日々思うこと

泉 玲

箱から気付く感覚

貰ったお土産の箱をどうしようかと思う。中身は食べてしまったから空箱を処分するだけなのだが。出来る限り小さく折ってそのまま捨ててもいいのだが、固い箱だから元に戻ろうとしてかなりのスペースを取りそうだ。細かくちぎってゴミ袋に入れる事にした。ハサミで切ってもいいのだが、直接手で触れてちぎりたい気分だった。
そうやってちぎっていくと、独特の紙の香りが漂う。どこか懐かしいような、あの香り。少し控えめに香るから、余計に感覚を研ぎ澄ませてしまう。いつもなら全く気にもしない物にも、結構しっかりとした香り、というか匂いがあるのだなと改めて気づかされる。
人は毎日ただ過ごしているだけだと、かなり多くの事を見落とし気付かずにいるのかもしれない。そう思うと今度は嗅覚ではないものでも試してみようか、と好奇心がむくむくと持ち上がってくる。
聴覚に置き換えてみても、家の中ならテレビはもちろんエアコン、換気扇、冷蔵庫、外は鳥の鳴き声から車、電車、木、草、様々な音が常に飛び交っているのだが、歩道を歩いていると草木のさざめきは勿論、車の走る音までも気にならなく、聞こえなくなってくる。そのくせ、自分の名前が呼ばれたときなどは、やたらはっきりと聞こえる。人間の感覚とは本当にうまく出来ているものだ。自分の身体の事でもあるのに他人事のように感心する。
今度からは木の葉のさざめきに耳を澄ませながら、鳥の鳴き声に耳を澄ませながら、電車までの道を歩こうかと思うと、少し楽しい気分になるのだった。

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