異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
領地が大変です(8)
「俺は大丈夫だ。それよりコルネットはどうして樽の中に入っていたんだ?」
「ええ。それならシャルロットちゃんのアイデアよ?」
「エルトール伯爵様のお嬢様が?」
「そう。何か只ならない気配を感じたから――」
ケインさんは、私に視線を向けてくると軽く会釈してくる。
何かよく知らないけど、多少なりと恩を感じてくれたみたい。
「大丈夫でしたか?」
先ほど思った生活魔法については、自分で考えても良く分からないからお父様かお母さまに聞くとして、あまり賢いと思われるのも良くないと思いケインさんに近寄ると共に語りかける。
「大丈夫だが……、樽を使う案は君が?」
「はい。それよりもお父様は?」
「それなら商業ギルドの人間が来たと思ったら慌てて出ていったよ?」
ケインさんの言葉に私は口元に手を当てる。
「どうかしたのか?」
「――いえ」
私は頭を左右に振りながら考え込む。
何故か分からないけど、エルトール伯爵領内で何か不穏なことが起きているような気がしてならない。
「ケインさん。先ほどは何だったのですか?」
「――ん? 建物の前に集まっていた人達のことか?」
「はい」
「そうよ! ケイン。私だって、この町に来てから数日は経過しているけども今まで町の人が押しかけてくることは無かったわよね? 一体、どういうことなの?」
「俺にも何がなんだが……、今まで町の人間が押しかけてくるようなことは無かったんだが――」
どうやらケインさんにも心当たりは無いみたい。
――と、言うことは変わったことがあったとすれば……。
「どうしたの? シャルロットちゃん」
「何でもないです。それよりお父様は、商業ギルドに向かったのですよね?」
「そうだが……」
ケインさんが嘘をついているようには見えない。
ただ、子供の私が余計な行動をするわけにもいかないし、コルネットさんと共に行動していた私に何かあればコルネットさんやケインさんに迷惑が掛かってしまう。
「商業ギルドに向かうつもりなの?」
「いいえ。お父様が慌てて行かれたということは何か問題があったということだと思います。大人には大人の商談があると思いますので、皆さんとご一緒にお待ちしていてもいいですか?」
「構わないわよ! ねえ、ケイン!」
「そうだな」
薬師ギルドの2階に案内される。
2階に上がり、応接室に通されたあとに別の部屋に案内された。
隣の部屋の室内には、たくさんの棚があり棚の上には多くの丸まった羊皮紙が置かれている。
「ここは――」
「ここには、薬草の種類や生えている場所に、効能や取れる時期が書かれた本が置かれている部屋よ?」
「調合の仕方は書かれて居ないのですか?」
「書かれていないわね」
「どうしてですか? 誰でも作れるようになった方が便利だと思うのですけど……?」
「自分の食事の種を明かすような人は居ないわ」
コルネットさんは、私の疑問を晴らしてくれた。
たしかに、彼女の言う通りに薬師は、薬を作って売ることで生計を立てている。
それなのに、その調合の仕方を教えるというのは自分で自分の首を絞めることに他ならない。
それでも薬草の種類や効能が書かれているのは、ある程度の良心からなのかも知れない。
「ここに置かれている書物を読んでみてもいいですか?」
「いいわよ? シャルロットちゃんは、クリステルの――薬師の娘だものね。必ず興味を持つと思ったわ。読み物は時間を潰すのには丁度いいものね」
「はい!」
「それじゃ、エルトール伯爵様が来られたら教えるからね」
コルネットさんは、それだけ言うと部屋から出ていった。
私は室内に置かれていた丸められた羊皮紙を広げて書かれている文字を見ていく。
そのすべてが、どこかで見たことのある草名や効能で――。
「これって……、ニャン吉が覚えておくように言っていた内容ばかり……、ううん」
それだけじゃない。
ニャン吉が、私に基礎を覚えるようにと渡してきた草の効能は、もっと詳しい内容が書かれていた。
それに、すべて私がニャン吉から習った物ばかりで。
おかげで羊皮紙に書かれていた内容を短時間で読破してしまった。
「それにしても、これって……」
私は、ニャン吉が教えてくれなかった草が書かれている羊皮紙に視線を落とす。
そこに書かれている草――、そこには熱冷ましなどに効果があると書かれているけど、ニャン吉からは教わっていない。
草の種類だけでも100種類近くあるから、ニャン吉も抜けがあったのかも知れない。
「シャルロットちゃん。エルトール伯爵様が戻られたわよ」
勉強が一段落したところで、コルネットさんが扉をノックして部屋に入ってくる。
応接室に通されると、お父様とケインさんがテーブルを挟んで座っていて。
「――では、ケイン。話はあとでな」
「わかりました」
「シャルロット。屋敷に戻るとしよう」
薬師ギルドから出る。
「あれ? お父様、あれは……」
「馬車を借りたんだよ?」
「そうなのですか」
よかった。
エルトール伯爵邸から町まで思ったよりも距離があったから歩くと大変かなと思っていたから馬車があるだけで十分。
私の体をお父様は抱え上げると馬車に乗せる。
お父様もすぐに馬車の中に入ってくると、すぐに馬車は走り始めた。
帰りは、転生してから初めて町に出てきて気疲れしたのか私はすぐに寝てしまった。
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