異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
婚約話(7)
それに……と、私は思う。
カーレルド王国の王子様を救ったのは事実で、過程はどうあれ私がキスをしたから結果的に結婚しないと王位継承権を失うと言うなら、それは私が起こした行動の結果であって、責任は私にあるのではないかと。
正直、結婚についてはよく分かってはいないけれど、このまま流されてフレベルト王国に嫁ぐよりも私は――。
「お父様。私がカーレルド王国に嫁ぐことは難しいのでしょうか?」
「「シャルロット!?」」
お父様と国王陛下の言葉が重なる。
それと同時に先ほどまで沈んでいた表情のアリストさんが顔をパアッと輝かせると「エルトール伯爵令嬢様。カーレルド王国としては全力でお力添え致します!」と、話しかけてきた。
「どういうことだ?」
国王陛下が顔を赤くしてお父様に語り掛ける。
「そ、それは……」
お父様も何て答えていいのか迷っていると、私の手のひらを握っていたお母様が「シャルロット。どうして、カーレルド王国の方を選んだの?」と、問いかけてきた。
「カーレルド王国を選んだのは自分が起こした行動の結果――。その責任を取るためです。フレベルト王国の王家に嫁ぐのは、王国に生まれた者として名誉あることかも知れません。――ですが、私は自分の行動には責任を持ちたいと思ったのです。それは、後悔をしたくないからです」
「そう……」
お母様は「仕方ないわね」と小さく呟くと私の頭を撫でながら笑顔を一瞬見せた後に、表情を引き締めた。
「ルーズベルト。私は娘の考えを尊重したいと思うわ。たしかに娘は貴族としては失格かも知れない。だけど……、人としては正しいと思っているの。だって自分の起こした行動に責任を持つのは大事だもの。そして選んだ選択を後悔しないと言えるのなら尚更だもの。貴方は、どう思うの?」
「クリステル……」
お父様は、お母様と私を交互に見たあと溜息をつくと国王陛下に向けて頭を下げた。
「陛下。私は娘が選んだ道を尊重したいと思います」
「――なん……だと……」
「異世界の知識が! 薬師として貴重な薬を作る事が出来る稀有な才能が他国に流れると言う事が、どれだけ国益を損ねるということを分かった上で言っているのだな? その結果、フレベルト王国の躍進が無くなると分かっていても!」
「はい。それに陛下――、娘は大精霊様の寵愛を受けています。もし! シャルロットが大精霊様にフレベルト王国の事を……」
「き、貴様! この私を……、国王である私を脅すつもりか!」
「いえ、私は事実を言ったに過ぎません」
「――くっ」
室内に険悪な雰囲気が漂い始めた。
これはいけない。
ここは妥協策を提案した方がいいと思うけど……。
――あっ! そういえば!
「国王陛下様」
「なんだ!」
かなり怒っていて気が高ぶっているのか先ほどまでの落ち着いた話方が嘘のように消えている。
「異世界の知識については、フレベルト王国にお伝えします」
「――何!? どういうことだ?」
「ですから、陛下が欲しいのは異世界の知識と薬ですよね? 異世界の知識については使えそうな物は都度お渡しするという形にして、薬についても王家に納めるのは如何でしょうか?」
「……それはつまり、カーレルド王国に嫁いだあとも送ってくると言う事か?」
「はい。アリストさん、定期的にフレベルト王国に薬などを送って頂くことは可能ですか?」
「問題ありませんが……、宜しいので?」
「はい。私はフレベルト王国と喧嘩をするつもりはありません。それに、お父様はフレベルト王国の貴族ですから……。国王陛下様、それで如何でしょうか?」
「…………」
「フレベルト国王陛下。カーレルド王国は、フレベルト王国との対等な貿易交渉を望んでいます。それは、エルトール伯爵令嬢様が嫁ぐ前提の手土産という事になりますが、如何でしょうか?」
「…………仕方ない。さすがに大精霊様の名前まで出されれば無理にはいかないか。シャルロットよ」
「はい」
「普通の貴族家では当主が絶対的な力を持つと言う事を忘れるではないぞ?」
「わかりました」
「アリスト殿、失礼をした。エルトール伯爵令嬢シャルロットについては砂漠の王国カーレルドに嫁ぐ許可を出す」
国王陛下の言葉に室内でピンと張り詰めた緊張の糸がほぐれていく。
他国へ嫁ぐことや貿易に関しては国王陛下とアリストさん、そして交易の中間点となるエルトール伯爵領を統治しているお父様の3人で話すことになったおかげで私とお母様は部屋から出された。
やはり政治は男性がすることと決まっているのだろう。
「よく頑張ったわね。でも本当に良かったの? 一度会っただけの子なのでしょう?」
「はい。それでも責任は取らないといけないので」
「同情とかならやめておきなさいよ? 王族の婚約は、余程の事が無い限り撤回は出来ないからね?」
「はい。でも、すごい剣幕でした」
「そうね。陛下も色々と思う所があるのかも知れないわね」
私はお母様と手を繋ぎながら部屋を後にした。
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