異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

暗躍する者達(4)




「お母様、遅いね」

 私は、いつもお母様が座っている椅子に腰をかけながら暖炉の前に置かれているベビーベットの中で寝ているセリーナを見ながら声を掛ける。
 妹は、私の声に反応して手を伸ばしてくるので、やさしく手を握ってあげると笑顔を向けてきた。
 
「はぁー。いつ見てもかわいい……」

 ぷにぷにの肌――、そして大きな瞳。
 頬なんて指でつんつんするとやわらかく押し返してくる。
 前世でも妹はいたけど、幼稚園とかに通っていたから殆ど妹を見ていたのはお母さんだった。
 だから、妹のオシメを変えたりすることは殆ど無かったけど、この世界ではとにかく人力が全てだから前世の時よりも妹の面倒を見ていることは多い。
 そんな事もあって前世の時よりも妹がかわいく見えてしまう。

「――あれ?」

 妹をあやしていたから気が付くのが遅れてしまった。

「暖炉の薪が、もうすぐ燃え尽きちゃう……」

 あと数分は持つと思うけど、早めに薪を暖炉に入れた方がいいだろう。
 でも……、問題は薪を取りにいっている間にセリーナに何かあったら困ることだ。
 セバスさんが割った薪は調理場の外に置かれているけど走って戻ってくるだけで2~3分は掛かる。
 その間に妹に何かあったら……。

「でも……」

 私は、部屋の中から窓越しに外へと視線を向ける。
 日は落ちていて、すっかり暗くなっていた。
 すでにお母様が家を出て行ってから半日は経過していると思う。
 時計があればもっと詳しい時間が分かるのに……と、考えてしまったりする。
 そのこともあり、妹の食事は部屋に持ってきていたけど、私はまだご飯を食べていない。

「お腹すいた……」

 お腹に手を当てながら一人呟く。
 お母様が戻ってくると思っていたから何も用意していなかった。
 転生して前世の記憶があっても危機管理能力が足りないのは、やっぱり日本人だからなのかも知れない。
 
「仕方ない」

 たぶん調理場に行けば何か作り置きしてくれている物があるかも知れない。
 ついでに薪を取りにいけば問題ないだろう。
 私はベビーベッドで寝ている妹に近寄る。

「セリーナ。お姉ちゃんは、少しだけご飯と薪を取ってくるから良い子にしていてね」
「キャッキャッ!」

 私の言った言葉を理解してくれたのか分からないけど、妹は必至に手を伸ばしてくる。
 本当は、妹も一緒に行くのがベストなんだろうけど10歳の私には薪とご飯を取ってくるだけで精一杯。
 
「すぐに戻ってくるからね」

 妹の頭を撫でたあと部屋から出る。
 やはりと言うか廊下は暗い。
 明かりが無いから当然のことだけど……。

「光!」

 生活魔法を発動させて天井付近に待機させる。
 周辺は少し明るくなったけど無駄に広いエルトール伯爵邸の廊下を照らすには無理があった。

「そうだ! どうせなら――」

 伯爵邸には、妹と私以外は誰もいないだ。
 それなら……。
 私は伯爵邸内の廊下を頭の中に思い描きながら、天井付近で光の玉が無数作られる事を頭の中でイメージしながら「光」の魔法を発動させる。
 魔法発動に成功しエルトール伯爵家の通路が一気に明るくなった。
 これなら走るのにも楽だ。
 すぐに食堂に向かい作り置きのシチューを見つける。
 さらにテーブルの上に置かれていたパンも発見。
 冷たくても飲めればいいと思いお皿にシチューを注いだあと、トレイにパンとシチューの入ったお皿を乗せる。
 さらに調理場から出て薪が置かれている場所まで小走りで向かって一抱えほど薪を手に取る。
 調理場に戻りトレイの空いている部分へ薪を乗せると暖炉がある部屋へと急いで戻った。
 部屋に入ると扉の開いた音に反応した妹が私の方を見てくる。

「ただいま」

 テーブルの上にトレイを置きながら薪を手に取ると暖炉に入れる。
 とりあえず、これでしばらくは問題ない。
 食事を終えて妹のオシメを交換してから、眠い目を擦りながら起きていると扉の外から物音が聞こえてきた。
 屋敷には、私と妹以外はいないはずだけど……。
 

 


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