悪役令嬢は麗しの貴公子
26. 不完全燃焼
 三角関係、恋のライバル。
 これは、少女漫画や乙女ゲームではよくある設定の一つで読者やプレイヤーを飽きさせない為のものだったりする。
 しかし、人生においてそんな急展開や山あり谷ありな経験をする人なんてそういないんじゃないだろうか。
 「クランも知っているだろう? 私と彼女はクラスも違うし選択科目も別。接点が一つもないのにどうして悪口を言えるんだい?」
 
 「そんなのっ…! 皆言ってるわ! 私に嫉妬して根も葉もない噂するし、貴方も面白がって言ってきたんでしょ!?」
 「噂されるのが嫌ならそういう行為をしなければいい話なのでは? それに、私は貴女に構っているほど暇じゃないんだ」
 「ひ、酷いっ! どうして睨むんですか!? あんまりですっ……!!」
 あんまりなのはこっちなんだが…。
 そもそも睨んでない、これは生まれつきだ。
 話の本筋から逸れてきてるし、私の指摘に対して気にする所はそこなのかと思う。
 「やっぱり…私が貴方より下の身分だから差別してるんですか!? だからこんな酷いこと…」
 可愛らしく震えた声がまた訳の分からないことを言う。
 「私は貴方に限らず差別した事は一度もない。憶測でものを語るのは止めてもらえないか。迷惑だ」
 
 この不毛なやり取りに段々と苛立ち、やや強い口調になってしまう。
 埒が明かない(それ以前に人の話を聞かない)と思い、眺めているだけで口を出そうとしないクランを睨む。
 (いつまで傍観してるつもり? いい加減にしないと生徒会に訴えるよ?)
 あからさまにため息をつくとクランは苦笑し、そっとリディアから離れた。
 
 「クラン先輩?」
 「悪いなリディア。今回は双方の言い分の食い違いと証拠不十分、第三者の目撃がなかったことから生徒会としては判断し兼ねるかな」
 「そんなっ…!」
 「まぁ、今回の件は目を瞑ってやっからさ。それより、そろそろ学内閉鎖の時間だ。ほら、二人とも帰った帰った」
 クランは手をパンパン叩くと私とリディアの背中を押して帰路へと促した。
 締め方が大雑把ではあるが、まぁクランだし良しとしよう。
 「なんで…? 嘘でしょ……、そんな、有り得ない……」
 クランが冷静な判断をしてくれたことにほっとしている私とは裏腹に、リディアは俯いてブツブツと口を動かしている。
 やはりリディアにとってこの世界の認識はあくまでゲームの中であって現実とは捉えていないようだ。
 
今回は攻略対象者の好感度を上げきれてなかったこともあって不完全燃焼に終わったわけだけど、これからもこんな強引なやり方でイベントを発生させていくのかと思うと目眩がしてくる。
 それに、強引であってもイベントを発生出来ているということは、この世界が少なからず主人公にとって優位に働いていることに変わりないのだろう。
 
 (これからは、もっと慎重に動く必要がありそうだな)
 薄らと夕闇の広がる敷地の中、ぼんやりとそんなことを考えて棟へと歩みを進めた。
 つい先程まで緊張した場所にいたせいか、自分で思う以上に精神が疲れているらしい。
 棟に近づくにつれ、アルバートの部屋に明かりが灯っていることやヴィヴィアンが窓の向こう側から「おかえり」と手を振ってくれていることに安心感を覚える。
 だから、気付かなかった。
 
 
 帰路につく私の背を、爪を噛んで睨みつけるリディアの形相に。それを物陰から眉をひそめて見つめるクランに。
 私に手を振りながらいつもと同じように薄く微笑んでいる瞳は、いつもより悲しそうだったことに。
 今回短めです!
 悩みましたが、区切りがいいので今回はここまでにします。
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。
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