異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
心の在り方(8) アリエルside
商業ギルド【ベルンハルト】が雇っていた連絡係である【草】から情報が齎されたのは数日後であった。
どうやってシャンティアの商業ギルドに話を切り出そうかと考えていたから半ば助かったと思っていたけれど、知らされた情報に私は驚くことになる。
何故なら、私がエルトール伯爵の籠絡に時間が掛かっていたからと言う理由だけで【ベルンハルト】は、イリア病の病に侵された人間をアルカの町に滞在させたというのだ。
辺境の地でフレベルト王国からまともな援助もなく、資金も底を尽き、その上、疫病まで発生すれば民の不満は爆発するだろうと商業ギルド【ベルンハルト】の南方責任者であるハワードは考え実行に移したそうであった。
――そして、私にも命令が届いていた。それは……。
手紙が届いてから数日が経過していた。
疫病の死者が増えることはあっても減ることはない。
必死にアルカの町の人々は助けてくれる。
そして、何より私に感謝の言葉である「ありがとう」と言う言葉を事切れる際に残していく。
どうして、何れ死ぬ人間に感謝の意を示してくるのか私には分からない。
だけど、どうしてだが分からないけど……。
あの時の少女が私に語り掛けてきた満足そうな笑みがどうしても忘れられないのだ。
私が殺してきた人間は、どいつもこいつも死んで当然の奴らばかりで、民なんて道具としか思っていない貴族ばかりで……。
「最近、ここで出会う事が多いわね」
聞きなれた声に私は頭を上げる。
そこには憔悴しきったクリステルが立っていた。
「クリステルですか。また、寝ていないのですか? 体を壊しますよ?」
「私には私の使命があるから」
「使命?」
私は首を傾げる。
彼女とは何度も広場で出会って話をしていたけれど、彼女の口から出る言葉は薬に使う薬草の話や疫病に侵されている間者の話ばかりだった。
彼女が自分の話をするのは、とても珍しいと言えた。
私の疑問の声にクリステルは頷きながら隣に座ると私に寄り添ってきた。
――とても軽い。
私よりも数センチ身長が低いだけなのに、彼女の体はとても軽かった。
「ごめんなさいね。ちょっと体に力が入らなくて……」
「きちんと寝ないからです。食事は摂っているのですか?」
クリステルは頭を左右に振って答えてくる。
どうやら相当疲れているようだ。
私に体を預けてきたのも、わざとではなく体に力が入らなかったからなのだろう。
「寝てきた方がいいのではないのですか?」
「ええ。その前に、どうしても確認したい事があって……」
「確認したいこと?」
彼女は頷く。
その瞳の奥には何かを躊躇っているような光が見える。
「率直に聞くわね。アリエル、貴女は……。この疫病の正体を知っているのではないですか?」
「――!? な、何を言って……」
「数日前に、私は見てしまったの。この村の者でない方から貴女が手紙のようなモノを受け取っていた場面を」
「それは……。で、でも! それが、私が病を知っている事と、どう繋がるのですか? あまりにも乱暴な考えではありませんか?」
私は否定する。
物心着いた時から、間者として暗殺者として育てられた私にも誇りがあった。
一般人から正体を見破られる訳にはいかないと言う些細な誇りが。
「見ていれば分かるもの」
「――?」
私は、首を傾げる。
私の何を見て分かったのだろう? と――。
幼少期から感情を制御する術を叩き込まれ演技で相手を騙してきた私にとってクリステルの問いかけは理解不能で――。
「さっき言ったわよね? 最近、ここで会うことが多いって――」
「それは、そうですけれど……」
彼女が何を言いたいのか私には理解が出来ない。
「ねえ? どうして、誰もいない真っ暗な場所で一人で居るのかしら?」
「それは……」
どうしてだろうか?
昼間に町の人を看病している間、たくさんの死を見てきた。
だから、誰もいない場所を私は意図的に選択していたのかも知れない。
そこまで考えたところで自嘲する。
今まで多くの人を殺してきた自分が、感傷的になる訳がないと。
「何となくでしょうか?」
「何となくね……」
私の答えにクリステルは小さく溜息をつくと。
「私ね。長年、薬師をしてきたから分かってしまうの」
「何がですか?」
「泣きたいのに、泣けない無理している人が分かってしまうのよ。貴女も――、アリエルも、そうじゃないのかなって私は思っているの」
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