異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

生活魔法(6)




「そうなのね……、貴女の前世で使われていた言葉や文字がこの世界の魔法に密接に関与しているのね」

 お母様の言葉に私は頷く。
 
「そんな事を一つも言っていなかったのに……」

 本当に小さな声で――。
 震える声で――。
 お母様は自身に問いかけるように言葉を呟いていたけれど私にはハッキリと聞こえた。
 
 それは――。
 お母様は、私が知らない何かを知っているという事実であり何かを隠していると言う事に他ならなかった。
 本当は聞きたかった。
 だけど、お母様はいつも私の事を思ってくれていた。
 だから口から思わず出た言葉は「お母様?」と言う私は、此処に居るという自身の存在のアピールであった。
 私の問いかけにハッとした表情をお母様は私に向けてくる。
 その瞳には、どこか戸惑いが含まれているような気がした。

「シャルロット」
「はい」
「貴女は気が付かないのかしら?」
「何を――」
「魔法のことよ? 貴女が暮らしていた前世の世界で使われていた文字が魔法として発動するなんておかしいと思わないの?」
「――そ、それは!?」

 お母様の言葉に……、私はようやくお母様が何に動揺しているのか分かった気がする。
 世界に干渉する魔法と言う現象。
 その根幹を――、日本の漢字や言葉の意味合いが成しているのは明らかにおかしい。
 偶然にしすぎては出来すぎているような気がしてならない。
 だけど……、あの女神は魔法に関しては才能を与えると言っただけで理由は教えてはくれなかった。
 魔法の才能を与えられた時点で、この世界の常識などが書き換えられているのなら日本の漢字や言葉が生活魔法に関与している説明はつくけど……。
 その可能性は非常に低いと言わざるを得ない。
 何故なら手間がかかりすぎているから。

「こういう時にニャン吉がいれば……」
「……シャルロット。ルーズベルトは魔法について何か言っていなかった?」
「人前では使わないようにと注意されました」
「そう――」
「それと王宮へ報告するとも……」
「シャルロット、なるべく魔法の修練を行いなさい。貴女は、これから多くの問題に直面する可能性が高いわ。その時に自分で自分の身が守れるように――」
「でも、お母様。魔法は人前では使わないようにとお父様に……」
「自分の部屋で練習するといいわ。少し待っていなさい」

 部屋から出たかと思うとしばらくしてお母様が戻ってくると一冊の本を私に手渡しくる。
 
「魔法入門書?」
「――ええ。旅の魔法師に薬の代金として頂いたものなのよ? 使うことは無いと思っていたのだけれども取っておいて良かったわ」
 
 お母様の話を聞きながら本を開き見ると文字などは手書きであるのが一目で分かる。
 活版印刷などは、恐らく存在していないのかもしれない。
 ただ、そこに書かれているのは全て大陸共通語であった。
 日本の漢字で書かれているような部分は、ページを捲っても見当たらない。
 これだけだと、たぶんだけど魔法は使えないと思う。

「お母様、これは……」
「ええ、魔法を使うための重要な部分が抜けているわね。それでも魔法の練習方法については書かれているでしょう?」

 たしかにと私は頷きながらページを捲る。
 魔力操作向上のために光の球を維持する方法や魔力量を増やす方法などが書かれていて。

「ルーズベルトには私から伝えておくわ。使える魔法は、使えるようにしておいた方がいいから」
「わかりました。でも、急に魔法が必要になのでしょうか?」

 何だか分からないけど……、お母様の口ぶりからして私は自分自身が何か重大な問題を抱えているように思えてしまう。
 しばらくお母様と話しをした後、自分の部屋に戻るとベッドの上に倒れこんだ。
 
「なんだか、疲れた……」

 ゆっくりと瞼が閉じていく。
 ここ数日、色々な事がありすぎて私は心身ともに疲れていたのだろう。
 気が付けば、外から月の光が部屋の窓を通して入ってきていた。
 どうやら夕飯には呼ばれなかったみたいと思いながらベッドから降りるとテーブルの上に果肉が盛られたお皿と果実を絞って作られた飲み物が入った木のコップが置かれていた。
 
「起こさないようにと置いてくれたのかな……」

 コップに口づけて中身を飲む。
 自分自身で思っていたよりも喉が渇いていたのか気が付けば全て飲み干していた。

「これって、オレンジだよね」

 私は果肉を口にした後、椅子に座ったままで渡された魔法入門書を開く。
 


漢字ふりがな

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