future~未来へつなぐ奇跡の歌〜

キロ

5

外へ出ると住民が移動していた。
新人騎士は安全なところへの誘導を行っていた。
ここは大丈夫。
そう確認し市街地のほうへ向かう。
「アーヤット来タ。遅イヨ。騎士クン。」
その声に反応する。
その声は以前聞いた事がある。
「クロウ!」
その本人を睨みつけ吼えるタイキ。
「ソンナ怖イ顔シナイシナイ。」
「クロウ。あマり人を煽るナ。」
そういい現れたのは黒い髪が目立つ人。
「お前は誰だ。」
剣を構えそう言い放つ。
「コレはこれハ申し訳ナイ。俺はメア=アストニア。魔界『アストニア』の第一王子。よろシく。」
そう彼は告げる。
知っている。
メア=アストニア。
若いながらも魔界を造り上げた…最強の人。
「何が目的だ!」
倒れそうな自分を奮い立たせる為に声を荒らげる。
「そうだナ。お前の姫をモラウ。」
「ふざけるな…ミハル姫には手を出させない。」
剣を構えながら言うタイキ。
その声はタイキと言うより…ミツルに近かった。
「そうカ。そレは残念ダナ。」
一瞬だった。
目の前の空気が切れた。
反応が遅れていたら今頃…そんな事を考える。
「よく避ケられたネ。」
でも次はないと言う目だった。
額から流れてくる赤い液体。
それが血だと気づくのはそう遅くはなかった。
「もう一度問うゾ。姫ヲよこせ。」
確実に…次は手を抜かない。
そんな威圧感。
いつぶりだろうか…こんなに恐怖を覚えるのは。
「姉さん…?」
タイキの声でハッとする。
今…微かに笑っていた。
否。今も笑ってる。
そう。この恐怖が楽しくて…楽しくて…
「はっ…ははは!」
笑いがこみ上げてくる。
メアやクロウ、ましてはタイキが驚きの表情を見せる。
しかしタイキは気づいた。
私の…変化に…。
「ね…姉さん?」
「姫をよこせ?笑わせるなよ…」
ミハルは大切な人だ。
渡せられないよな。
「ね…姉さん…」
「タイキ。クロウの方は任せる。出来るよな?」
冷淡な声で言う。
もうあいつは気づいている。
今の私は…いつもの私じゃない。
「…はい。姉さん。」
「よろしい。」
それだけ告げメアの方を向く。
「待たせたね。さぁ…楽しい楽しい殺し合いといこうか。安心しなよ。痛くないように殺してやる。」
その黒の瞳が揺らいだ。
街には私の高笑いだけが響いていた。



前に噂された都市伝説。『魔女』。
悪しき者を殺す殺人鬼。
平民にはヒーローで、貴族にとっては悪者。
その正体はまだ小さい少女だと言われていた。
夜に現れ、音もなく殺している。
人並みではない力を使っているような…それが『魔女』と呼ばれる理由だった。
しかし、ある日を境に『魔女』は現れなくなった。
その日はちょうど騎士団の誓いの日。
あれ以来、『魔女』は時の者となった。
あれから約5年。
再び『魔女』が現れた。
しかしその姿は姫を守る騎士の姿。


「お前ガ魔女か」
静かにつぶやく声に答える。
「魔女…ね…懐かしいね。その名は。」
私でない私が答える。
「改めて名乗らせてもらう。私はリン=ウィスト。『白騎士』であり…『魔女』である。」
そう『魔女』は告げる。
恐怖を楽しむ笑みを浮かべ…
地面を蹴った。

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