巫女と連続殺人と幽霊と魔法@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

53話「放課後の校門前」

「あれ、梓さん……」 瑞輝は高校の門から出た所で梓の姿を見たので、足を止めて、思わず梓に話しかけた。
「あ、瑞輝さん、もう学校に来れるくらいには回復したんですね」 瑞輝の姿を見て、梓がにっこりしながら微笑みかけた。
「ええ……どうにか。なんか、魔法のおかげで治りが早いみたいで……」「へぇ、そういうのがあるんですね」「梓さんは、何でここに?」 梓さんが、この辺りをうろついている様子だったので、瑞輝は聞いてみた。
「ええ、それなんですけど、この高校の皆さんって、放課後は何をしてるのかなって……」「放課後ですか……」 梓さんは、うちの高校の放課後の様子が気になるらしい。瑞輝は、自分の高校の生徒が、どんな放課後を送っているのか考え始めた。自分はすぐ帰るから、どんな様子もなにも、自分の部屋でくつろいでいるのだが……教室や廊下で他の人の話を聞く限り、各々、色々な所で過ごしているようだ。
「うーん……僕は何か無い限りは、まっすぐ家に帰っちゃうから……でも、みんな商店街で映画とか、ゲームセンターとか行ってます。ああ、ゲームセンターとか本屋とかは、隣町の駅まで行く人も居るかも」「なるほど……」 梓は軽く頷きながら巫女服の袴からメモを取り出し、今、聞いたことをメモにさらさらと書いた。「ありがとう、参考になったです」「いえ……あの、この学校について調べてるんですか? 学校に霊とか……?」「この学校にじゃないですけど、ほら、最近の連続殺人。あれの件で気になる事があったので、この高校の人に聞いてるです」「そうなんですか……確かに、吉田君、怨霊になってるし……色々と物騒ですもんね」 瑞輝は、梓さんが来ているのだから、この高校に、何か新たな幽霊騒ぎでも発生したのかと思った。今日だけ梓がここに来ているので、連続殺人ではないと思ったのだ。 とはいえ、今の出来事で、特にこの高校にとって大きな、あの怪物による連続殺人のことであれば、それはそれで、梓さんがこの辺りでうろうろしているのにも納得がいった。
「そうなんです……あ、そういえば、その後大丈夫ですか? また怨霊が来たりとかは無いです?」「あ……はい、それは大丈夫です。今のところ」 吉田の幽霊については、瑞輝も入院中は戦々恐々としながら構えていたが、とうとう退院まで来ることはなかった。そして、今も吉田の幽霊は瑞輝の前には現れていない。
「そうですか。もし何かあったら知らせてくださいね。怨霊につけ狙われるって、結構危険な状態ですから。お守り、持ってるです?」「あ、はい」 お守りは鞄の中にしまってあるので、瑞輝は鞄を開けて、おまもりを出そうとした。
「あ、別に出さなくてもいいですよ。ちゃんと持ってればいいんです。怨霊の居場所が分かればすぐにでも祓えるのですが、どうにも気配が感じられないので、それも出来ないです。桃井さんの魔法で弱っている可能性もあるし、気配が大きくならなければ襲われないとは思うですが……怨霊自身の意思で気配を消している可能性も無きにしも非ずで、万一の場合、不意に襲われる可能性もあるですから。そのお守りは、肌身離さず持ってるです。そのお守りだったら、少なくとも一回分は、怨霊を追い払えるくらいの力が発揮されるですから」「ええ、そうします」 意識して気配を消している。その言葉を聞いて、瑞輝は吉田の怨霊に襲われた時のことを振り返る。吉田君の亡霊には、凄まじい感情の激しさを感じた。特に悲しさと怒りだろうか……あの様子だと、気配を消すなんてことはしないで襲ってきそうだし、サンダーボルトを受けた後の吉田の亡霊の苦しみようも凄かった。やはり、怨霊としてのエネルギーのようなものを消費して、力も弱くなっているので、気配も掴みにくくなっているのではないだろうか。瑞輝はそう考察した。 とはいえ、餅は餅屋だ。梓さんの言う通りにしておけば問題無いだろう。瑞輝はちらりと、鞄に視線を向けた。
「……あら?」 梓が右の方を向いたので、瑞輝もそれにつられて視線を向けた。「あ……」 そこに居たのは駿一だった。「えと……じゃあ、これで。何かあったら連絡しますんで」 瑞輝の言葉を聞いて、梓が軽く頷く。「気を付けて帰ってくださいね」「は、はい……」 瑞輝は速足でその場を去った。
「……」 特に駿一が何かをしたというわけではないが、異世界で見た幻の印象がどうしても拭えずに、瑞輝は未だ、駿一に苦手意識を感じていた。なので、駿一が近付くと、なんとなくこうして距離を取ってしまう。 別に駿一が嫌いだというわけでもないし、それどころか、中学校の時から一緒のクラスなのに関わりが殆ど無いので、好きだの嫌いだのといったことを考える関係性は、そもそも発生していないのだが……瑞輝は反射的に、駿一を避けるようになっていた。
「なんか、悪いことしてるのかな……?」 瑞輝は、自分の行っている行為が、嫌いだという意思表示に感じられ、それが露骨に駿一に伝わっているとしたら、駿一の心は深く傷付いてしまうのではないかと思った。瑞輝はそう思うこと自体に、そこはかとない罪悪感と不可解さを感じ、瑞輝は心を曇らせながら、帰り道を歩いていった。




「駿一さん」「ああ、梓さん、久しぶり」「お久しぶりです。悠さんも、お久しぶりです」「あ、久しぶりです梓さん」
「……ロニクルさんと雪奈ちゃんは、今日は居ないですか?」「ああ、ロニクルさんなら、近所にオシャレなフリースぺースが出来たからって、そこに行ったぜ。雪奈の方は、ここに居るが」「あら……」 駿一の隣の雪奈の姿を、梓の目はようやく捉えた。「ごめんなさい、気付かなかったです。雪奈さんも久しぶりですね」「……久しぶり」「はは……」 駿一があたまをポリポリと掻く。このことが日常茶飯事だからだ。雪奈はロニクルさんやティムに比べるとおとなしく、手間がかからないのだが……おとなし過ぎるのか、存在感が薄い。ただでさえ口数が少ないのだが、体の大きさはティムや、中学生の姿のままの悠よりも小さい。そのおかげで、駿一でさえ、時折、存在を感じなくなるほどに存在感が無いのだ。
「オシャレなフリースペースですか……」 梓が手に持ったメモを開いて、また一つ、高校生の放課後のことをメモに書き入れた。色々と情報を握っているロニクルの元へと向かおうかとも、梓は考えたが……ひとまず、ここで手に入れられるだけの情報は手に入れておこう。梓はそう思い直して、更に駿一に話を聞こうと、話しかけた。

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