異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

生活魔法(2)




「それって、貴女の前世の記憶と比較して思ったことなの?」
「はい。今日は、馬車で移動中にお父様と一緒に小麦畑を見ていたのですけど、その時に種まきなどが進んでいなかったので」
「そうなの? でも、種まきはこれからなのよね。ルーズベルトと話しをしてみたらどうかしら?」
「はい。判断は、お父様にと私も考えています」
「それならいいわ」

 お母さまは椅子から立ち上がると、私を抱き寄せて頭を撫でながら。

「あまり思いつめないようにね。たしかに貴女は、異世界の知識や経験を持っているけどルーズベルトと私の子供なのだから、子供の時くらいは甘えてほしいかな?」
「はい。気を付けます」
「そう。無理はしないようにね」

 やさしく諭してくるお母様の言葉を聞きながら、お母さまの子供に生まれてきて本当に良かったと心の中から感謝せずに居られなかった。



「それでは――。お母さま、お父様とお話をしてきます」
「どんな時でも、ルーズベルトと相談するようにね。貴女は、精霊様や女神様から祝福を受けているのだから」
「はい」

 部屋から出てから向かう先は執務室。
 
「光!」

 頭の上に光の玉が形成されていき天井から周囲を照らす。
 やっぱり、照明のような魔法があると歩きやすいのですぐに執務室に到着した。
 光の魔法を解除する。

 ――コンコン

「お父様、シャルロットです」
「シャルロットかい? 入っておいで」
「失礼致します」

 執務室の扉を開けようとすると、扉が内側に開いた。
 
「セバスさん?」
「シャルロット様、起きられたのですね」
「あれ? 私が寝ていたのを知っていたのですか?」
「はい。部屋まで運んだのは私でしたので」
「そうだったのですか。いつもご迷惑をおかけします」
「お気になさらず。それよりも夕食は、まだでございますよね? 食事の用意を致しましょうか?」
「いいえ、大丈夫です」
「そうですか。それでは、私は取り急ぎの用がありますので――」

 セバスさんは、そう言うと邸宅のホールの方へと向かっていった。
 室内に入るとお父様が羽ペンを持って何かの書類に文字を書き込んでいる。

「シャルロット、どうかしたのかい?」

 私は扉を閉めながら「はい、いくつか気になった事がありまして」と言葉を紡ぐ。

「気になったこと?」
「はい。町に行ったときに雨が降ったのですけど……」
「ああ、久しぶりに雨が降ったな。それで、どうかしたのかい?」
「はい。小麦の種まきが日照りで行えないと飢饉になってしまうと思って――」
「大丈夫だよ。久しぶりの雨ではあるが川から水を引いているからね」
「そうなのですか……」

 どうやら私が思っていた事態にはならないようで良かった。
 ――でも、それなら……、どうして雨が降った時に町の人達は慌てたのかが分からない。
 私の勘違いでは無いと思うのだけれども……。
 うーん。
 でも、ハッキリとしない状態でお父様に話をしても……。
 
「あっ! そういえば、お父様」
「どうかしたのかい?」
「はい。実は、私は生活魔法が使えるようになりました!」
「生活魔法を!?」

 お父様が驚いた表情で私に語りかけてくる。

「はい。光!」

 頭上に光が生まれる。
 その光を茫然とした表情でお父様は見つめて。

「ほ、本当に……。それよりも、シャルロットは光の属性を持っているのかい?」
「光の属性?」
「うむ。光の属性は勇者や聖女などと言った神々の祝福を受けている人物だけが使える物なのだ……が――。そういえば、シャルロットは精霊様から祝福を受けていたな……」
「ついでに女神様からも祝福を受けているみたいです。ハハハ」
「他には、どんな魔法が使えるのかな?」
「えっと……、飲み水を作ったり雨を降らしたりできます!」
「――あ、雨!? 天候制御魔法を使うことが出来るのか?」
「はい! たぶん!」
「もしかして……」

 お父様は途中で言葉を区切ると窓へと視線を向けるとハッ! とした表情を私に向けてきた。

「この雨は……」
「たぶん、私が降らせたものかも知れないです」
「止ませることは出来るのかい?」
「たぶん……、出来ると思います」

 私は雨が晴れる事象を創造しながら【晴】と言う漢字を考えながら言葉を紡ぐ。
 すると――。

「雨が止みました!」
「ほ、本当に……、天候制御魔法が使えるのか……」
「そんなに珍しい魔法なのですか?」
「天候制御魔法は、高位の竜のみが使うことが出来る魔法で……」
「もしかして、それって……」
「天候制御魔法を使える人間はいない……、これは国王陛下に報告をしないとな――。他に何か特殊な技能などはあるのかい?」
「えーっと、ハンカチを作って刺繍を入れることが出来ます!」
「それは、特に問題ないか」

 お父様は、深くため息をつきながら人前では天候制御魔法は使わないようにと釘を刺してきた。


 

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