巫女と連続殺人と幽霊と魔法@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

91話「冬城」

「うん? 冬城?」 ふと、駿一は冬城が居ないことに気付き、きょろきょろと辺りを見回した。「あれ? 本当だ。冬城さんが居ない……」 瑞輝もそのことに気付いた。「心配無いです。冬城さんがどこへ行ったかは見当が付きます。でも……」 そう。この行動からして、冬城が犯人だという事には間違いが無くなった。しかし……手筈通りに事を進めるには、梓はまだ力不足なのだと、今、怪物と戦って、分かった。 梓としては、破魔の矢を使いこなすために最善の修行をしたつもりだったのだが、それでも怪物は、瑞輝の力を借りなければ倒せなかった。 一発目の破魔の矢を打った感触は確かで、破魔の力を扱う技術は増し、自分自身の破魔の力も増して、力はついている。しかし、それでも怪物二体を相手にするには無理があるらしいと梓は感じる。この場に、怪物に対処できる人物が梓だけしか居なかったら、梓は負け、殺されていただろう。 だとすれば、今、冬城の後を追うのは、返り討ちにある危険が高過ぎる。しかし……。
「……お二人共、一緒に来てくれるですか?」「えっ? ぼ、僕?」「ん……話が良く見えんが、乗りかけた船だ。断る理由もねーけど……」「……協力してほしいです。私一人だけじゃ、無理ですから……」 魔法を一発放っただけで苦しそうにして、今も顔を赤らめながら、頭を梓の膝の上に置いている瑞輝のことを見ると、梓の心は締め付けられた。こんな状態の瑞輝さんを、私は更に無理矢理に動かそうとしている。梓がそう思って自責の念に駆られているからだ。
「……詳しいことは、移動しながら話したいです。ついてくるです」「また走るんだ……」 瑞輝が、フラフラと起き上がりながら、額の汗を拭う。顔はまだ赤く、息は荒い。「こういう時、ティムやら悠やら、疲れにくい奴が居ればいいんだがな。よりによって、こういう肝心な時に両方とも不在なんだよなぁ」 駿一も、かぶりを振った。
「あはは、上手くいきませんね。でも大丈夫ですよ。歩いていきましょう」「ん……なんだ、歩きでいいのか」「で、でも急いで追いかけた方がいいんじゃないの?」「早く着くに越したことはないですよ。その方が、相手に準備の時間を与えないですから。でも、こちらのスタミナを確保することも重要です」「そっか……冬城さんの行く所、梓さんにはどこだかは分かってるんだ」「勿論です。そのために、こういった、おびき寄せるようなことをやって、悪く言えば騙したんですから」「それなら、まあ……十分に準備が整えてから、冬城さんに近付いた方がいいですよね」「ええ。相手は強力な呪いを使うですから。それが怪物のだけじゃないかもしれないし」 冬城は咄嗟に、ジュブ=ニグラスの呪い以外の呪いを使う可能性もある。その呪いが何かは分からないが、冬城の呪いへの精通ぶりを考えて、梓はそう考察した。 恐らく、二体の怪物は、一回発動したジュブ=ニグラスの呪いの効果だろう。一体目は梓自身を対象としたもの、そして、二体目は呪い返しによるもの。対象は……恐らく、瑞輝だろう。瑞輝が冬城に、どれほどの思い入れを含んだ好感を抱いているのかは分からないが、この際、それは関係無い。瑞輝が冬城にとって、どれだけの存在かが、呪いの判断基準になるからだ。
「……えと、瑞輝さん、冬城さんとは、どういった関係でした?」「え? 関係?」「そうです。どれくらい仲が良かったか……とか……」「ううん……別に、それ程、冬城さんと絡んだことはないと思うけど……」「ふむ……桃井にとっちゃ、そうかもな」 駿一が言った。「え?」「桃井は気付いてないかもしれんが、ついさっき、一緒に走ってるときにな、冬城がティムの代わりになるって言ったんだ」「ティムさんの代わりに……」「瑞輝は、ティムとは仲がいいだろう?」「仲がいいというか……あっちから、妙に積極的に絡んでくるから、なんとなく深い仲になっちゃっただけで……特に意識した事はなかったけど……」「けど……この事件ですか」「……はい。僕、怪物にやられて傷付いて、弱ってるティムを見て……なんか、思ったよりも仲が良かったのかなって、その時に初めて気が付いた気がして……」「そうですか……」 梓は、駿一が言っている意味を理解した。瑞輝の方は、冬城に、それ程の感情は抱かなかったとしても、冬城から瑞輝にだったら、呪い返しの対象となり得るほどの感情が芽生えていたかもしれないということを、駿一は言っている。
「……二人に協力してもらうにあたって、出来るだけこの呪いの事を説明しておくべきですよね」「ん……そうだな。冬城が何をしてくるかも分からないってのは、困るな。何もしないまま、首から真っ二つってのはごめんだ」「うん……冬城さんが……相手が何をしてくるか分かった方が、協力しやすいもんね」「……」 梓は、自分の胸が、更にずきりと痛んだ気がした。駿一さんは常に幽霊の脅威にさらされているので、危険な事は懲り懲りなのだ。瑞輝さんは、異世界に長い間、居たからか、こういったことには慣れているような雰囲気はあるが……瑞輝さんは優しい。クラスメートと争う事は、たまらなく嫌なのだろう。冬城さんと呼びたくないから、相手と呼ぶことにした。そう考えるのが自然だ。
「あの、駿一さん、瑞輝さん、ごめんなさいです、私……」 やはり一人で行くべきだ。そう思って、二人との協力をやめようと、梓は思った。
「おいおい、今更そりゃないぜ」「梓さん……僕、大丈夫だから……」「駿一さん……瑞輝さん……」「ここまで来て拒否されちゃ、寝覚めが悪い。梓さんがどう思ってるか分からないが、協力はさせてもらうぞ」「僕も。だって、そのためにディスペルカースを練習したんだから」「……」 梓がうつむいて、真下を見る。自分が不安な顔と嬉しい顔、どちらをしているのかは分からない。どちらにしろ、泣きそうで目が曇ってはいる。しかし、断るか許容するまでは、どちらの顔も見せられない。そう思って、俯いて顔を隠した。
 ――暫く沈黙が流れたが、人通りの少ない、この道に、珍しく車が一台通り過ぎたのをきっかけにして、梓が顔を上げた。その時、梓の目の端には、涙が少しだけ滲んでいた。「……二人共、協力、感謝するです」「じゃあ、行ってもいいんだな? 良かったぜ。その方が危険だろうが、胸はスッキリするだろうからな」「うん……自分に何かできることがあるなら……危険でも、する価値はあると思うから……」「ありがとう……じゃあ、ひとまず、それぞれ準備するです。その後は……この近くに公園があったはずです。そこで落ち合うです」「うん……分かった……」 まだ気怠そうな瑞輝が立ち上がろうとする。「あ……瑞輝さん、肩、貸すです」「あ、大丈夫ですよ。だいぶ、気分が良くなってきたので。でも、やっぱりちょっと疲れてるんで、僕は集合場所の公園で、横になって休んでます。特に準備することも無いし」「そうですか……くれぐれも気を付けるです。私もすぐに準備して、ここに戻ってくるですから」「ありがとう。でも、ゆっくり準備して大丈夫……」 瑞輝は少しふらつきながら、その場を後にして公園へと向かっていった。

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