future~未来へつなぐ奇跡の歌〜

キロ

4

翌日。
1人王宮内を歩く私の前から人が現れる。
きらびやかな服装は貴族の証。そして私は彼をよく知っている。
「やぁリンちゃん。今日はどうしたんだい?」
「公爵様には用はありません。」
「やれやれつれないなー」
そう言いわざと肩を落とす。
彼はナギサ=ライオット公爵。この国に住まう住民の1人。
「公爵様こそこのような所で何を?」
「君を待っていた。なんて言ったら信じる?」
顔の半分に火傷の痕が残っている彼は私を見下すように見てくる。
「ご要件は?」
その問を待っていたかのように笑みを浮かべる。その笑みが私にはどうも蛇に睨まれているようにしか思えない。
「要件ねー俺の元に来る気はないの?」
まただ。彼は何故か私を気に入っている。他にも人はいるはずなのにしつこいぐらいに来る。
「でしたら本性を見せてみてはどうでしょうか?まだ何か隠していると思うのですが。」
廊下に彼の笑い声が響きわたる。笑いが終わったと思ったら次は喉元に鋭利な刃物があった。
「怖がらないの?」
「怖いものはありません。ましては刀に対しての恐怖心は消えたと以前も申したはずです。」
「面白くないなー。」
「でしたら構わないで下さいますか?私もそろそろ怒りますよ?」
「君こそ…何を隠してるの?」
静かにそれは確かに心に刺さる言葉。
驚きの表情を隠しながらも彼の目を見る。
「さて。なんの話か分かりません。」
「まぁいいや。探し出すから。君の秘密をね」
悪魔の囁きにしか聞こえなかった。
刃物をなおし再び歩きはじめる公爵。
「あ。あと一つだけ忠告。」
「なんでしょうか」
いつもとは声のトーンを落とし彼は言う
「逃げられると思うなよ。」
なるほど。
少し彼の姿がわかったような気がした。
「でしたら私からも1つ。」
「なにかな?」
「その化けの皮、剥がすまで優雅に待ってろよ。」
それだけ言うと彼とは逆の方へ歩き始めた。
「…その時の『君』は誰なのかな?」
そうつぶやく声に気づくこともなく。



「またあいつ!姉さんに手を出したのかよ!」
「落ち着けよタイキ。」
ベッドに横になってたタイキにさっきのことを話しただけでこれだ。
「だってあいつ!」
「分かってる。ただあんたが言うことじゃない。」
冷静な声を聞いて彼は少し落ち着き始めた。
「………姉さん。バレてないよね?」
「まだバレていない。でもいつバレるか分からない。」
私とタイキしか知らない私の秘密。それを探ろうとする公爵。
「気をつけないと。」
「ああ。そうだね。」
静かにつぶやく私達。するとドアの向こうから話し声が聞こえる。
『聞いたか?この国抱えてるもんがすげーらしいぜ!』
新人の騎士達らしき声。耳を澄ませてみると…
『なになに!?』
『実はな…いるらしいぜ。』
『何が?』
『魔女が』
息を呑む。
『嘘だろ?だって魔女って…』
『そう。住民が言った嘘話だと言われているけどさ。本当に魔女がいるらしいんだって!』
「姉さん。」
タイキの声が耳に届く。
冷静になれ。大丈夫だ。
そんな声が届いてくる。
静かに頷き、ドアを開ける。
思わぬところから出てきたからか驚く彼ら。
「やぁ。2人とも。もう慣れたかな?」
「は…はい!リン様のご指導のおかげでございます!」
「私はなんもしてないよ。君たちの筋が素晴らしいからだ。」
ところで…そう付け加え
「さっき話してた魔女の話誰から聞いたのかな?」
すると魔女の話をふった彼は口を動かした。
「団長殿です。『まぁ信じるか信じねーかはお前次第だがな』と言われましたが。」
あのやろう…その言葉を封じ込め変わらない声で言う。
「そうか…君たちは魔女いると思う?」
すると話をした方が頷く。
まるで小さな子どものように力強く。
「俺、昔、魔女にあったんです!」
その言葉を聞き驚く。
「まじかよ!よく生きてたな!」
「だって俺を助けてくれたから。」
先程までの元気がどこかへ消えたような小さな声。
「でも魔女って『殺人鬼』って噂だぞ?」
「違う!みんな嘘をついてたんだよ!だって魔女は!」
「はい。そこまで。」
静かに止めに入るタイキ。
その姿を見て前の2人は礼をする。
「魔女ね…君たちがいると思えばいる。いないと思えばいない。だってあの人でさえ僕達と同じ人間だからね。」
ただ笑顔で…そう言うタイキ。
「タイキ様は魔女はいらっしゃるとお思いですか?」
そう恐る恐る聞く彼らにタイキはいつもより笑顔で告げた。
「ああ。いると思うよ。」
短いが確信のある言葉を聞き2人は納得したのだろう。頷き返す。
「ほら、カエデ、ユウ。まだ仕事が残っているだろう。終わらせてこい。」
「はい!」
そう言い走り出す魔女を見た事があるカエデと、一礼して走り去るユウ。
「やはりか…」
そうポツリつぶやく私を見るタイキ。
「まったく…姉さんも人の事言えないよね。」
そう優しく笑いかける。
いつもと変わらない。彼らしい表情。
それを守るためなら…
ふとそんなことを思い頭を振る。
そんなことを言ったら弟から怒られる。
それだけは避けよう。

そう思った時だった。
いきなり頭を殴られたかのような音が国中に響き渡った。
「な。なに!?」
「っ!!」
今まで聞いたこともない音。
だがそれは確かに鳴っていた。
鳴ってはいけない…鳴らないことを祈っていたものが…
「『絶望の鐘』が…」
ついに鳴ってしまった。
「姉さん!」
その声で意識を戻す。そう。今は倒れてはならない。守らなくちゃ…
「タイキ!行くぞ!」
「うん!」
廊下に響くブーツの音。
向かうところはただ一つ。城の前。奴らを通してはいけない。
外までの廊下がいつもより長く感じられた。

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