異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

ニャン吉降臨!




「アリ……エル……さん?」

 目の前で起きている出来事が理解出来ない。
 それに、商業ギルドのカルロが言っていた間者という意味も。
 違う、本当は現状を認識はしていた……、だけど私は、今、目に見えている事実が信じられなかった。ううん、信じたくなかった。
 だって、私が日本から転生してきて――、ずっと家族同然に一緒に暮らしてきた数少ない理解者だったから。

「裏切ったと思っていたが、良くやった! そのままクリステルを抑えつけておけ!」

 だからカルロが、アリエルさんに向けて発していた言葉の意味は分かってはいたけど理解する事を心が拒絶していた。
 だから――。

「アリエルさん。まだ体が病み上がりなのだから……、それに刃物は人に向けたら危ないよ?……」

 無言であったアリエルさんに私は見当違いな言葉を呟いていた。
 
「シャルロット様……」

 すると一言も話していなかったアリエルさんが私の名前を呼んでくる。
 そう、私の名前を呼んできたから……、話合う余地があるのだと私は思ってしまう。
 そう、思ってしまった。

「私は、商業ギルドのギルドマスターであるカルロの間者です」

 だから続けられて語られた言葉の意味に私はショックを受けてしまう。
 彼女は――、アリエルさんはショックのあまり地面の上に座り込んでしまった私を無表情に見降ろしながら口を開く。

「シャルロット様が、魔法が使えることを彼に――、カルロに話したのも私です。それに、気がつきませんでしたか? どうして精霊が伯爵家に居ることをカルロが知っていたのか? それに、鰹節を10個も用意しておいたのもタイミングが良すぎると思いませんでしたか?」
「やめて……」

 まるで答え合わせをするかのようにアリエルさんが今までの事を話し始める。
 それが……、余計に私に真実を付きつけてくるようで心が痛い。
 
「それに、薬師ギルドに人が集まっていたと思います。あれも、シャルロット様が特別な薬を作れることをカルロに流したからです」
「……」

 私は、薬師ギルドにいちゃもんをつけていた人達の事を思い出す。
 それと同時にそこらへんに転がって身動きが取れない人の中に薬師ギルドの前に居た人達の姿を発見して胸が締め付けられる。
 アリエルさんの語っている言葉が全て本当の事だと言うのが分かってしまうから。

「それに――」
「――もう、やめ……て……よ……」

 これ以上、聞きたくなかった。
 一緒に暮らしてきて、ずっと一緒に同じお家で寝食を共にしてきて、いつも私にやさしく接してくれていたアリエルさんは、実はカルロの間者で、それを演技でしていたと知ってしまったら。
 だけど、彼女は話すのをやめない。

「エルトール伯爵家、当主様が不在を知らせたのも私です。おかしいと思いませんでしたか? 小麦を管理している倉庫が燃やされる事と当主様が不在であった時期が重なった不自然さに。すべて私がカルロの間者で情報をつねに渡していたからです」
「ううっ……、どうして……」
「貴女には関係の無いことです」

 完全な拒絶。
 信じていた人に裏切られたと言う思いが心の中を占めたと同時に、何かが砕ける音が聞こえてくる。
 
「アリエル。よくやったぞ!」

 視界が霞む中、声がした方へ視線を向ける。
 カルロを始めたとした襲撃をしてきた人達の束縛が解かれていた。
 私が見てる中、カルロがゆっくりと私に近づいてくると首を掴んで持ち上げてくる。

「よくもやってくれたな! この化け物が!」
 
 首を掴まれて持ち上げられていて、息が出来ない。
 体格差がありすぎて足をばたつかせることしか出来なくて、両手を使ってもカルロの手を振りほどくことも無理。

「殺してやる!」

 血走った目で私を見てくるカルロが落ちていた兵士の剣を私につきつけてくる。

「カルロ様!」
「何だ! 貴様は、クリステルを抑えつけておけ!
「ですが!」
「うるさい! こんなガキに用はない。俺が欲しているのは伯爵家の針子だけだ。大方、体調が優れないクリステルが少しでもお金を稼ごうとして針子の真似事をしていたんだろう。それに薬も、クリステルが作っていたのだからな」
「そ、それは……」
「ふん。クリステルを本国に奴隷として連れて行こうと思っていた。そして言う事を聞かせる為に子供を連れていこうと思っていたが……」

 アリエルさんに答えながらもカルロの視線は私から離れることはない。
 
「だが、こいつは化け物だ。こいつは、この場で殺しておかないと後でどうなるかわからん。それに、セリーナというガキがいるんだろう? そいつを人質にすればクリステルも俺の命令に従うだろうよ。このガキを生かしておく必要はない」

 カルロが持つ剣の切っ先が私の目に向けられてくる。
 だけど、自然怖くはなかった。
 それよりもアリエルさんが私や皆を騙していたことの方がずっと悲しかったから。
 だから、向けられてくる切っ先を見ても、何とも思わなかった。

「つまらん。最初に会った時は喜怒哀楽のあるガキだったが、信じていた人間に裏切られて壊れたのか」
「シャルロット!」

 お母様の必死な叫びが聞こえてくる。
 でも、もう……、どうでもよくなってしまっていた。
 信じていた人に裏切られるってことは、こんなに苦しくて、心が痛い事だったから。
 もう耐えられない。

「おい、セリーナを捕まえてこい。その後に屋敷に火を放って本国に撤収する」
「は、はい!」
「こんな辺境の地に左遷された時は、もう終わりだと思ったが人生何があるか分からないものだな。さて、お前はここで死んでもら――ぐあああああああ」

 剣の切っ先が私に向かってくるのを無感動を見ていた時だった。
 私とカルロの間に光が収束すると同時にカルロが吹き飛ばされる。
 そして、私の体は重力に引かれて落ちるけど枯れ草がクッションとなって抱き締めてくれた。
 一体何が起きたのか分からない。
 でも、カルロが吹き飛ばされた場面だけはハッキリと確認して――。

「まったく、女神様も転生先の詰めが甘いニャン」

 収束した光の中から現れたのは、リボルバー2丁を両手に構えたニャン吉であった。




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