異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
麦蒔きの季節です。
現在、私とお父様は商業ギルドが手配した馬車で町に向かっていた。
「それにしても、商業ギルドが迎えに馬車を寄越すとはな」
隣に座っているお父様が、顎に手を添えながら独り言のように呟いているのに私は頷きながら考えて言葉を紡ぐ。
「やっぱりニャン吉の件でしょうか?」
どう考えても鰹節の一件が絡んでいるとしか思えない。
何せ金貨100枚、銀貨に表すと1万枚の価値があるのだ。
日本円に直すと銀貨1枚が1000円くらいの価値があるから1000万円。
とっても高額である。
「どうであろうな」
「……でも、お父様。銀貨1万枚分ですよ、間違いなく何かしらの譲歩を引き出してくると思います。朝早くから迎えの馬車を寄越したのは、その可能性が高いです」
「一応、相手は精霊様に物を献上した形を取っているのだ。そこまで不躾な話をしてくるとは思えないがな」
お父様の言い分に私は内心溜息をついてしまう。
よく物語で商人と言うのは裏で色々としているというのが普通で、お代官様と越後屋関係からもそれはよく見える。
まぁ、お代官様は領主であるエルトール伯爵家になるわけだけど。
「はぁ……、もういいです」
「それよりも、クリステルと何かあったのかい?」
「――うっ」
一瞬、私は言葉を詰まらせる。
じつは昨日の夜の一件以降、お母様との関係は良好とはいい難い。
お父様に告げ口をしてもいいけど、それは何か違うような気がする。
「何でもないです」
「そうか。何かあったら言うのだぞ?」
「はい。それよりも――」
「どうしたんだい?」
私は、馬車の窓から見える風景をチラリと見て疑問に思ったことを口にすることにした。
「畑に大勢の方の姿が見えますが」
「そろそろ麦の種まきの時期であるからな。畑の手入れをしているのだよ」
「そうなのですか?」
「シャルロットは、転生してきたと聞いたが種まきを見たことがないのかい?」
「……はい」
お父様の言葉に素直に頷く。
都心に暮らしていた私にとって畑を見る機会自体、そんなに多いことではないし、何より種まきなど小学校の時にアサガオを育てたとき以来で殆ど記憶に残っていない。
大規模な畑の農作業を見たことなんて始めてだ。
「そうか。シャルロットの暮らしていた場所は、どんなところだったんだい?」
「えっと……」
一瞬、言い淀んでしまう。
どこまで話いいのかと……。
でも、すぐに思い直す。
別に隠す内容では無いし、ニャン吉も私のことを異世界から来たと両親に言っているのだから素直に話をしても問題ないと思うし。
「私が住んでいた所は、たくさんの建物があって地面は全て整地されていました。畑もまったく無くて、あっても本当に小さな畑でした」
「小さな畑? あのくらいかい?」
お父様が指差した方角には、サッカー場くらいの広さの畑が存在していた。
「いえ、もっと小さいです」
「そうか。シャルロットが暮らしていた国は貧しかったのだな」
「えーと……、そんなに貧しくはなかったような気がします」
「そうなのかい? 畑が小さいのなら生産力も低いんじゃないのかい?」
「そこは加工貿易とか、お金を貸したりとか外国から輸出や輸入をしたりとか……」
「ほほう」
お父様は、私の説明に興味をそそられたみたい。
だけど、私はそこまで経済や政治に詳しい訳じゃなかったから中学校で習った内容を口にするのが精々で。
「まだ町に到着するまで時間があるからな。シャルロットが暮らしていた国の話を聞きたいものだ」
「私、異世界では15歳までしか生きていませんでした。ですから社会に出ていないので学校で習ったことくらいしかお話出来ませんけど……」
「15歳!? シャルロットが暮らしていた国では15歳まで学生だったのかい?」
あれ? お父様驚いている?
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