悪役令嬢は麗しの貴公子

カンナ

31. 貴公子はバレる


 静寂が満ちる暗闇の中、私は一人立っていた。辺りを見回しても誰もいない。
 静かで、暗くて、寒くて…………怖い。

 「お前には失望した、ローズ」

 背後から声がして振り返れば、先程まで誰もいなかったはずのそこには、私を冷めた目で見てくるアル様がいた。

 「俺達をずっと騙して…さぞや楽しかっただろうね」

 また声がしてそちらを向けば、アル様と同じ目で私を見つめるヴィー様の姿。

 「騙す…? 一体、何を言って…」

 私は何がなんだか分からず混乱した。そんな私を余所に他の角度からも声が聞こえてくる。

 「なんだ、お前女だったんだな。嫡男跡継ぎなら仲良くしといて損はねぇと思ったから気にかけてやってたってのに…。女のお前に用なんてねぇよ」

 クランが嘲笑を滲ませた赤い瞳でそう吐き捨てる。

 「どうしてですか…兄上。どうして嘘をついていたんですか? どうしてっ……! 信じてくれていると思ってたのに! 僕を守ってくれると言ったのも全部嘘だったんですか!?」

 苦しそうに顔を歪めて頬を涙で濡らしたニコは、本来は美しいはずのアメジストの双眼を濁らせている。

 (違う、騙してなんかいない。私はロザリーと家族を守る為に…!)

 伝えようと口を動かすのに言葉にはならなくて、否定したいのに無様に身体が震える。

 「お前など信用出来ない」

 「残念だけど…君が俺達を騙したのが悪いんだからね?」

 「よくもこれまで飄々としていられたもんだな、このペテン師が」
 
 「貴女なんか兄上じゃない!」

 (違う! 違う! 待って、皆!!)
 
 皆が私に背を向けてどこかへ行こうとする。必死に手を伸ばしても息だけが漏れる口で呼び止めても誰一人として足を止めてくれない。

 「うふふっ、だから言ったじゃない。貴方がどんなに運命に抗おうと、ココは私のための世界で貴女はどうしたって悪役令嬢ロザリーでしかないのよ」

 甲高い見下した声で私を嘲笑ったリディアは、彼女の周りに集まったアル様、ヴィー様、クラン、ニコラスと順に抱き合っていく。それも、私に見せつけるように大袈裟に。

 (やめて! 違う! 私は、私はーーー)








 『貴女ロザリーは、誰?』


 ……


 ハッと目が覚め、自分が夢を見ていたのだと理解する。
 
 (またか…)

 最近は嫌な夢しか見ていない気がする。
 寝不足なら仮眠を取った方がいい、とヴィー様が気を遣ってくれて保健室につれて来てくれたというのに全く休めていない。

 「ロザリーさん、起きてるかしら?」

 カーテンの向こう側から控え目で気遣わしげな声が聞こえてきたので上体を起こして返事を返す。

 カップを持ってカーテンを開けて入ってきたのは、この聖ロンバール学園の保健医であるルミエール先生。妖艶で顔立ちも整っているが、おねぇ的な言動が多くて残念なイケメンでもある。

 彼もまた、ゲームの舞台では重要なキャラクターで主人公ヒロインの相談に乗ったり助言をしてくれたりする、所謂お助けキャラとして登場する。
 お茶目でコミカルなのに時折見せる雄っぽい所が乙女プレイヤー達の心を鷲掴みにした。
 キャラクター人気投票では、メインキャラ達を差し置いて三位にもなった程である。

 「失礼するわね。魘されていたみたいだったけど大丈夫? 温かいお茶を持ってきたから飲みなさい」

 「ありがとうございます。どのくらい寝てましたか?」

 「2時間くらいかしら? それより着替えた方がいいわ。風邪ひいちゃったら大変よ」

 「すみません…何から何まで」

 「いいのよ。女のコなんだから身体を大事にしなくっちゃ☆」

 「え……?」

 そう言い残してパチンとウインクを投げたルミエール先生は、着替えを取りに再びカーテンの向こうへと消えていった。
 一人取り残された私は、サァァ…と顔を青ざめる。

 ……え? 嘘でしょ? ちょっと待って。
 なんで分かったの?

 バッと自分の格好を確認してみても女だと疑われる所はない。確かにジャケットは脱いでいるしシャツのボタンも一つ外しているが、胸元にサラシを巻いているし体型を男に近づける為にコルセットだってしている。
 声や言動も意識して変えているし、これまで誰にも悟られることなんてなかったのに…。

 疑問と困惑が脳内を埋め尽くす。思い出されるのは、さっき夢で見たあの光景。

 (どうしよう…この事が皆にバレたらーー)

 そこまで考えて首を振り、ネガティブな思考を払い除ける。
 大丈夫、ゲームのルミエール先生は生徒思いな口の堅いキャラだったはずだから説明して頼めば、きっとーーー。

 「着替え持ってきたわよ〜。サイズ合うか確認してくれる?」

 「ルミエール先生、それよりもお話が…」

 「分かってるわ。でも着替えが先よ。保健医アタシの前で風邪なんて絶対に引かせないわ」

 余程不安そうな顔をしていたのだろう、ルミエール先生は優しく微笑んで頭を撫でてくれる。その後、やや強引にシャツを持たせられてカーテンを閉められた。

 
 ……


 「保健室ココに来た時よりはだいぶマシな表情になったわね。…それで、話っていうのは貴女の性別のことよね?」

 着替えを済ませた私は、先生と向き合う形でテーブルに座っている。
 確認の問いに頷いた私に、先生は瞳を細めてカップに口付けた。
 
 「何故わかったんですか?」

 「一目見れば分かるわよ〜。むしろどうして誰も気づかないのかって不思議に思ったくらい」

 コロコロと笑う先生にそんなに分かりやすいのかと、更に不安になる。

 「そんな怖い顔しなくたって誰にも言いやしないわよ。貴女だって理由があってやってる事なんでしょうし」

 『安心して?』と微笑んだ先生の言葉に私は胸を撫で下ろす。だが、話はそう上手くはないらしい。

 「た・だ・し、一つ条件があるの」

 ずいっとテーブルに乗り出し、顔を近づけてきた先生にキョトンと首を傾げる。
 さっきの天使の微笑みをしていた人とは思えないほどニヤリと悪人の笑みを浮かべた先生に嫌な予感がした。

 「ロザリーさん、貴女には生徒会に入ってもらうわ♡」







 やっと主人公ロザリーのターンに戻ってこれた…( ̄▽ ̄;)
 それぞれのキャラが何を考えているのか作者にも謎です←


 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。


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コメント

  • カンナ

    応援して下さっている皆様、いつも読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます。
    これを糧に今後も精進して参ります

    3
  • いちご大福

    大好きです
    更新待ってます
    頑張ってください!

    3
  • RAI

    続き楽しみにしています
    これからも頑張ってください
    応援しています

    3
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