異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

薬師ギルド(2)




 ケインさんより渡された書類に目を通していくお父様を横目で見ながら、私は薬師ギルドの応接室の中をチェックしていくけど、一人を残して撤退した割には調度品もいい物が残っているように感じられた。

「エルトール伯爵様」
「――ん?」
「この子は……?」

 室内を見ていた私に興味を引かれたのかケインさんが私の方を端目で見たあと、言葉を紡いでいた。

「そうであったな。シャル」
「はい、お父様。シャルロット・フォン・エルトールと申します」
「ケインです。ところで王宮で噂になっている……」
「それなんだがな……」

 ケインさんの言葉に、お父様が苦笑いを浮かべる。
 おそらく私の婚約に関して思うところがあったのかもしれない。

「一本あれば10人ほどには効果があるのか」
「はい。エルトール伯爵様より栄養失調の改善についてお話がありましたが、体調改善については大きく前進するかと思われます」
「そうか」

 お父様は、羊皮紙を丸めるとテーブルの上に置く。
 その羊皮紙を私は、興味ありげな眼差しで見ながら手に取り広げたあと目を通す。
 何回かに分けて使う必要性があることは、ニャン吉から言われていたけど、一回目で虫が排出されていた事に少し驚きながら読み勧めていく。
 渡したのは数日前であったけど、虫下しを使った後の患者の様子が克明に書かれていて同じ食事を摂ったのに虫下しを使った後の人は体重増が確認できたと書かれている。
 つまり、寄生虫に食べられていた食物があまさず体内に吸収されたということかもしれない。

「それに、何よりこれほどの薬があるならフレベルト王国内の健康状態も大きく改善すること間違いありませんが……」

 ケインさんの言葉が途中から急速に萎んでいく。
 
「王宮が絡んでくる可能性が非常に高いな」

 お父様は、溜息をつきながらケインさんが言いかけたと思われる言葉の続きを語っていた。
 どうして、虫下しの薬に王宮が絡んでくるのか私はピンと来ない。

「そうすると一度、王宮へ使者を出した方がいいかもしれないな」
「はい、それがいいかと。それよりも薬は、奥様が作っていらっしゃると前に伺いましたが、体調は大丈夫なのですか?」
「ああ、それなんだがな――」

 お父様は、私の頭の上に手を置いてくる。

「クリステルに教えられて、娘が作っているのだ」
「エルトール伯爵様のご令嬢がですか!?」
「ああ、娘が作ったとなると薬を試してもらえないと思い妻が作っていることにしたのだ。
それと妻の話だと筋は良いらしい」
「なるほど……。出来れば正直に話しをしてもらえると助かるのですが……」
「すまないな」
「次回からきちんと申告をお願いします。こちらも何かあれば問題になりますので」
「わかった」
「……そういえば……。以前に持ち込まれた以前の傷薬を作られたのは?」
「娘が作ったものだ」
「それは!?」

 お父様の言葉に驚いた表情を見せていたケインさんは、私の方へ始めて真っ直ぐ視線を向けてきた。

「シャルロット様、薬師ギルドへ登録などはされる予定はあるのですか?」
「娘次第だが……」

 ケインさんは私に話かけてきたけど、横からお父様が答えていた。
 私は、余計なことを言うと面倒ごとになりそうなので黙っていようと思ったけど、気になったことが一つあった。

「お父様、薬師ギルドに登録すると何か良い事があるのですか?」

 疑問を口に出したけど、答えてきたのはケインさんで。

「もちろん特典はあります。薬師は貴重ですからね! まず立場ですが薬師ギルドはフレベルト王国が出資しているギルドですので王国薬師という立場になります」
「王国薬師?」

 始めて聞く役職だけど……。
 公務員みたいな物かな?

「はい。王国薬師は宿に泊まるときも国が用意している宿泊施設に無料で泊まることが出来るのです」
「たとえば?」
「兵士の宿舎や、薬師ギルドの建物に泊まることが出来るのです。それに薬の販売も、どこの町でも行っていいのです」
「毎月の給料はおいくらなのですか?」
「金貨3枚分の薬を納入してもらうだけでいいことになっています」
「そうなのですか……。それでは登録は止めておきます」
「ええ!? 王国に認められた薬師になれるのですよ?」
「そんなお金、私にはありませんし薬を納める余裕もありませんので」

 正直、兵士の宿舎や薬師ギルドの建物で泊まれると言ってもメリットが殆ど感じられない。
 それに薬に販売についても、どこの町でもやっていいとは言ってきているけど、エルトール伯爵家から出ないのだから殆どメリットがない。
 

 

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