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内気な僕は異世界でチートな存在になれるか?@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

1-36.黒い陸地

「――ん……」「起きた?」「うん……ここは? なんか、黒い所だね」
 下が真っ黒だ。川や、背の高い木や岩場以外は真っ黒。黒い土だろうか。或いは溶岩が固まったらこうなるのかもしれない。
「ジャームだよ」
 緊迫した面持ちで、エミナさんが言った。
「ええ? どういう……」
 瞬間、心臓がドクリと激しく脈打った。収まらない。胸が痛い。気持ち悪い。
「これ……全部……」
 陸地を包む黒いものは、良く見るとゆらゆらと蠢いている。
「ジャームだ……」
 陸地の殆どが、ジャームの黒い色で染まっている。地平線までびっしりとだ。
「さて、ミズキが起きたところで、手筈を話そう」「う、うん……」
 下の夥しい数のジャームが気掛かりだが、今はエルダードラゴンさんの話に意識を向けよう。
「まず、この数のジャームを魔王と同時に相手にすると、更に厳しい戦いになるだろう事は、分かるな?」「まあ……ジャームだけでも無理そうだし」
 陸地を覆うほどの、とんでもない数のジャームを相手にするのは、いくらなんでも無理だ。きっと、下へ降りた途端、土を踏む前に寄ってたかってジャームに食い尽くされるだろう。
「いや、私とイミッテならば、この程度のジャームがいくら居ようとどうにでもなる。そなたら二人も、今は私と同程度の力がある」「ええ?」「私の龍の加護、そのバトルドレス、そして、そなたら自身の成長。これらにより、そなたらの力が私と同程度か、それ以上に引き上げられているのだ」「そうなんだ……」
 僕は自分の体を見回したが、特には変化は感じない。
「ふむ。なので、二つに別れて行動しようと思う。魔王との相性を考えて、エミナとミズキが魔王の相手を、私とイミッテで周りのジャームの掃討をする」「え!? 大丈夫なの?」「む? 何か不安なところでもあったかな?」「だって、僕やエミナさんよりも、エルダードラゴンさんとイミッテの方がいいんじゃないの? 伝説の勇者で、魔王とも戦ったことがあるんでしょ?」「残念だが、我々二人には手に負えんのだ。いや……かつての勇者と巫女を合わせても、魔王に打ち勝つことは不可能だろう」「えっ……でも……勇者パーティーは魔王を封印して、この世界を救ったというのは嘘だったのですか?」「真実だ。伝承では、そう伝えられている。さも我々が勝った風にな」「なら……何故……?」「我々は、負けたのだ。勇者と、そして、その巫女を犠牲にしても、魔王を封印して時間を稼ぐことしか出来なかった。この世界も、外の世界から切り離すしか手が無かった。まさか、イミッテに手下を乗り移らせるほどの余裕まであったとは思わなかったが……」「まったく……ここまでいいようにされるとはな。我ながら情けない」
 イミッテは苛立ちが隠せない様子で言った。
「だからこそ、エミナ、ミズキ、そなたら二人が生まれたのだ」「私達が……」「そういえば、定めって言ってたね」「そうだ! 私達は、この時のため……再び魔王が復活する時のために、お前達二人を生み出したのだ!」「もっと正確に言えば、力を集積させるために、運命をねじ曲げた……と言うべきかな、じじい?」「運命を……意図的に、偶然起こる事のタイミングを合わせた……という事なのですか?」「そうだ」「僕がこの世界に転生したのも?」「そなたが定められし者だという事は、前に話した通りだ。転生先の器は後から私が作った。魔王封印後の事は、全て私がやる事になっていたからな」「うむ。本当なら、生き残るのは、じじいだけの筈だったからな。私もあの時に死んでいる筈だった」「うむ。魔王の封印、世界の断絶、そして、魔王に打ち勝つ新たな可能性を生み出す事。これだけの事をやらなければならなかったからな。こうするしかなかった」「私は、私にとり憑いた旧支配者のお陰で、図らずとも生き残ってしまったがな」「まあ……それ以外は、かねてから定められた偶然といったところか。……さて、そんな偶然が生み出したそなたら二人は、魔王にとっては天敵に他ならない。これは属性の問題ではなく、魔力の質自体のによるものだ。それに加えて、属性の相性も考えれば、勝機は見出だせる。……私は、そう願っている」「……」
 運命を強引にねじ曲げて、この状況を作った事、エルダードラゴンさんの言い方からすると、それでも勝ち目が薄い事、そして、魔王との戦いに、僕とエミナさんの持つ影響力が、思ったよりもずっと大きい事……どれも理解し難い。僕とエミナさんは、暫く沈黙した。
「でも……やるしかないよね。みんなを……この世界を救うのは、私しか居ないんだから」「エミナさん……エミナさんだけじゃないよ。僕だって、一緒だから」「ミズキちゃん……」「なんつーか、すまないな。これも、私達が決着を先伸ばしにしたからだ」
 エミナさんは、イミッテの言うことを、すぐに声を上げて否定した。
「謝ることないよ! イミッテちゃん達、勇者パーティーが居なければ、もっと酷いことになってたんだから」「ふん……気休めはやめてくれ。負けは負けなんだ……今回だって、結局、更に不利な状況で戦わなくれはならなくなった」「イミッテちゃん……」「イミッテ、僕もエミナさんと同じだよ。失敗しない人間なんて居ない。神様だって失敗するかもしれない。でも、勇者達は最後まで諦めないで、少しでも、この世界が平和になる事を望んだんだ。この世界を少し見ただけで、それが伝わってくるよ」「ミズキ……」「精一杯やった結果が今なんだ。そうでしょ?」「不甲斐無い結果だがな」「違うよ」「うん?」「結果がどうかなんて、もう関係無いじゃない。それはもう、自分が言う事じゃなくなってるんだ。精一杯やって、充分休んで……それでも懲りずに何かをやりたいのなら、また続きをやるだけだよ」「ううん……ミズキ、お前、世界の危機を遊びみたいに言うなぁ」「同じでしょ、結局、全ての物事なんて」「まあ……そうかもしれんな」「一回死んでさ、この、何もかも知らない世界で過ごしてみてさ、なんか、吹っ切れちゃったのかも」「ほう……生意気な事を言ってくれるじゃないか」「ごめん、別に偉そうに言ったつもりは無かったんだけど……ついさっきまで、自分でも同じように悩んでた気がしてさ……いや……今も、こうして話して頭の整理をしているのかもしれない」「わたしゃついでか! 頭に来るな! ……と言いたいところだがな、気分が晴れたよ。どうやら、お前は私が思っていたのとは逆に、相当な楽天家らしいな」「たった今、そうなったのかも」「乗っ取られている時の記憶から察するに、どうやらそうらしいな。楽天家であり、繊細……かな? じじいにも、ミズキや私のような繊細さを見習ってほしいものだな!」「おいおい、おぬしは体感的に、あの時の直後なのだぞ? 私だって、当時は落ち込んだのだよ」「だったら、精神的フォローの一つもすべきだろう」「イミッテ、お前な、今がどういう時か……」「はい、そこまでだよ二人とも、言い合いは、この戦いが終わってから」
 見かねたエミナさんが間に入った。僕も、放っておいたら人間の一生位は平気で言い合ってそうだと思う。
「む……確かにそうだ」「まあ……その通りだな」「うん。ところでエルダードラゴン様、魔王は、やはり闇属性なのですか?」「僕もよく分からないけど……闇だってイメージが強いよね。ゲーム……僕の世界の物語での雰囲気だけど」「だとしたら、光魔法で攻撃した方がいいのかな?」「加えて火属性も有効だろう。奴は恐らく、闇と風の属性を纏っている筈だからな」「光と火か……えーと……エクスプロージョンとか、ナタクフェイバーとか、シャイニングビームとか……」
 僕は二つの属性の魔法を思い浮かべた。
「勿論、無理にそれだけ使う事はないぞ。魔法の性質もあるからな」「ああ、そうか。自分にかける魔法は関係無いのか」「そうだ。あと、相手を妨害する魔法もそれほど気にする必要は無い。元々の魔力の性質上で相性が悪いのだから、それで聞かない魔法は、魔法の性質上、効かない魔法だ」「ああ……えーと……」「ただでさえ相性が悪いんだから、それで効かなければ、どんなに強力でも効かないって事だよ」
 僕が理解に苦しんでいるのを見かねてか、エミナさんが付け加えた。
「ええと……つまり、直接ダメージを与える魔法以外は属性を気にしなくていいのか……」「そう言う事だ。さて、そろそろだろう。私とイミッテが魔王の周りのジャームを一掃する。そなた達は、そののちに、私の背から飛び降りるのだ。「うん。でも、逆にさ、この数のジャームを二人で相手にするのって、大丈夫なの?」
 僕が言った途端、反応したのはイミッテだ。
「ああん? この私をみくびらないでほしいものだな。こんな烏合の衆、数のうちに入りすらしないぞ」「……というのは言い過ぎだな」「……おい」「ただ殲滅するのならば、確かに、この程度のジャームがいくら集まろうとも我らの敵ではないだろう。だが、魔王との戦いを邪魔させぬようにせねばならないのだぞ」「まあ……その条件付きなら、この数を二人でというのは、多少は骨が折れるかもしれんが……」「そういう事だ。こちらからの支援は無いものと思ってほしい。だが、魔王の所へは、一匹たりとも近寄らせはせぬ。思う存分魔王との戦いに集中するがよい」「うむ。数が多いとはいえ、この程度の奴らを、完全に御せぬようではエルフオブマスターアーツの名が泣くというものだ」「そ、そうかい。いや、二人を疑ってるわけじゃないんだよ……」「無論だ! お前に見くびられるほど、私は弱くないんだぜ! それより、お前たちはこれから魔王を相手にするのだぞ? 魔王はこの百倍のジャームに比べたって、余りあるほど強力だぞ。そんな気構えでは頼りないな!」「ええ……そうなの?」
 僕はエルダードラゴンさんの方を向いた。
「うむ。この千倍……いや、それでも足りんな。質で凌駕しているのだ。いくら数を揃えたとして、比べものになるまい」「そうなんだ……」「だからこそのお前達だ。お前達は質で魔王に届く血からがあるんだぞ!」「う、うん……」
 決戦を前にした、イミッテとエルダードラゴンさんの気迫が伝わってきて、すごい迫力に気押され、狼狽えてしまう。 そんなとんでもない相手に勝てるのだろうか。
「さて、着いたぞ。我々は、過去にここで魔王と戦い、そして、ここを中心に、この世界を隔離した。即ち、ここは世界の中心。そして、魔王の居る場所だ。三人共、心の準備はいいか?」「おう、早くおっ始めようぜ」「私も……いけます、!」「ぼ、僕は……」
 心臓がばくばくと音をたてて鳴っている。怖い。魔王は途轍もなく強いだろう。そして、負けたら殺されてしまう……いや、僕だけの問題じゃない、旧支配者に再び支配されて……ゾッとして、その後は考えれない。心の準備なんて、出来るわけがない。だから……。
「大丈夫だよ。いつでもいい」
 準備はしない。ここまで来たら、後はやるしかない。
「ではいくぞ! しっかりと掴まっていろ! うごおぉぉぉぉぉ!」
 エルダードラゴンさんの口から、あの時のように眩い光が放たれる。 エルダードラゴンさんの体が激しく震える。本当にしっかりと掴まっていないと振り落とされてしまいそうだ。
「ごおぉぉぉぉぉ!」
 エルダードラゴンさんは、光を放ち続けたまま、首を縦に持ち上げた。
「凄いなぁ、あれだけのジャームが一気にこれだもん」
 ジャームは、エルダードラゴンさんが首を動かしたことで、光によって、地平線まで直線状に凪ぎ払われて、消し飛んでいた。
「私にもやらせろよ!」
 イミッテは、腰の辺りに手を移動させると、空気を包み込むように指を開いた。
「はあぁぁぁぁぁぁ……」
 両掌の内側に、エルダードラゴンさんのと同じような色の何かが発生し、どんどん広がる。
超気功流奥義ちょうきこうりゅうおうぎ! 気功丸きこうがん烈空破光れっくうはこう!」
 両手を前に突き出すと光もそれに付いていき、まばゆい光を放つ帯となってジャームの集団へと向かっていく。
「こ、こっちも凄い……」
 烈空破光れっくうはこうが着弾した所を中心に、相当の範囲のジャームが一瞬にして消滅した。後に残ったのは円形に抉られ露になった地肌だけだ。 しかし、その地肌も、すぐにジャームによってじわじわと黒く侵食され始めた。確かにエルダードラゴンさんとイミッテの言った通りだ。真っ先に魔王を叩かなければ、きりが無さそうだ。
「よいか、今から私とイミッテが魔王に攻撃を仕掛け、同時に周りのジャームを退治する。 そして、その後、私が魔王の近くに急降下する。そなた達は、そこで飛び降りるのだ」「うん、分かったよ」
 もう、僕の決意は固まった。いや、もう固める他に手が無い。
「よっしゃあ! じゃあいくぞ!」
 イミッテが、さっきの格好をとった。
「やれやれ、せっかちな事だ。同時にいくぞ」「おう! おぉぉぉぉぉぉぉ……超気功流奥義ちょうきこうりゅうおうぎ! 気功丸きこうがん烈空破光れっくうはこう!」「すうぅ――……ぐおぉぉぉぉぉ……!」
 二人が同時に各々の攻撃を放った。狙う所も一緒みたいだ。二人の攻撃が、ほぼ同時に同じ地点に着弾すると、激しい音と共に強烈な光が僕を襲った。 遥か上空を飛ぶ僕の周りでさえこれなのだから、地上は凄まじい事態になっているだろう。僕がそう思って戦慄していると、やがて光は収まった。 陸地からはジャームが消え去り、黒い色ではなくなった。その代わりに出来たのは、巨大なクレーターだ。
「うわっ! クレーター出来てる! ちょっと、やり過ぎじゃないの!?」
 勇者パーティーの二人が力を合わせて放った攻撃なのだから弱いわけはないが……これはこれで想像の遥か上を行っている。
「いや……思ったよりもダメージが少ない」「くそ……! あいつめ、私の思った以上に力を取り戻してるぞ!」
 イミッテの額に、じわりと汗が滲む。ここからでは見えないが、エルダードラゴンさんも同じだろう。
「ダメージって……」
 僕はイミッテの視線を辿り、地上の一点を凝視した。
「……あ!」
 何か居る。青い何かだ。
「見えるかミズキ。あれがお前が倒すべき相手だ」
 イミッテの声が、いつになく強張っている。
「倒すべき相手……か……」
 この世界の事も碌に分からない僕が、本当に魔王と戦うのか。なんだか実感が沸かない。
「行くぞ!」
 掛け声と共に、僕の体に衝撃が走った。エルダードラゴンさんが急降下を始めたのだ。
「二人共、私の合図で飛び降りよ」「はい」「う、うん」
 エルダードラゴンさんが、ぐんぐん地面に近付いていく。そして、地面スレスレの一歩手前くらいの所で、エルダードラゴンさんは叫んだ。
「今だ! ゆけ!」
 僕とエミナさんが同時に飛び降りる。バトルドレスのヒラヒラとした袖とスカートをたなびかせながら、僕とエミナさんは地面に向かって落下する。

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