巫女と連続殺人と幽霊と魔法@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

104話「呪いの計画」

「そう……頭の中ではずっと考えていた。忘れかけていながらも、どんなに時が経とうと忘れられないだろう呪いの計画を。だから……衝動的にやっちまったんだ。その時にな。その忘れかけていたものが、急に表に出てきたんだ。同時に……邪魔者は消そう。そうとも思った。成功する確証なんて無かった。だから、今まで思い浮かんでも手は付けなかった。私だって、命は惜しいから……だが……この……連続殺人とか呼ばれるようになっちまった呪い。それを衝動的に実行させたのは親だ。それは事実なんだ……」 言葉を伝って、梓に冬城の複雑な気持ちが伝わる。しかし、これが懺悔なのか、自慢なのか、それとも悲鳴なのか……梓には読み取れない。
「邪魔者を生け贄にして消せる。その時は、家族の愛情よりも、呪いに対しての欲求が勝ったんだ。そして……私は父さんを殺した。いや……父さんを生け贄にして、どこの誰かも分からない他人を殺した」「そ……それが連続殺人の始まり……!」 瑞輝が強張った声を上げた。
「ふ……桃井には恐えだろうな。ティムは何故か一目置いてたが……だが、その直感は正しいよ。私は連続殺人鬼だ。たがは、その最初の一回で外れたよ。呪いが成功したからだろうな。途轍もない快感が、私を襲ったんだ」「……」 呪いの始まり。それは梓の想像を超えるものではなかった。ふとしたきっかけで呪いの快感を覚えた者が、暴走を始める。それは梓にとって、何回も見てきた悲劇だった。
「それから私は更に呪いに没頭した。次に試したことも成功したからな。インスタントな人間関係でも、生け贄としては十分なんだ。たかだか一週間程度の付き合いでもな」 冬城は言い終わると、「ふ……」と短く息を吐いた。「冬城さん……!」 梓が自然と歯を食いしばった。冬城を呪いの側から解放してやることが出来なかった無念さ。そして、いよいよ直接対決をしなければならないという緊迫感からだ。
「ありがとう。全て話して楽になった気がするぜ」 冬城が拳銃の引き金にかけていた指が僅かに動いたのを確認した梓は、すぐに飛び出そうと思った。「……危ない!」 だが、先に飛び出したのは瑞輝だった。自分の横を通り過ぎる瑞輝の姿を横目に見た梓は、瑞輝がすでに女の子の姿になっていることを確認した。「冬城さん!」「なっ……! 瑞輝、お前……!」 冬城が狼狽えている。その様子を見た梓は既に手に持っていた矢を、弓を使わずに、冬城に投げつけた。梓は、瑞輝が冬城の意表を突くために女の子の姿になったのだと、一瞬で洞察した、それでも矢を弓から放つには時間が足りなかったからだ。
「ぐっ……!」 矢は、弓で打つほどの勢いは出ないものの、それでも勢いよく冬城の手元に飛んでいき、冬城の手に当たって拳銃を落とさせた。「おいおい、弓要らねーんじゃねーか……?」 駿一がそう呟き終わる頃にも、冬城は急いで床に落ちた拳銃を拾おうと屈み、梓と瑞輝は冬城を取り押さえようと冬城に飛びかかる。
「ぐ……!」 なんとか拳銃を拾い上げた冬城だったが、次の瞬間に梓は羽交い絞めにしようと冬城にとびかかった。冬城は体を強く押されて床に倒れ始めていたが、そんな中で、冬城は拳銃を投げた。「!?」 梓は冬城を押し倒しながらも、拳銃が向かった方向に顔を向けた。そして拳銃の向かう先を見た梓の目は見開いた。 拳銃の向かう先には、簡素な机が置かれていた。それが冬城が呪いの本を読んだり、呪いの準備をしたりする場所でないことは、梓には一目瞭然だった。 木でできた、背の低い簡素な机。それは、明らかな儀式用の机に見えた。その上には蝋燭が二本、端の方に置かれていて、机の更に奥には、何かの木彫りの像が置かれている。 机の上には何かが……恐らくは魔法陣が書かれた紙が置かれていて、小さく平たい皿には、僅かに黄色がかった白い粉が、山盛りにされている。
 梓が冬城を完全に押し倒し、床に押し付けた時、拳銃は粉の盛られた皿の上を僅かにかすめ、後ろの木像へと当たった。 木と木像がぶつかった時に発生した「カン」という乾いた音とほとんど同時に、梓は「あっ!」と、思わず声を上げた。「き、来ます……!」 梓が直感し、戦慄した。梓の目に、一瞬だけ入った、部屋の片隅の様子。ジュブ=ニグラスの呪いの儀式が整っていることを意味していると、梓はそれを見て理解できた。
 拳銃は、粉の盛られた皿に命中はしなかった。しかし、皿の上をかすめただけで十分だった。拳銃が勢いよく皿の上をかすめて進んだので、皿に盛られた粉は巻き上がった。巻き上がった粉のうちのいくらかは、隣に敷かれた紙に書かれている魔法陣の上に落ちるだろう。 魔法陣の上に粉が落ちる。ジュブ=ニグラスの呪いについて調べ、それを目の当たりにした梓には、その意味するところがはっきりと分かった。
 呪いの成立だ。
 依代としての、恐らくジュブ=ニグラスに近しい存在の木彫りの像を置き、その前に設置した机の上には日本の蝋燭。中央には魔法陣が書かれた紙を置く。これは、梓が調べた範囲には無かったものだが、儀式の形式としてはオーソドックスなものだ。恐らくは、ジュブ=ニグラスの儀式の一部になるものか、それをやりやすくするためのものだろう。 呪文は……恐らく必要ないか、事前に儀式を済ませておけばよい性質のものだろう。冬城が呪文を唱えはじめる様子は見当たらない。 そして、ブードゥー式の呪いに見られる、特徴的な粉。冬城は明確に、この粉を目掛けて拳銃を放り投げた。この粉を少しでも魔法陣に落とすのが目的で、その目的は成ったと考えるべきだろう。だとすると、この呪いに重要な要素であるはずの生け贄は誰なのか……梓の思考はそこで詰まった。生け贄が誰なのかは分からない。候補を絞ることすら難しい。この場に居る、呪いの使用者である冬城を除いた全員が、もはや、その候補になっているからだ。


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