異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
チョコレート事件(8)
案内されたのは、色々な雑多な物が置かれているザ・物置と言った感じのお部屋というか屋根裏部屋。
「これって、一日で掃除とかできるのかしら?」
コルネットさんは心配顔で私を見てくる。
「私としては、薬師ギルドにこっそり戻って寝泊まりするか、エルトール伯爵様からクリステルに話を通してもらうのがいいと思うのだけど」
たしかにジェニーさんの言うのが一番リスクは少ないような気がする。
だけど、伯爵家に話が通るということはニナさんにも情報が行くことになってしまう。
そんなことになれば、間違いなく彼女も町にくると思うし……。
「大丈夫です! このくらいなら掃除して何とかなります!」
「やっぱり宿とか取った方がいいんじゃ?」
「それは無理よ、シャンティアの商業ギルドが潰れてから他の町の商人達が挙って宿を取っているから」
「――あー、だから……。最近、露店が増えたのね」
心当たりがあるのか、コルネットさんはジェニーさんの言葉に頷きながら外を見る。
私も屋根裏部屋の窓から一緒に外を見ると通りには何十件もの露店が営業を開始する姿が目に入って来た。
先ほどまでは影も形も無かったのに、食堂に入ってから思ったよりも時間が経っているようで。
「それじゃ宿を借りることは出来ないわね」
「――でも、エルトール伯爵様に報告した方が確実なんじゃないの? シャルロットちゃんが、どうしてそこまで頑なに報告を嫌がっているか分からないけど」
「……じ、じつは……」
もう、ここは素直に情報を明らかにした方がいい。
中途半端に小出しにするよりも正直に言って協力を得た方が……。
そう! 助けを求めるのは恥じゃないのだ!
助けを求める、求めないじゃない!
助けてほしいと言うかどうかだ!
「――と、言うことなんです。ニナさんには困っていまして……、別にニナさんが嫌いとかじゃなくて……、人には何かを学ぶ際に、その人に合ったスピードというかそういうのがあって然るべきだと思うのです……」
今までの伯爵邸でニナさんにされたことを全部伝えた。
さすがに二人とも衝撃的だったのか無言。
これで協力が得られるようになったはず。
「つまり、貴族学院に通うために最低限のマナーやルールを教えてくれようとしていたニナさんって人の教えが厳しかったから逃げ出してきたってことでいいのかしら? ふうー」
――と、最初に口を開いたコルネットさんが溜息交じりに答えてきた。
「――で、手紙を置いて出てきたからクリステルが怒ってきたと……。シャルロットちゃんは、将来はカーレルド王国に嫁ぐのよね? それを自分で決めたのよね? それで逃げてきて……」
あれ? おかしいな?
二人の言い方が私を責めているような気が……。
「「それは、シャルロットちゃんがおかしいわよ?」」
「あうあう……」
あれれ?
そこは同情を引く場面だったはずなのに、どうしてこうなったの……。
「でもでも! 10歳の子供に、そんな無理難題を押し付けてくる方が問題のような……」
「たしかに! でも、シャルロットちゃんの話し方って10歳の子供にしてはすごく大人びているわよね?」と、ジェニーさんがすかさず突っ込みを入れてくる。
「まぁ、それでも一度は泊めると言った以上、それにシャルロットちゃんのことをクリステルやエルトール伯爵様に言っていたら、逃げ出すんでしょう? それなら、ここでお世話になった方がいいと思うのよね」
コルネットさんの言葉に、ジェニーさんが「そうね」と同意する。
良かった、雲行きは途中から悪くなったけど、何とか説得することが出来た。
さすが私!
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