と比べても燃費大食いのリーゼのブースターを使うことは、戦闘状態でもない今までは許されていなかった。なので、今までずっと馬車程度のスピードで歩いてたが、それが功を奏した結果になった。
「よし……」 ストーンゴーレムならば、これといった武器を持っていず、徒手空拳で攻めてくるだろう。アークスは、ストーンゴーレムの特徴を頭に思い浮かべながら、リーゼを自分に一番接近しているストーンゴーレムの方へと向き直らせた。
 ストーンゴーレムは、丁度、自らの攻撃範囲にリーゼを捕らえた所だった。「……」 物言わぬストーンゴーレムのパンチが、アークスのリーゼを襲う。 アークスのリーゼは、横に軽くステップをしてそれを避けると、同時に腰の剣を引き抜いた。
「はぁぁっ!」 リーゼが剣撃をストーンゴーレムに放つ。
 ――ガキッ!
「くぅ……!」 ストーンゴーレムの方も、そう簡単には斬られない。「防がれた……! 距離を取らなきゃ……」 アークスが、リーゼのブースターを作動さた。リーゼはスピードを上げて、次の一撃が来る前にストーンゴーレムの横を通り抜け、そのまま推進し続けて、ストーンゴーレムとの距離を取った。
「そう簡単にはいかないよね……」 通常の汎用型リーゼ「ナイトウォーカー」よりも近接攻撃力に特化した「ナイトストライカー」。他にリーゼを使う用が、ほぼ無い現状だったので、一番生産数の多いナイトウォーカーではなく、念のためにナイトストライカーを選んだのは正解だった。 アークスは魔法が一切使えないので、汎用性のあるナイトウォーカーよりも、魔法能力を切って、物理攻撃での近接戦に特化したナイトストライカーを選んだ。そして、結果的に、こうやって、ストーンゴーレムとの接近戦を強いられることになった。そういったことは、不幸中の幸いだといえるだろう。
 それでも、アークスの技量では、何の工夫も無くストーンゴーレムを一刀両断というわけにはいかない。ストーンゴーレムを切り裂くにはコツが必要になる。石と石が繋がっている関節を狙って、そこを斬らなくてはいけない。 人間で表すと、首、肩、肘、膝、腰、手首、足首、そして手足の指間接の部分だ。中でも腰の部分を断ち切れば、一撃で行動を不能にすることができるだろう。しかし、そのためには敵の間近、深くに踏み込まなければならない。それはそれで技量が必要だ。
 アークスがストーンゴーレムに太刀打ちするためには、まずはストーンゴーレムに内包された魔力を放出させるのが有効だろう。 肘や膝、肩や手首足首の、断面の大きな関節を狙って、その切断面から魔力を発散させる。足や手の指の関節を一つ切り離したところで効果は薄いが、じわじわと攻めるにはいいだろう。首の関節を狙う意味は薄そうだ。腰の次に攻めにくい部位でありながら、それほど切断面の体積も無いからだ。
 三体のゴーレムの位置関係と、ミーナの隠れた岩を意識しながら、じわじわと間合いを調節する。狙うはストーンゴーレムの関節だ。「出来るのか……僕に……!?」 アークスのリーゼの操縦経験は少ない。実戦となれば、更に少ない。初めてといっても差支えが無いだろう。三体ものストーンゴーレムを一体のリーゼで相手にすること自体に無理が生じていることは、アークスにも分かっている。
「……よし」 アークスがリーゼのブースターを作動させる。ストーンゴーレム三体のうちの、比較的他のストーンゴーレムと距離が離れたストーンゴーレムに向かって、ぐるりと大きく回り込ませるようにリーゼを移動させた。出来る限り、一対一で相手にできる環境を作るためだ。

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