異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
変わっていくもの。
「それと、あとでシャンティアに私は出かけることになった。家のことはクリステルに任せているが何かあった際には娘のシャルロットか家令見習いのカインに聞いてくれ」
「「「わかりました」」」
それにしてもエルトール伯爵邸も一気に4人も人を増やすなんて思い切ったことをしたものだなと思っていると、カインさんとメイドさん達は全員部屋から出ていく。
どうやら、お父様の指示のようだけど。
「――さて、シャルロット。そこに座りなさい」
「は、はい」
ソファーに座りながらお父様を見ていると、溜息をついたあとに「シャルロット、最近は無理をしているんじゃないのか?」と、語り掛けてきた。
「そんなことありませんけど? どうかしたのですか?」
「最近、薬を作るという理由で調合室に篭っているとクリステルが心配していたぞ?」
「それは、作る個数が多いので……」
「クリステルが明らかに必要個数以上の薬を作っていると言っていた。やはり精霊様が帰ってしまったことに思うところはあったのではないのか?」
お父様の言葉に私は、ニャン吉との思い出を頭の中に浮かべる。
その思い出という光景の中には、「鰹節はうまいニャー」とか「強い鰹節を探しにいく!」とか、私へのお説教ばかりがあって……。
「――全然、気にしていません」
そう、全然思い入れなんて無かった。
ただ単に薬を多く作るために頑張っているだけなのだ。
そこにニャン吉への思いでなんてほんの1グラムもない。
「そ、そうか……」
お父様が呆気に取られた口調で納得してくれたけど、そんなに落ち込んでいるように見えたのかな?
お父様との話し合いが終わったあと調合室に戻り、ポーションや傷薬に虫下しを量産する。
そして夕方まで作業をしたあと、調理場へと向かう。
木の扉を開けると、そこには3人のメイドが仕事をしていた。
「――シャルロット様? こんな場所にどうしたのですか?」
「え……えっと……」
「クロエ。シャルロット様は、アリエルと言う方が伯爵邸に務めていた時には料理のお手伝いをしていたそうです。それで、手伝いに来たのでしょう」
「そうなのですか?」
クロエさんの言葉に頷く。
そんな私にニナさんが近寄ってくる。
「シャルロット様、基本的に準男爵家以上の貴族家では貴族のご令嬢が食事の用意を手伝うことは良いとはされていません。アリエルが、どういう風にお嬢様に接したのか存じ上げませんが、これからは手伝う必要はありませんので」
「……そ、そうですか……」
私は普通の貴族がどういう風な生活を送っているのか知らない。
フレベルト王国の王宮で働いていたニナさんが言っているのなら、それは正しいのかも知れないけど……。
何だか釈然としない。
「ご納得頂けていないようですので、ご説明させていただきます。シャルロット様が召使いや家令、そしてメイドの仕事を手伝うということは、その仕事をして給金をもらい生計を立てている人間の仕事を奪うと言う事になるのですよ? そこをまずは理解してください」
「…………わかりました」
調理場から追い出された私は自分の部屋に戻る。
呼びにくるまでは時間があるようなのでベッドの上で横になりニャン吉が残していった本を開く。
そこには色々なポーションや薬を作る方法や素材などが記されている。
「そういえば……」
ふと気が付く。
最近、ハンカチに刺繍をしていないと。
よくよく考えてみれば、色々とゴタゴタがあって刺繍をする時間なんてなかった。
「よし!」
私は以前にセバスさんが買ってきてくれた布を手に取り刺繍を施していく。
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