悪役令嬢は麗しの貴公子

カンナ

32. 忠告



  乙ゲーこの世界にも生徒会という組織は存在する。というのも、年齢もクラスも住んでいる寮も全てバラバラな攻略対象者達と接点を持つ為には『生徒会』という繋がりが外せないからである。

 生徒会執行部。
 それは、聖ロンバール学園において個人の能力が高く評価され、選ばれた一部の生徒のみが所属できる生徒が主体となって活動する組織である。
 とはいえ、実際は前世の生徒会とほぼ同じで学園の年間スケジュールに組み込まれている式典やイベント等の運営全般を生徒会が一任されている。

 「生徒会、ですか…」

 「そう♡」

 先生の言った意味を理解するまで少し時間を要した。だって、ゲームにおける生徒会メンバーは主人公リディアを含めたメイン攻略対象者達であってロザリーは所属していなかったのだから。
 
 「勿論、貴女に拒否権なんてないわよ」

 驚きで歯切れ悪く復唱した私に更に近づいてきた先生は、満面の笑顔で容赦なく逃げ場をなくす。

 別に生徒会に入る事自体は嫌じゃない。ココが本当にあの乙ゲーの世界ならきっとアルバートやヴィヴィアンも生徒会に入ることになるだろうし。ただ、そうなるとリディアという私にとっての弊害フラグも着いてくるということで……。
 出来ればこれ以上、リディアとは関わらないまま卒業したかったから複雑な心境だ。

 「ま…、前向きに検討しておきます」

 「そっ。よろしくね」

 曖昧に笑って誤魔化す私から先生は意外にもあっさりと近かった顔を離してくれた。
 …美形が近くにいると心臓に悪い。

 チラリと壁掛け時計を見ると、既に正午の鐘が鳴りそうな時間だった。どうやら随分と長く保健室に留まっていたらしい。
 どうりでお腹の虫が鳴く訳だ。

 きっとアルバート達も心配して……はいないと思うが、いつまでも保健室に居座る訳にはいかないので立ち上がってジャケットを羽織る。

 「あら、戻るの? ここでお昼食べていってもいいのに」

 「お気遣いありがとうございます。いつまでもサボる訳にはいきませんので、これで失礼します」

 『真面目ねぇ〜』と感心する先生にお礼を言って部屋を出ようとしたら、咄嗟に呼び止められる。

 「あ、そうだわ。ヴィヴィアン様にお会いしたら『素敵な贈り物・・・をありがとう』と伝えておいて頂戴」

 「? 分かりました」

 なんだか含みのある言い方が気になったが、取り敢えず頷いておいた。


 ……


 正午を迎え、食堂へと足早に歩いていく多くの生徒達とは真逆の方へ足を向ける生徒が一人。速度を変えることなく、行き違う人達から向けられる様々な視線を全て笑み一つで躱し、器用に人の合間を縫って目的の場所へと移動して行く。
 
 生徒は目的の場所である扉の前まで来ると、一度足を止めた。そして、周囲に誰もいないことを確認し、ノックもせずに部屋へと入っていった。


 (※以下、ヴィヴィアン視点)

 「やっと来たね、待ってたよヴィヴィアン」

 「お待たせして申し訳ありません。ーーーー父上」
 
 俺よりも濃いエメラルドの瞳をスっと細めて微笑んだその人の顔は、何度見ても俺とそっくりだと思う。ソファでゆったりと寛ぐ父上に頭を下げて遅れたことを謝罪する。

 「いいよ。君が俺と約束した時間にだけ疎いのは、きっと父親譲りだろうからね」

 「…手厳しいですね」

 「いやいや、俺は寛容な方だよ。仕えるべき王太子主人を置き去りにして他の事にかまけている息子を窘めようとしないくらいにはね」

 「……申し訳ありません」

 人の良さそうな微笑みを携えた父上は、俺の心に容赦なく矢を射ってくる。同じようなことを自分もしてきた自覚はあるが、される側になるのはいつだって父上の前でだけだ。
 再び頭を下げた俺に、父上は仕草で向かいのソファに座るよう指示を出す。

 「父上自ら学園へ足を運ばれるとは、驚きました」

 ダニエル・コーラットと言えば、王族でありながら王位継承権を捨て、自らその地位を落とすも宰相として現王実兄を支え続けている忠義ある人物として有名だ。

 そんな日々激務をこなす宰相がわざわざ王都から離れた学園に足を運ぶなど、普通ならありえない事なのだ。

 「大した用事じゃないよ。愛する我が子に忠告をしに来ただけなのだから」

 まるで世間話でもするように言われた『忠告』という言葉に、自然と姿勢を正す。
 何が大した用事じゃない、だ。本当に大した用事じゃなければ、宰相である父上がわざわざ学園まで息子に会いに来たりなどしない。

 この狸め…、と心の中で悪態をつきつつも先を促す。

 「何でしょうか」

 「クレイン男爵家に注意しなさい」

 「クレイン…、リディア嬢のご実家ですね。彼女の行いにはこれまでも目を光らせてきましたが…」

 「そういうことではないよ」

 リディア・クレインは、現在でもアルバートに幾度となく突撃しては消沈しているが、俺が目を光らせていることもあってアルバートに直接何かをすることは無い。
 抱きつこうとしたり、偶然を装って触れようとすることは多々あったが……。

 「では、なんだと言うんです?」

 クレイン男爵家にしたって力を持ち過ぎることも悪評もない、国にとっては害にも利にもならない普通の貴族だ。
 俺の問いに父上はふむ、と顎を撫でる。

 「ヴィヴィアン、君の目から見てリディア・クレインはどうだい?」

 「どう、と言われましても…。殿下に付きまとう以外は至って普通の令嬢かと」

 「そうか。……では、君の言うその普通の令嬢・・・・・が我が国の機密情報を知っていたとしたらどうだい?」

 「?!!   どういうことですか、それは!」

 リディア・クレインが一国の機密情報を知っていただなんて…一体、どうやって入手したというのか。何の力もない男爵家、それも数年前まで庶民だった彼女にそんなことがはたして出来るのだろうか。

 「まぁ、機密情報と言っても既に勘づいている者もいるんだけれどねぇ…」
 
 「…それで、リディア嬢に知られた機密情報というのは」
 
 「え、言えるわけないじゃないか。何を言ってるんだい、ヴィヴィアン」

 驚いた顔の父上に確かにそうだな、と納得した。いくら宰相の息子とはいえ、機密情報をそう易々と教えて貰えるわけがないのだから。
 少し考えれば分かると言うのに、父上に言われて初めて気づくなんて…どうやら今の俺は冷静ではないらしい。

 「リディアあの娘がどうやって情報を入手したかは定かではないが、警戒するに越したことはないだろう」

 何もなければそれが一番だ。
 一度漏れた情報は直ぐに拡散してしまうためそれを食い止めるのは困難を極める。しかも、一度知られれば次も知られる可能性が出てきてしまうから情報漏洩を防ぐ為により慎重に、且つ別の手段を取る必要がある。

 部屋に入ってきた時からどことなく疲れた表情をしていたのは、きっとこの件の対応に追われていたからなのかもしれない。

 「幸い、まだこちらが不利益になるような事には及んでいないからね。だからこそヴィヴィアン、ここまで聞いたのだから自分が何をすべきか……理解しているね?」

 「愚問ですね」

 より一層の注意を払ってリディア・クレインと彼女に関わる人物を監視する。元々、学園入学時からアルバートの従者として課せられた役割はあった。今更一つ増えたくらいどうってことはない。

 俺の回答に満足したらしい父上は、呼び鈴を鳴らして立ち上がった。直ぐに従者の一人が大きなトランクケースを抱えて現れ、あろう事か当たり前のように父上がそのケースの中に入っていく。

 「父上、まさかココに来る時も同じ手段を使った訳ではないでしょうね?」
 
 「何か問題あるかい? この中は結構広いし、居心地も悪くないんだよ」
 
 「そういうことを言っている訳ではないのですが、父上がそれでいいのでしたら……。道中お気をつけて」
 
 「また会いに来るよ」
 
  「その前にこちらから伺います」

 そう何度も学園に来られてはたまったものではない。
 偶に自分の立場を理解しているのか不安になるくらい突拍子もない行動に出る父上にため息が出そうになるのをグッと抑える。従者に『お互い大変だね』と目線をやると苦笑されてしまった。

 こちらの心中など全く知らない父上は、笑顔で俺に手を振るとさっさとケースの中に収まった。

 (ーーーさて。一応、調べておくか)

 父上が収納されたケースを見送った後、俺もココへ来た時同様に誰にも見られぬよう部屋を抜け出した。






 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。


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コメント

  • いちご大福

    更新ありがとうございます!
    何だ機密情報…面白かったです!
    頑張ってください☺️

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