日々思うこと

泉 玲

三日月と祭りを共に

週の中程から、また空に月が浮かぶようになった。始めの2日ほどは、低い位置にゆったりとした三日月が浮かんでいるのを見た。少しばかり橙に近い色で落ち着いた輝きを持っていたその月は、また違う雰囲気を纏っていて、思わず目を奪われる。ふと、月に顔があるように見えた。よく、絵文字にあるような三日月の顔。あれ、また視力が落ちたのか、そこまで考えて笑いがこみ上げてきた。月に顔があると感じられる事にも、それを自分の視力のせいかと真顔で考えた事にも。通りを歩く人たちに気が付かれないように、心の中で笑っていると、太鼓の音が聞こえてきた。

近くの駅で、盆踊り大会が行われていたのだった。ロータリーの中央には、やぐらや太鼓が設置され、そのやぐらから放射線状に提灯が吊されていて、夜になると一気に「祭り」の雰囲気が出来上がる。その周りには屋台も多く出され、焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ、焼き鳥、ヨーヨーなど、大勢の人が並んで賑やかだ。

盆踊りの曲がかかり、やぐらでは揃いの浴衣を着たプロの人たちが踊り、やぐらを囲んで3列ほどプロから初めての人まで多くの人が踊りに参加していた。その様子を見ていると、勢いのある太鼓の音、やぐらから続く提灯の綺麗な赤の光、そっと浮かぶ月の輝き、後ろの屋台から聞こえる焼きそばを炒める音、色々な人の話し声、その全てが合わさって、あぁ、これが祭りだ、と体全体で感じられた。
何曲か流れていくうちに3列が4列になり、5列になり、と踊りに参加する人も増えていき、周りの人達の踊りを見ながら見よう見まねで踊っていく、そうやって踊っている人も見ている人も本当に楽しそうで、会場全体が高揚感に包まれる。
いつもなら無表情で通り過ぎる街中のロータリーが、これほど多くの人々の笑顔と笑い声で溢れる空間へと変わるとは、「祭り」の力はすごいものだ、と改めて実感した。

盆踊り大会が終わっても、自分の心の中に生まれた高揚感はなかなかなくならず、その後の買い物でつい買いすぎた事に、ふと笑ってしまった。まあたまにはいいだろう、と少し自分に優しくしてしまったのも祭りのおかげだろうか、いやそういう事にしておこう、と重い買い物袋を持って祭りの余韻を感じながら家路に着いたのだった。

コメント

コメントを書く

「エッセイ」の人気作品

書籍化作品