異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

婚約話(2)




「ルーズベルト伯爵」
「はっ」
「先ほどの話だが、大精霊様に守護されていることが本当だったことは分かった。――して、シャルロット。薬の作り方は誰に教わったのかね?」
「ニャ――、精霊にです……」
「畏まらなくてよい。公的な場ではないのだから」
「は、はい……」
「人に別の名前で呼ばれても大精霊様が何も言わないと言う事は、君には何らかの加護があるのだろう」

 加護と言われてもピンと来ないけど……。
 あくまでもニャン吉はサポートしに来ているだけって言っていたし。

「――さて……」

 突然、国王陛下は私を真正面に見据えると突然頭を下げた。
 
「君の薬のおかげで私の息子の病気が改善された。礼を言いたい」
「――え? ええ!?」

 私は慌ててお父様の方を見ると頷き返してきた。
 どうやら本当らしい。

「そ、それは良かったです……。あれ? 改善と言う事は治っては居ないと言う事ですか?」

 国王陛下は、頭を上げると「ああ、改善はしたが治ってはいない」と、答えてきた。
 まぁ普通の傷薬だから仕方ないけど……。

「それって、どんな病気なのですか?」

 興味からでは無いけれど自分の薬が使われたのなら経過を知りたいと思ってしまったので聞くことにした。

「肌の色が黒く変色していく病だが――」
「そ、それって!?」
「心当たりがあるのか?」
「はい。私が治療した少年も同じ病を発症していました」
「――なんだと!? 病を治療した……だと……、それは一体、どうやって!?」
「薬を作って治療致しました。良ければ用意いたしますけど……」
「――なんと! 君が作れるのか?」
「一応、薬師なので……」
「ルーズベルト伯爵!」
「ハッ」
「よろしいかな?」
「臣下として陛下の――、国を治める王子を救う手立てがご用意できるのでしたら、これ以上の誉れはありません」
「うむ。では、すぐに用意してもらえるか?」
「わかりました」

 どうやらすぐに薬が欲しいらしい。
 でも傷薬を作ることから始めないといけないから用意には時間がかかる。
 何といっても薬を作るための薬草の在庫もないし。

「陛下、お願いがあります」
「お願い? 息子を助けてくれるならば、出来る限りの融通は聞くが?」
「いえ、そういう訳ではなく――、薬を作るための材料が足りないので薬草を集める手伝いを騎士団の方にお願い出来ればと」
「なるほど。分かった、すぐに手配しよう。それでは、材料を騎士団が用意するまで話を煮詰めたいと思うだが? もちろんシャルロットにも参加してもらいたいと思っているのがよろしいか?」
「はい」

 私としても自分が知らないところで話を勧められるのは困ることもあり快諾する。
 陛下は頷くと騎士団の一人を呼び命令をしていた。
 どうやら隣の部屋にいたらしいけど、防音設備は無いだけあると私は納得しつつ部屋から出ていく騎士の後ろ姿を見送る。

「――さて、シャルロットの薬の効き目は立証された訳だが我が国としては何の特産物もないことからエルトール伯爵領の薬を外交でも使いたいと思っているのだがどうだろうか?」
「外交ですか……」
「うむ。何か意見があれば――」
「陛下」
「シャルロット!?」
「なにか?」

 私が発現したことでお父様は驚く。
 国王陛下は興味深そうに見てきているだけ。

「薬は病に苦しんでいる人を助けるための者です。それを外交の場で利用するのは薬師としては反対です」
「ほう……。それは、そこに居るクリステル伯爵夫妻から教えられたのか?」
「違います」

 私は即答する。
 
「ニャン吉が以前から言っていたことです。薬師は病に苦しんでいる人を助けるのが仕事であり過ぎた対価を求めるべきではないと。そして――、私もニャン吉の考えには賛同しています」
「…………ははっ。なるほどなるほど――。これは……、くくくっ。アーハハハハ。中々に気骨がある少女ではないか。のう? ルーズベルト伯爵」
「お、恐れいります」
「気にすることはない。薬師として信念を持ち行動することは素晴らしいことだ。……仕方ない。外交の道具に薬を利用するのは諦めるとしよう。息子の病を治してくれる薬を提供してくれるのだからな。それと、薬師ギルドについてはエルトール伯爵領から撤退をしないことに決めた。これだけ優秀な薬師を手放すのはもったいないからな」
「ありがとうございます」
「よい。それと、【ベルンハルト】の商業ギルドの人間が我が国の貴族の屋敷を襲撃してきたという話を小耳に挟んだが、本当のことか?」




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