１４話「魔女からの捜索依頼」

「これは……何だ……？」　ミーナが居る可能性の高い場所として、魔女はいくつかの場所を挙げたが、アークスは、そんな場所のうちの一つ、花畑へと来ていた。花畑が魔女の住処から最も近かったからだ。　魔女が他に挙げた二つの川は、この花畑を挟む形で位置している。まずはどちらかの川から捜索した方が効率的かもしれないが、それは全部の場所を訪れる場合だ。今回の場合は、ミーナが見つかれば他の場所へ行く必要は無くなるので、運が良ければ一番近くから探した方が短時間で済む。　それに、もし、何かしらのトラブルがミーナを襲っていた場合、ひとまず一番近くのミーナが居る可能性のある場所に来れば、何かしらの手掛かりが得られるだろう。　アークスは、この二つの点から、単純に近い場所から探索していこうと思ったのだが……どうやら、あまり歓迎できない後者のメリットがあったようだ。ミーナは、何らかのトラブルに巻き込まれている可能性が高い。
「轍……？　でも、こんなに無造作に……」　アークスが花畑に着くと、まず目に入ったのは大きな轍だ。花畑の一部が大きく抉り取られている。花は何かに押し出されたかのように根こそぎ引き抜かれて轍のそばに散乱していて、地肌は剥き出しになっている。「意図的につけたんじゃないよな……かといって、ここを荒らそうとしたという意思は感じられないし……」　轍は、たまに曲がりくねっているが、花畑の外へと繋がっている。途中で多少、右往左往している箇所はあるが、轍は一筆書きのように花畑を横断している。意識してこの花畑を荒らそうとしていたのなら、轍はもっと広範囲に広がっている筈だ。「誰かが通過しただけ……？」　大袈裟な轍を付けながらだが、何者かが、この花畑を通り道にしていったと考えるのが妥当だろう。　何者かというのは、巨大な生物である可能性が高い。一般的な背丈の人なら、こんなに大袈裟な轍は出来ないし、車輪の跡とも考えられない。車輪なら、少なくとも二本づつ跡が付くだろうし、轍の模様も規則的になるだろう。しかし、この場合は人工物の跡とは違って、轍には不規則な凹凸が目立っている。「猪……じゃないよな……」　猪にしては、あまりに巨大だ。猪だとすれば、この一帯の主のような存在だろう。アークスの肩幅の、優に二倍は超している、太い轍だ。「これは……無事で居てくれればいいけど……」　アークスの胸に不安がよぎる。こんな巨大な何かに襲われたとしたら、ミーナは無事ではないかもしれない。「早く、探さないと……」
　アークスは、謎の轍によって荒れてしまった花畑で、ミーナを入念に探した。丈の高い花は掻き分けて、その陰に隠れていないか探し、巨大生物によって撒き散らされた土に埋もれていないかも、剣で土を掻き分けて探した。ミーナが無事なら、こんな事はしなくてもいいだろうけれど、巨大生物に襲われて倒れているかもしれない。念を入れて探す必要がある。
「居ないか……多分……」　アークスは花畑を一通り探してみたが、ミーナは見つからなかった。しかし、ここに居る可能性は否定できない。もっと念入りに探せば見つかるかもしれないが……今は他の所を探すのが賢明だろう。アークスは川へと向かう事にした。　二つの川、どちらに向かうかと考えてみたが、どちらも同じくらいの距離だし、どちらの方がミーナが居そうかなんて分からない。これといって、どちらにも優先する理由は考えつかないので、北方の川へと向かうことにした。