異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
淑女たる教育
「お母様、おはようございます」
部屋に入ると妹のセリーナを抱っこしていたお母様が微笑みかけてくる。
「あら、おはよう。今日は早いわね」
「今日から、ニナさんが淑女としての歩き方や作法を教えると言っていたので、その前に挨拶だけでも……」
「そうなの? いきなりだけど大丈夫なの?」
「大丈夫かどうかと聞かれれば、メンドクサイなーと思います。でも、隣国のカーレルド王国に嫁ぐためには必要な事なのですよね?」
「そうね……、私がエルトール伯爵家に嫁いだ時も色々とあったもの。でも、飢饉が起きて、貴族同士のそういう作法とかに構っている余裕はなくなったから私としては良かったけれど……。貴女は王室に嫁ぐのだから大変よね……」
もしかしたら王室に嫁ぐとフレベルト国王陛下に言ったのは早急だったのかも知れない。
でも、一度は自分で決めたことだしアリエルはセバスさんが王都で貴族学院に通う準備をしてくれている以上、途中で辞めたとは言えないのだ。
「何とか頑張ってみます……」
「無理はしないように頑張るのよ?」
「はい!」
――コンコン
「失礼いたします。お嬢様、こちらにいらしたのですね。お探し致しました」
「ニナさん……」
「朝早くから寝間着で行動するなんて貴族のご令嬢としての意識が足りていません!」
ニナさんが私の体を持ち上げると脇に抱える。
その細い体のどこにそれだけの力が!? と心の中で突っ込みを入れつつも、自分が10歳の子供だと言う事を思い出す。
「それでは奥様、失礼致します」
「娘をよろしくね」
「はい! 王宮で侍女として勤めていた誇りにかけてシャルロット様を立派な淑女にして見せます!」
「ひいいいい――うぐっ」
抱きかかえられているお腹の辺りを強く締め上げられて私は意識を飛ばした。
こうして、私の地獄が始まった。
朝に起床し基礎的なフレベルト王国の歴史や文学の勉強。
朝ごはんを食べたあとは淑女としての歩き方のレクチャー。
頭の上に本を乗せて歩くなんて、物語の出来事だけだと思っていた。
しかも国王陛下から送られたヒールの高い靴を履かされるので重心というか姿勢が取りにくくお昼まで練習しただけで両足は生まれたてのカモシカのようにプルプル震えている。
「し、しぬー」
自分の部屋に入って即効ベッドの上にダイブする。
「シャルロット様! ベッドで横になるのでしたらドレスをきちんと脱いでください! そのような真似は、はしたのうございます」
「あ、いたんだ……」
「シャルロット様?」
力強い眼がしらで睨まれてしまい私は慌ててドレスを脱ごうとするとニナさんが手伝ってくれた。
「ドレスを脱ぐ際には、侍女の手を借りるのが一般的です。今回はワンピースに近い形ですが、次回からは一般的な普通のドレスをご用意して頂くようにご当主様へ伝えておきます。シャルロット様は、何でも自分で行おうとする帰来があるようですが、貴女様は、大国カーレルド王国に王妃として嫁がれる身なのです。他の貴族令嬢の規範となられるようにしなくてはいけません」
「……あ、はい」
……もう少し自由にさせてもらいたい。
というより人様の部屋の中まで踏み込んでくるとかプライベートとか個人情報保護法とかどうなっているのかと突っ込みを入れたい。
「『はい』は、一度だけでいいです。それよりも、少し休憩をしましたら午後の練習を始めますので、それまでに英気を養っておいてください」
「……はい」
苦笑いしか出ない。
そんな私を他所にニナさんは納得したのか分からないけど部屋から出ていった。
私は下着姿のままベッドの上に横になる。
「午後って何の練習をするのかな……」
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