異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

心の在り方(5) アリエルside




 私は、さっきまで勾留されている部屋へ戻るとカルロ達は私を見てくる。
 彼らの眼差しを不快に思いながらも彼らから距離を置いて私は床に腰を下ろした。
 室内は、家具などが全て撤去されている。
 おそらくカルロ達が余計な事をしないための配慮かも知れない。

「アリエル」

 私に話かけてきたのはカルロ。

「何よ」

 彼のことは正直快くおもっていない。
 それどころか嫌悪感すら抱いている。
 ついつい突き放した言葉が口から出てしまうのは仕方ないと言わざるを得ない。

「そう連れない事を言うなよ。それでエルトール伯爵は、何か取引材料を提示してきたのか?」
「何故?」
「そりゃ、俺たちは商業ギルドの人間だぞ? ユークリッド帝国を影から支配している【ベルンハルト】と言えば、経済規模だけで言うならフレベルト王国を経済で牛耳ることだってできる」
「だから、何か取引を持ち掛けてきたと思っているの?」
「そうだ」

 私は思わず笑ってしまう。
 カルロが私の態度で眉間に皺を寄せるがそんなことは気にすることでもない。

「貴方、馬鹿なの? 自分を暗殺しようとした人間に対して取引を持ち掛ける領主が、どこにいると思うの? 貴族は体面を気にするのよ? 取引なんて持ち掛ける訳がないじゃないの」
「……だ、だが! 長年、エルトール伯爵邸に勤めてきたお前なら話は違うだろ」
「本当に分かっていないわね。長年勤めてきたからこそ問題なのよ」

 私は、肩を竦めながらカルロの問いかけに答えた。
 目の前のお金と出世と権力にしか興味の無い人間には商才などの才能は一切ない。
 元は貴族の子息ということでユークリッド帝国で優遇されていたのに過ぎないのだけれども、当の本人はそれが分かっていない。
 
「――くっ……。それなら、何のためにエルトール伯爵は会いにきたのだ? 取り調べだけなら兵士だけで十分ではないか!」

 両手を後ろで縛られているカルロは平民出身の私に蔑まれたことに気が付いたのか顔を真っ赤にして叫んできた。
 
「会いに来たのはエルトール伯爵様ではないわ。シャルロット様よ」
「シャルロット? ああっ――、あの大精霊を従える化け物か」
「化け物ではないわ。誰よりも人間らしい人間よ」

 カルロは何を言っている? と、言う表情で私を見てくる。
 
「あんな見たことも魔法を使い大精霊を従えるのが人間だと言うのか? あれだけ強い魔力を持つ者が人間だと?」
「カルロ、貴方は何も分かっていないのね」
「なんだと!? 平民の分際で!」
「貴方の方が、ずっと化け物よ。自分の為には他人を傷つけることを許容するのだから……、ちがうわね。私も同じよね……」

 壁に背中を預けると私は瞼を閉じる。
 
「何を言って……」

 もう、彼と話すことは何もない。
 どうせカルロは何を言っても理解しないから。



 ――15年前。

 ユークリッド帝国を経済的に支配していた商業ギルドである【ベルンハルト】は他国の情報を得るために私設部隊を運用していた。
 主に私設部隊で教育を受けるのは身よりの無い子供や、奴隷達。
 特に女は重要視されて集められた。
 貴族や王家に雇用される際には女の方が遥かに楽であるし見目麗しいのなら寵愛を受けることも可能だからという理由である。

 元々、戦乱の絶えなかったユークリッド帝国では、両親を失った子供が多かった。
 そのために【ベルンハルト】は私設部隊に必要な人材確保を用意に行うことが出来た。
 そして、私も暮らしていた村を隣国の兵士に焼き討ちされて一人だけ生き残ったらしい。
 物心ついた頃には、【ベルンハルト】の私設部隊に居た。
 幸い見目麗しいと判断された私は夜伽や暗殺の技術を仕込まれることになる。
 北で覇権を争っていた国は、ユークリッドを含めると7国あった。
 13歳から私は隣国の国境を接していた男爵にメイドとして仕えることになった。

 初めて人を殺めたのは、男爵の元で仕えてから一ヵ月が経過したころ。
 ユークリッド帝国ではなく【ベルンハルト】に所属する密偵である草からの命令で私は男爵を殺した。
 初めて人を殺した時――、私は初めて生きている意味を理解した……。
 



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