巫女と連続殺人と幽霊と魔法@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

61話「呪いのルール」

「それで、今回の特徴なんですけど……」「うん……やっぱり、目立ったところは、さっき言った二つよね。一つは梓が守った高校生は、ちゃんと生きているってこと。もう一つは、にも関わらず、今回も二人の死者が出たということ……」 梓と杏香。病室で交わされる二人の会話は徐々に熱を帯びていった。
「それもそうですけど、どんな呪いかを探るにあたって、今回だけ、二つの現場の距離が離れてないっていうのも大きな手掛かりになりそうですよ」「そうね……二つっていうのは、梓の傷害事件の他に二つってい意味ね」
「あ、そうですね。二か所の殺人現場のことです。うーん……確かに私のことも事件ですね、そういえば。なんか、自分のことだと、うっかり考えに入れるのを忘れそうになるです」「そういう感覚、あるかもね。灯台下暗しというか、メガネメガネの原理と言うか……」「あはは、確かにそんな感覚ですけど、メガネメガネの原理ですか」「割と真面目に話してるけど、なんか和んでしまうわね……しまったわ……」 杏香が被りを振った。
「そうですね。で、話を戻すと、杏香さんの喋ったことは、そのまま今回起こったイレギュラーのことですよね」「そうね」 杏香が頷いた。「このイレギュラーから呪いのことを推測すると、段々と具体的な呪いの効能が分かってくるです」「推測か……梓が怪物を解呪したことで、呪いの効果にズレが生じた……ってのは、なんとなく分かるんだけど……具体的な効能となるとなぁ」「ですか……#呪い返し__のろいがえし__#の概念って、杏香さん、知ってるです?」
「#呪い返し__のろいがえし__#……?」「そうです。呪いって、手順を踏めば、何のリスクも無しに呪いが使えるというわけでもないんです」「へぇ、つまり、実質的には呪い返りってことよね……考えてみれば、当然かも。ノーリスクで使い放題なら、使ったもん勝ちよね。ちょっと面倒なことすればいいだけだもん」「そうなんです」 梓は杏香の表現に納得し、頷いた。呪いの対象になった人が意図的に呪いを返すという意味ではなく、自分で強力な呪いを使った際に、供物として、呪いが何らかの代償を要求してくるという、見かけ上、呪いが返ってくるように見える、呪い返り。それが呪い返しといわれる現象の本質なのだ。
「一般的に言うおまじない程度のことであれば、特に#呪い返し__のろいがえし__#は発生しないですが……今回は、人の命を奪う呪いです。それ相応の代償があると考えるべきでしょう」「なるほど……確かにそうだけど……梓、あんたもしかして……」「はい」 梓が仰向けのまま首を縦に振って頷き、続ける。
「これまでの、一対になった殺人事件……実際には呪殺事件と言うべきでしょうが、片方が本当の対象。そして、もう片方が供物……つまり、生け贄だという可能性が濃厚かと……」「……それは……ゾッとしないわね。常に無意味な道連れ殺人が行われてるようなものじゃない」「それだけじゃないですよ。もしかすると、犯人は無傷の可能性もあります」「同一人物なら、そうよね」「はい。それが呪いをかけている人物か、呪いを煽っている人物かは分かりませんが……」「あ、そっか……複数人がやってるとしても、誰かがそれを煽っている可能性もあるのか……」 杏香が腕組みをして、天井の方を見上げた。それに伴い重心が後ろに移動して、椅子がキリキリと軋む。まだまだ呪いの本質の特定は絞りきれないと、少しうんざりしたのだろう。
「ええ……どちらだかは、今のところ特定は出来ないですね。でも、大まかなルールは分かってきた気がするですが」「そうね、ここに来て、ようやく、呪いの正体が掴めてきた気がするわ。つまり……人を一人生け贄にして、他の人を一人殺す……実際には、効果にズレはあるでしょうけど、大まかにはこんなところかしら」「そうですね。多分、その考えから大きくズレていることはないと思うです」 一人を犠牲にして、一人を殺める。トレードオフの関係だ。
「なるほどねぇ……なんにしても、良かったわ。あんな強力なのを相手にする必要も無くなるかもしれないってことでしょうから」「いえ……どちらにせよ、怪物には備えておいた方がいいです。少なくとも一体ずつ、出来れば複数を同時に相手に出来るようにしたいところですね。犯人が杉村さんを狙い始めたのは、少し怖いですから」「梓を直接狙う……ってことか……」「杏香さんも、分かりませんよ。相手が意思を持つ人間なのは、ほぼ間違い無いですから。そうなれば、追い詰められた時は……」「自分の身を守るために、呪いを使う……か……」「はい……やっぱり、修行は必要です。私が破魔の矢を使いこなせれば……」「ねえ、梓」「なんですか?」「一応、アドバイスするけど、無茶しないでね」「はい?」「傷をしっかり治した後じゃないと、修行も捗らなくて、元が取れないでしょ」「元を取る……ですか……そうですね、そうするです……ふっ……」「ん……何? 笑った?」「いえ……いつも無茶する杏香さんに言われると、説得力が……」「だから言ってんの。無茶すると、後がきついのよ。傷の治りも悪くなるし」 図星を突かれたと言わんばかりに、杏香の頬が紅潮する。
「実体験に基づいた忠告ですか。なるほど、じゃあ逆に説得力あるですね。杏香さんは節約家ですから、元を取るっていうのも信頼できますし」「あー! なんかからかわれてる気がするんだけど!」「ふふふ、気のせいですよ、きっと」
「でも、梓、これだけは頭に入れておいてほしいんだけど……」「何です?」「私はこれから、ちょっとアンモラルなことを言うけど……」 杏香が言いづらそうにして、なにやらことわりを入れてきた。
「……いいですよ、どうぞ」「うん……梓、梓の治療中とか修行中に、もし、怪物が現れても……戦うべきじゃないわ」「ああ……それは……そうですよね」「なんか、納得は出来ないと思うけど……」「いえ、杏香さんの言いたいことは分かりますよ。私も、そうしないとって思ってますよ」「そう……梓には辛いと思うけど……」「大丈夫ですよ。私も仕事でやってるんですから、その辺りは割り切ってシビアに考えてますよ」 梓は微笑んだ。しかし、その笑顔と言葉とは裏腹に、心では悩み、気が引けていた。

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