巫女と連続殺人と幽霊と魔法@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

67話「呪いの魔法練習用A4用紙」

「ええと……その黒いのだよね?」 瑞輝が画鋲で壁に止められた、一枚の真っ黒な紙に注目する。大きさはA4のプリントくらいだろうか。
「そうだよ。あの紙に、呪いがたっぷりと染み込ませてあるの」「の、呪いが!?」 瑞輝の顔が引きつる。エミナさんは何の気なしに黒い紙を扱っていたけれど、実は相当危ないものではないのか。
「大丈夫、呪いは呪いだけど、紙が黒くなる最低限の呪いの力が染み込んでるだけだから、実質的には害は無いんだよ」「そ、そうなんだ……」 呪いと言われた瞬間、ただの黒い紙が、凄く禍々しい雰囲気を出し始めた気がしたが、シェールさんが用意したものだし、エミナさんも大丈夫だと言っているから、きっと大丈夫なのだろう。瑞輝はほっとした。「じゃあ……」 瑞輝が黒い紙に向かって手をかざした。が、よくよく考えてみると、どんな魔法を唱えていいのか分からない。「えっと……何の魔法を唱えればいいの?」「ディスペルカースっていう名前の魔法だよ。これをかけると呪いを取り除けるんだよ。そっか、瑞輝ちゃん、唱えるの初めてなんだよね。じゃあ……」
 エミナは瑞輝の前に立つと、黒い紙の方へ手をかざした。「穢れしその身に解呪のげんを……ディスペルカース!」 エミナがディスペルカースを唱えた瞬間、エミナの手から、一筋の光の筋が発生し、それは黒い紙の方へと伸びていった。「うわっ!」 ディスペルカースから放たれる、思ったより眩しい光に、瑞輝は思わず目を反らし、たじろいだ。
「うん、上手くいったわ」 ディスペルカースを打ち終わったエミナが、黒い紙に駆け寄って、紙に顔を近づけた。「瑞輝ちゃん、来て」 エミナが瑞輝を呼ぶ。瑞輝はディスペルカースの強烈な光に圧倒されて少しボーっとしていたが、首を軽く横に振って我を取り戻すと、エミナの隣へと小走りで走っていった。
「ほら、端っこの部分が白くなってる」「本当だ。当たった所が白くなるの?」「そうだよ。私は端っこを狙って、狙いも大きく外さなかったから、その通りの場所が白くなってるの。紙が勿体無かったから。でも、瑞輝ちゃんは初めてだし、真ん中を狙っていいよ」「う、うん……ディスペルカースか……」「ええとね、説明すると、ディスペルカースは光属性の、補助と攻撃の複合魔法だよ。対象は単体」「うんうん……お祓いの魔法なんだ。複合魔法かぁ……」「あ、そっか。瑞輝ちゃんは、複合魔法使うのも初めてだっけ?」「いや……でも、苦手だなぁ……」「複合魔法だから、普通の魔法よりも難しいのは当然だよ。攻撃と補助の二つの要素を一緒に使わないといけないから、普通の魔法より魔力のコントロールが難しいんだ」「そっかぁ」
「それに……ほら、前に毒を消す魔法、やったけど、私達の世界では、呪いって、そういう概念だから」「うん、分かるよ。大体、呪いって、状態異常としては毒の上位互換……っていうか、ちょっと強力な毒って感じだよね」 瑞輝としては、RPG等に多い、中世ファンタジーの世界観が馴染み深いのもあって、そういった世界観を元にして考えた方が分かり易かったりする。しかし、この世界で、その感覚で話してしまうと、少し齟齬が生じてしまうので、なるべく普通の言葉に直してから言うようにしている。「そう。だから、複合魔法関係無く、結構難易度の高い魔法だから、瑞輝ちゃんにとっては一足飛びに難しい魔法を覚えないといけないことになるんだけど……」「そうだよね……」 いきなりステップを飛ばして、難しい魔法に挑戦する。瑞輝は魔法に限らず、そういったことは苦手だ。高校の勉強でも、普段の遊びでもそうだが、段階を踏んで地道に進んでいきたいと、瑞輝は思っている。ゲームで言うなら、十分にレベルを上げたうえで、ダンジョンに挑む。そんな感じのプレイスタイルが、一番合っているのだ。 なので、ディスペルカースを、自分の魔法の覚え方で使えるようになるのか、瑞輝は少し、不安だ。
「でも、瑞輝ちゃんなら、きっと使いこなせるようになるよ」「そうだといいけどな……」「瑞輝ちゃん、怪物を倒して、あっちの世界の人を助けるんでしょ? だったら頑張らなきゃだよ!」「うん……そうだよね。強力な呪いらしいから、精霊力の低いあっちで、どれだけ出来るかは分からないけど……」「そっか、あっちは精霊力が低いんだっけ。大変だよね……でも、私もいっぱい協力するよ! 二人で頑張ろうよ」「エミナさん……ありがとう、やっぱりエミナさんは力強いや」 瑞輝は少し安心しながら黒い紙との距離を取ると、黒い紙の方へと手をかざした。
「ええと……穢れしその身に……?」「『穢れしその身に解呪のげんを』だよ」「ああ、うん……穢れしその身に解呪のげんを……ディスペルカース!」 瑞輝が魔法を唱えた。「……」 しかし、その手の平からは、何も出てこない。「あれ……ま、まあ、最初はこんなもんだよね」「うんうん。最初はこんなものだよ。でも、何回かやれば出来るようになるよ。今までだって、そうだったでしょ?」「うん……」 エミナの言う通り、一般的に魔法は練習を重ねてようやく効果を発揮するもので、最初は呪文を唱えるだけで精一杯なのが普通だ。
「えーと……」 瑞輝が目を瞑る。穢れしその身に解呪のげんを。瑞輝は頭の中で、呪文を三回唱えた。そして、手の平の先に意識を集中させる。 瑞輝が大きく一回、深呼吸をした。魔法は精神的な力に大きく左右される。意思の力が大事だ。その上、ディスペルカースは複合魔法だから、意識の集中させ方も少し複雑だ。攻撃魔法を使う時の、相手を打ち砕こうとする意志、そして、補助魔法を使う時の、相手を助けようとする意志。そのどちらの意思も、このディスペルカースに込めなければいけない。
「……」 瑞輝が精神を集中させる。相手を打ち砕き、相手を助ける。光を飛ばして相手にぶつける。穢れしその身に解呪のげんを……。
「穢れしその身に解呪のげんを……ディスペルカース!」 意識を全てディスペルカースに集中させられたと思った瑞輝が、魔法を唱えた。 瑞輝の手の平から、一筋の光が発生する。エミナほどではないが、その光は眩く輝いている。
「……当たった?」 瑞輝の手から伸びたディスペルカースの光は、黒い紙の付近に命中したように見えた。といっても、光は結構な輝きを帯びていたので、正確にどこに当たったかは分からない。
「凄ーい! 瑞輝ちゃん、本当に使うの初めて!? 二回目で成功だよ!」 エミナが嬉しそうにしながら、黒い紙へと駆け寄っていく。勿論、瑞輝も紙の状態が気になっているので、エミナの後から駆け寄っていった。

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