異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

生活魔法(5)




 ――コンコン

 私は、扉を控えめにノックしながら扉を開く。
 すると、やはり妹は寝ていてお母さまは繕い物をしていた。

「シャルロット? ルーズベルトとはお話は出来たのかしら?」

 お母さまは、繕い物をしていた手を動かしながら私に問いかけてくる。
 
「はい。しばらくは様子をされるそうです」

 私は、左手を右手で摩りながらお父様が、身重であったお母さまには余計な心配をかけないようにと言っていた事を思いだし問いかけに答えると「そう……」と、私に向けていた眼を細める。
 
「あ、あの――」
「何かしら?」
「セリーナは、寝て……」
「ええ。疲れたようね」

 話題を変えようと妹の話を口にすると、お母さまは小さな溜息をつきながら繕い物をしていた手を止めると私に近寄ってくると抱きしめてきた。
 突然の事に私は驚いてしまう。

「お、お母さま?」
「貴女の事は小さい頃からずっと見てきたわ」
「……」
「だからね――、隠し事はして欲しくないわ。隠し事をするために嘘をつけば、その嘘を隠すために更に大きな嘘をつくことになるの。それが積み重なれば擦れ違いを生むことになるわ」
「お母さま……」

 お母さまには私は隠し事をしていることが分かっているみたい。

「だからね、どんな些細な事でもいいの。貴女が思ったことや気になったこと、感じたことを素直に相談して欲しいわ。貴女は異世界から来たのでしょう? なら、考え方も違うわけだから……」
「で、でも……」

 ――でも、強い口調ではないけど、強く私を抱きしめながら問いかけてくるお母様の言葉には、何だか知らないけど伝えた方がいい気がしてくる。

「あのね、家族なのよ? そして私は、貴女のお母さんなのよ? 娘が困っていたら力になりたいと思うのが親の心なの。無理強いはしないわ。でも! お母さんとしては、一人で背負うよりも教えてほしいかな? ね? わかるわよね?」
「……」

 さらにギュッと強く抱きしめてくる。
 
「えっと……、あの……」
「はい! 何かな? シャルロットちゃんは、お母さんに隠し事をする子なのかな?」

 もう既に自白を強要してきているにも近い。
 でも、悪い気持ちにはなっていない。
 きっと、私を心から心配しているからかも知れないと! 私は自分を納得させる。

「あの……。生活魔法が使えるようになりました」
「……え? ルーズベルトに聞きに行った小麦畑の種まきや、雨が降ってきたことで慌ただしくしていた人達の話ではないの?」
「――あ……」
「シャルロットちゃん?」
「は、はい!」

 お母様は、床に膝をつくと目線を私に合わせながら肩を掴んでくる。

「魔法が使えるようになったの?」
「は、はい」

 魔法に関して聞かれたと思って白状してしまった。
 私は、肩を落としながら頷く。
 そんな私を見ながらお母様は微笑みかけてくると口を開いて「そう。素直に話してくれて良かったわ」と、やさしく語りかけてきた。

「私が隠し事をしていた事にお母様は怒っていないの?」
「どうして?」
「だって……」
「怒る訳がないわ。貴女だって別の異世界から転生して来た時に記憶や人格を引き継いできたのでしょう? なら、何かしら考えがあって言わなかったのでしょう?」
「……はい」
「でもね、出来れば家族なのだから私としては教えてほしいわ」
「ごめんなさい」

 謝罪の言葉を口にした私の頭をお母様は撫でながら「謝る必要はないわ」とやさしく囁いてくる。
 そんなお母様の接し方を感じながら心が少しだけ軽くなったように思う。

「それで、どこで魔法を習ったかしら?」
「えっと……。食堂の方に生活魔法で水を作る方法を教えてもらいました」
「教えてもらっただけで生活魔法を? 貴女、魔法言語と意味を勉強していなかったわよね?」
「えっと、魔法言語は日本語だったので……。たぶん意味もそれに近いもので」
「――え?」
「実は――」

 魔法言語は、私自身が以前に暮らしていた日本という国で使われていた文字であることを伝える。
 お父様に相談した事も伝えるとようやくお母様は私を離してくれた。

 
 

 

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