名も無き僕に

望月アイラ

僕の存在

殺す
この動作だけが、僕の全てだ。
なぜか?聞くのも馬鹿らしい。
僕がここにいるのは、
「人を殺すため」
今更疑問なんて浮かばない。
怖くないか?そんな事思ったことなんてない。
そもそも感情なんて必要が無い。
感情は、誰にでもあるって?そんな事は無い。
君だってそうだろう。
言葉を知らなければ、感情は表せない。
表せなければ、感情なんて無いに等しい。


「次はこの男よ。」
そう言って黒髪を揺らした女が、パソコンで次のターゲットの情報を見せてくる。
ここは、仕事場。
「…分かりました。」
僕はいつものように、ざっと情報を見てから女に返事をした。
「…あなたのいい所って、覚えがいいところと、希望がまるでないその目よねぇ。ホント、ゾクゾクするわぁ。」
この女は、僕に希望がない目という。
当たり前だろう。
ここにいる人に、希望なんてあるわけが無い。
人を殺したい人、人を苦しめたい人、暇な人、金が欲しい人、殺すために生まれた人。
僕は、最後だ。
殺すために生まれた人。
いや、殺すために生まれているのなら、既に人間ではないのかもしれない。
結局考えても答えが出ないことぐらい分かっている。
だから僕は、考えることを放棄した。

仕事場から出れば、そこは東京。
夜だというのに、人が大勢いる。
中には、見るからに未成年である者もいる。
まぁ、それで言えば僕だって未成年な事には変わりない。
ただ、学校というものに行ったことがないだけだ。
行きたいと思ったことはない。
そもそも僕は、戸籍というものがないのだから。
生きていても、死んでいても、誰にも気づかれない。
誰も悲しまない。

それは、僕の存在自体を否定しているのと同じことなのだ…。




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