悪役令嬢は麗しの貴公子

カンナ

40. それぞれの帰省(ヴィヴィアンver.)

 

 夏季休暇に入って早一週間。アルバートに付き合ってなんとか課題を終わらせることができ、今は王都内にある邸宅に向かっている最中だ。
 馬車の小窓から見える景色を眺めながら、本日何度目か分からないため息を漏らす。

 結局、父上の忠告を受けてから色々とリディアを引き取ったクレイン男爵家について調べてみたものの、有力な情報は得られなかった。
 所有している領地の経営は良くも悪くもなく、社交界でも上の身分の者に目をつけられない程度の立ち位置におり、本当のところは知らないが表面上は現王を支持している姿勢をとっている。
  ここまで平凡だと逆に怪しいものだが、悪事をしているという証拠や噂すらたっていないのだから表立って調べられない。

 リディアにしたって学園での成績に不正を行っている訳でもなく、これまで同様にアルバートに突撃しに行っているだけで、他に目立った点はない。
 …まぁ、婚約者のいる男子生徒に対して気軽に触れたり貴族としてのマナーに欠けているのは、この際目を瞑ろう。

 父上が学園に訪れた時に言っていた『機密情報』についても詮索してみたが、やはり学園内のみでは情報収集するにも限度がある。アルバートにもそれとなく聞いてみたが、彼も俺と同様に知らされていないらしかった。
 ただ、あの父上・・・・がわざわざ学園まで来て忠告したのだから余程重要なことなんだろう。しかも、内容までは言わずとも俺に話したということは、俺やアルバートにも今後関わりのある事だ。或いは、学園自体とも関連しそうな何か。

 この国の次世代を担う中心となる王太子や公爵家、侯爵家の者が在学している期間中に学園に関連がありそうなこと、且つ父上や王家が必死に隠さなければならないほどの情報...。
 そこまで考えて、ハッとする。

 「ーーーまさか...」

 ...なるほど、そういうことか。それなら、確かに極秘にする必要がある。
 漸く答えにたどり着いたと、納得と同時に脱力した。

  そうこうしている内に、馬車の速度がだんだん落ち、揺れが緩やかになったことからそろそろ邸宅に着くのだろうと察する。
 馬車は門扉を潜り、エントランス前で静かに止まった。

 「「「おかえりなさいませ、ヴィヴィアン様」」」

 御者に扉を開けられて降りると、見知った顔の使用人達が出迎えてくれていた。
 相槌をうちながら玄関ホールに入ると、執事に抱えられた状態の少女が声をかけてきた。

 「兄様、おかえりなさい」

 「フラン! 身体は大丈夫なのかい?」

 寝着のままブランケットを羽織っている少女に駆け寄り、顔を覗き込む。
 俺と同じプラチナブロンドの髪と色素の薄いエメラルドグリーンの瞳、そして病的なまでの青白い肌と骨ばった華奢な身体。生まれた時から持病があって身体が弱い俺の妹ーーーフランソワーズだ。
 執事の腕からフランソワーズをそっと自分に引き寄せて抱え直す。

 「わざわざ出迎えにこなくても部屋に行ったのに」
 
 「私が無理を言ったの…、皆を責めないであげて」
  
 「分かってるよ。……ただいま、フラン」

 「ふふ、おかえりなさい兄様」

 会話をしつつもフランソワーズの部屋へと急ぐ。
 途中、すれ違った使用人に視線をやって少しの間フランと二人になることを暗に告げる。
 
 目的地にたどり着くと、フランソワーズをベッドの上にそっと降ろす。
 運んでいた時も思ったけれど、半年ぶりに再開した妹は以前よりも軽くて簡単に折れてしまいそうな程に脆くなっていた。

 「学園生活はどう? 楽しい?」

 「そうだね、楽しいよ。でも、アルに振り回されているのは変わらないから大変だけれど」

 「そんなこと言っちゃダメよ兄様。殿下だって兄様を信頼してるからこそ…ッ、ゴホッ...ゴホッ……」

 「フラン、無理をしなくていいから。大丈夫、いつもみたいにゆっくり深呼吸して」

 ヒューヒューと音をたてながらも懸命に呼吸を繰り返すフランソワーズの背中を落ち着くまで何度も優しく撫でる。
 今となっては、この介抱もすっかり板についてしまった。

 この年の離れた小さな妹は、成人するまで生きられないと医師が言っていたのを前に聞いた。この国で成人と認められるのは18歳で、フランソワーズは現在9歳。
 もし彼女に持病がなければ、アルバートの婚約者候補にも挙がっていたことだろう。

 「もう大丈夫、落ち着いたわ」

 「外に出たから身体が驚いたのかもしれないね。少し休んだ方がいい。……兄様の言うこと、聞けるね?」

  「こんな時ばかり兄様面…ずるいわ」

 「いい子にしてたら学園の近くで買ったお土産を持ってくるから。機嫌を直してくれないかい、お姫様?」

 「むぅ…絶対よ?」

 「約束するよ」

 タオルケットをかけながらフランソワーズの身体を横にし、眠りの魔法をかける魔法使いのように額に優しく口付ける。
 音を立てないように部屋を出て静かに扉を閉めると、父上が俺を呼んでいる、と侍従が呼びにきた。
 頷いた俺は、気づかれないように小さくため息をついて侍従に付いて行った。

 ……


 「失礼します。お呼びと聞いて参りました」
 
 「ヴィヴィアンかい。入りなさい」

 沢山の書類に囲まれた父上は、一枚一枚を素早く捌きながらも俺に笑顔を向ける余裕はあるみたいだ。

 「やぁ、すまないね。この通り手が離せなくて。長旅ご苦労さま」

 「構いません。...出直しましょうか?」

 「いやいいよ。ここで君を逃せば、また捕まえるのに苦労しそうだからね」

 「はて、父上から逃げたことなんてありましたか?」

 「なら、そういうことにしておこうか。さて、冗談はこのくらいにしておいてそろそろ本題に入ろう」

 一区切りついたのか、筆を置いた父上の声が低くなった。
 俺も瞬時に切り替える。

 「まず、報告を聞こうか」

 俺は学園でのアルバートの様子や、今後政界に大きく関わってくる家の者達の動向、そして父上の命で見張っていたリディアのことについて報告する。
 その間、父上は眉一つ動かすことなくただ無言で俺の話を聞いていた。

 「まぁ、今のところは現状維持って感じなのかな。殿下の件も進展してないみたいだし」
 
 「申し訳ありません、父上」

 アルバートの婚約は政治にも絡んでくる重要な案件だ。
 学園に入学しても尚、アルバートが頑なに婚約者を決めないために国内に見初めた相手がいないなら他国の王族を嫁入りさせるのかと噂だけが独り歩きしている。
 アルバートが同性ロザリーに恋心を抱いていることは、宰相である父上や国王陛下の耳にも入っている。そこら辺の情報操作は、父上達の助力もあってか、一時的に噂になったが直ぐに火消しすることができた。

 「仕方がないよね。ルビリアン家の兄弟が厳選した令嬢でも殿下の心を射止められなかったんだから」

 困った顔で苦笑され、口を閉ざしてしまう。

 「あのクレイン男爵家の娘も頑張ってるみたいだけどイマイチだしね。彼女には悪いけど、これ以上要らぬ手間をかけさせられる前に折を見て処分しようか」

 穏やかな微笑を浮かべつつも冷たく言い放った父親に、ヴィヴィアンはゴクリと唾を飲み込んだ。

 「どうしたんだい、ヴィヴィアン? まさか、あの娘に情でも湧いたんじゃないだろうね?」

 「それこそご冗談を。ただ、いつもながら辛辣だと感じていただけです」

 「これでも昔よりはマシになった方なんだけどね。俺も歳かな」

 ふふ、と愉快そうに喉を鳴らす父親に、歳をとっても狸は健在だな…と頬を引き攣らせた。
 流石、この国の宰相職を長年務めてきただけのことはある。

 「ところで、俺の与えたヒントは活かせたかな?」

 「はい。お陰様で」
 
 ヒントというのは言わずもがな、リディアが知ったという機密情報のことだろう。

 ニッと作り物めいた笑顔を作ると、ここにきて初めてダニエルが僅かに目を見開いた。まさか、さすがの彼もたったあれだけのヒントでヴィヴィアンが答えに辿り着くとは思ってなかったようだ。
 そして、ふむ、と顎に手を当てたダニエルはとても楽しそうに瞳を細めた。

 常にプライベートより仕事を優先している為、ストレスが溜まりまくっているのは知っているが、その発散に息子を利用しないでほしい。

 「頑張っているじゃないか。そんな可愛い息子に父から特別にプレゼントをあげよう」

 「プレゼント、ですか……」

 嫌な予感しかせず、笑顔のまま顔を強ばらせて見ていると、父上は机の引き出しから紐で括られた封筒の束を取り出して俺に差し出した。

 「学園から出された課題は終わったみたいだから暇だろう? 王宮で行われる舞踏会までに課題これを片付けてきなさい」

 学園の課題を終わらせたことは一言も話していないというのに、どうしてこの父親は当たり前のように知っているのだろう。
 ヴィヴィアンは自身の父親を少し怖く思いつつ、封筒の束を受け取ってそれらを見やる。紐を解くと、既に開封されているものと未開封のものの二種類が混ざっていた。

 「これは…?」

 「見てのお楽しみさ。大丈夫、賢い君なら上手に・・・利用できるよ」

 いつにない満面の笑顔と柔らかい口調の父親を見てヴィヴィアンは思った。


 一難去ってまた一難とは、まさにこの事。






 苦労性なヴィヴィアンでした(苦笑)
 タイトル変更しました。(6.14)

 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。


 

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コメント

  • いちご大福

    更新ありがとうございます!

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  • ノベルバユーザー248828

    ヴィ―様のパパ怖~~(-""-;)

    2
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