future~未来へつなぐ奇跡の歌〜

キロ

2

「いずれこの国は滅ぶ。」


耳を疑った。滅ぶ?どこが?ここが?ありえない。そんなはず…
「なぁ、『絶望の鐘』がどんな状態か知ってるか?」
『絶望の鐘』この国を創った四季の神々の1人冬の神が創り出したと言われている『神器』の1つ。
その鐘が傾き始めたら絶望までのカウントダウンだと教わった。
「もう少しで傾ききるぞ」
今度こそ言葉を失った。
その鐘が音を鳴らせるまでの時間はそう遅くはない。そういう事なのだ。
「そ…そんな………」
「驚くのは早いぞ?」
まるで子どもに話しかけるような声で、だがその声にどこか冷たさを帯せ…こう言った。
「『アストニア』が力をつけてきている。今度こそここ…終わるぞ?」
時が止まったようだった。
ただでさえ強い『アストニア』が力をつけ、ここにせめたら…どうなってしまうのか…
想像したのは、ただただ残酷な地獄絵図。
「お前なら、どうする?怖くなって逃げるか?それとも…」
「戦います。」
そう答えると彼は驚きの表情を見せた。
「私がここに入ったのは人々を守るため。その為ならこの命、捨てる覚悟です。」
そう決めたのだ。
いつだって支えてくれる人の為に。
「お前ならそう言うと思ったよ。」
そう言うと彼は微笑む。
『我は待つ。聖なる場へ選ばれし者が現れる時を。我は信ずる。時の番を越え、我の前に姿を現す者を。』
レイ副団長の言葉に驚く。
「いずれ、お前の役に立つはずだ。お前なら大丈夫だ。俺はそう信じてる。」
それだけ言うとその場から立ち去るレイ副団長。
その背中はどこか変わらぬ勇ましさが感じられた。

「リン!」
しばらく放心状態だった私の耳に入ったのはミハルの声だった。
「ああ。ミハル。どうかした?」
「それはこっちのセリフだよ。姉さん。」
ミハルの後ろにいたタイキが話しかける。
「ついてきてた人は?」
「逃げられたよ。」
「そう。」
そう目を伏せるタイキ。
「それより……姫。お尋ねしたいことが。」
そう告げた私を見る2人。
「どうしたの?リン?いつもなら『ミハル、聞きたいことがある』って言うのに」
黙って彼女を見る。
ただ事ではない事が分かったのだろう。
1歩下がるタイキを見てミハルが言葉を紡いだ。
「いいでしょう。話してみなさい。」
いつもの元気な彼女から想像のつかない重みのある声。
その声を耳にしその重さに負けぬ声を出して言った。
「姫は…『絶望の鐘』が傾いていることを知っているのですか?」
彼女の目が見開いた。
そう思うといつもと変わらない表情になり告げてきた。
「………ええ。知っています。」
自然と彼女に詰め寄る。
怒りに震える拳を抑え、更に問う。
「何故…教えてくださらなかったのですか?」
「…国王からの命でしたので。」
次は私が驚く番だった。
国王が『絶望の鐘』が傾いていることを知っていて…なお…国民はもちろん…我々に教えていない!?
「姉さん。」
震えてる身体を心配し私の隣に来るタイキ。
「ごめんなさい。あなた達には話しておくべきでした。」
「…姫のせいではありません。我々も気にしていなかったので。」
そうは言えども目の前の彼女は震えている。
「悪かった。ミハル。怒ってるわけじゃないんだ。」
いつもと変わらない普段の私で話しかける。
「いえ…私こそ…伝えていれば…」
「国王からの命なんだろ?…私だって逆らえない。」
そう、彼女を自分に引き寄せる。
堪えていた涙を流す彼女をただ…慰めることしか出来なかった。


ミハルの調子が戻った頃には日が暮れかかっていた。
「そろそろ戻ろうか。暗くなったら大変だよ?」
静かに頷く彼女を見て、タイキは先に歩き出す。
今まで賑わっていた街が一気に静かになる。
夕暮れが静かに消えかかった時だった。
私たちの前に1人の少年が立っていた。
全身黒ずくめの少年。
髪に少し白が入っている。
「へぇ…君たちがこの国の騎士団『白騎士』なの?」
どこか挑発的な態度をとってくる彼。
後ろにミハルを隠し、告げる。
「そうだが。何か用か!」
「用…ね…そうだなーとりあえず…」
一瞬の間に彼は私たちの後ろに立っていた。
「姫サン貰ッテイクヨ。」
「ミハ!!」
彼が手を伸ばしかけたのと私が彼女の手を引くのはほぼ同時だった。
私たちを庇うようにしてタイキが剣を構える。
「お前…何者だ?」
「アーマダ名乗ッテ無カッタネ。」
彼の名に私達は驚く。
「僕ノ名ハ、クロウ=アストニア。魔界『アストニア』ノ第二王子。ヨロシクネ。」
「アストニア……」
今にも倒れそうなミハル。
魔界の王子?どうして?理解しようにもできない状態。
だが分かることは……こいつらは私たちの敵である…
「姉さん!」
そう叫ぶタイキ。
タイキの目を見て理解する。
「任せる。」
それだけ告げ、ミハルを抱きかかえその場から立ち去る。
「マテ!」
金属同士の甲高い音が耳に入る。
「悪魔かなんだか知らないけど…ミハルに手を出すことは…許さない。」
静かに…だがどこかに冷酷さがある声を耳にしながら走り続ける。
今はただ…弟の身の無事を祈るのみ。



タイキside
静かになった街にただただ響く甲高い音。
「邪魔!」
スピードが速い敵を目で追うのもそろそろ限界に近い。
「タカガ人間ニナニガデキル?」
確かに…何も出来ない。だけど…
「てめぇらにはわかんねーよ!!」
久しぶりに吠えている声を聞く。
きっとその声は…僕であり僕ではない…彼の心の声。
「貴様…ナニモノダ?」
初めて見た敵の驚いた顔。
『後は…任せてくれないかな?タイキ?』
「ああ。いいよ。任せるよ。兄さん。」
静かに目を閉じ再び見開く。
「申し遅れた。僕はタイキ=ウィスト。」
そう名乗る。僕ではない僕。
「ソイツジャナイ。今ノオマエハ何者ダ?」
「ああ。俺の方か。名乗るほどの者では無いが…」
薄れていく意識の中で聞こえた声に身を任せる。
大丈夫。彼ならきっと…守ってくれる。
「俺の名はミツル=ウィスト。こいつに手を出すってんなら…黙ってねーぞ?」
姉の弟であり、僕の兄。今は亡き人…ミツル=ウィスト。
「さて…始めるぞ?…かかってこい。」
兄さん…あとは任せた…そう言うと僕は意識を手放した。

タイキside終


ミハルとともに走ってどれぐらい経ったのだろうか。ようやく目の前に城が見える。
「ミハ!ついたよ!」
「う…うん。」
流石に疲れが出ているのだろう。
息が整わない。
「姫。リン様おかえりなさいませ。」
そう言う人を確認する。
「ただいま戻りました。ルージュさん!」
ルージュ=アンジェリア。ミハルの召使いの人だ。
「お疲れのようですが…いかがなさいましたか?」
「詳しい説明は後でします!姫を頼みます!」
そう言い、ルージュさんにミハルを預けて私はまた走ってきた道を戻っていく。
「行ってらっしゃいませ。『白騎士』リン=ウィスト様。」
そう機械音がまぎれているような声が耳に届く。
私は振り返ることなく、走り続けた。

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