悪役令嬢は麗しの貴公子
6. 兄弟
  
 コンコンッ
 「おはようニコラス、ロザリーだ。もう起きているかい?」
 誕生日の次の日。私は今、ニコラスに邸内を案内する為に彼の部屋の前に来ている。
 「...はい。」
 少しして、ニコラスがドアを開けて出てきた。表情は昨日と同じ無表情のままだが、目の下に薄らとクマができている。
 もしかして、緊張してあまり眠れなかったのかもしれない。まぁ、突然知らない家に来ても寝れないよね。今日一日、邸内を歩き回れば疲れて自然と眠れるだろう。
 そう思った私は、早速ニコラスを連れて邸内を案内することにした。
 「ニコラス。これから邸内を案内するけど、逸れるとたいへんだから手を繋ごうか」
 「いえ、このままで結構です」
昨日と同じように手を差し伸べたけど、また手を取ってはくれなかった。中々難しいなぁ…。
 「それじゃぁ、逸れないようにしっかりついておいで」
 なるべく笑顔でそう言えば、ニコラスは頷いて私の後をついてきた。
 それから、私はニコラスを連れて邸内を歩き回ったが、彼は表情を崩さず事務的な返事ばかりしてきた。
 「うーん、大体案内したしここで最後かな。」
 「ここは…、庭園ですか?」
 「そう、亡くなった母上が大好きだった庭園だよ。天気のいい日は、よくここでお茶をするんだ。良かったらニコラスも一緒にどう?」
 ダメ元で誘ってみたが、やはり怪訝な顔をされてしまった。そんなに嫌か…、と思っていると。
 
 「どうして…」
 「え?」
 「どうして、そんなに僕に構おうとするんですか? 上辺だけなら迷惑です、放っておいて下さい」 
 嗚呼、既にゲームキャラが確立されてしまっている。
 「ごめんね、しつこかったかな? 弟が出来たことが嬉しくて、少しはしゃいじゃってたみたいだ」
 「嬉しい…? 僕は娼婦の子どもですよ?!」
 ニコラスは眉間に皺をよせて、やや取り乱して言った。
 「そんな事関係ないよ。例えニコラスが誰の子どもだろうと、君は君でしょう?」
 彼は娼婦の子どもなんて言うけど、前世でゲームをプレイした時からそんな事気にしてなかった。それは今も同じ。
 この世界にいる貴族の多くは、血筋を重んじるが私はその人の能力や努力次第だと思っている。
 「なっ...、軽蔑しないんですか? 他の皆のように。」
 一瞬驚いた表情を見せたニコラスの瞳は、不安と困惑に揺れていた。
 きっと、彼は今まで沢山苦しんできたんだと思う。傷つけられて疎まれて、そうしてついに諦めてしまったんだろう。
 私は、今にも泣き出しそうな顔のニコラスの頭をそっと撫でた。いつもお父様がそうしてくれるように。
 「軽蔑なんてしないよ、そんな事絶対にしない。だから安心していいよ」
 「嘘だ...」
 「今は信じてくれなくていい、でも嘘じゃないよ。私は君と仲良くなりたいんだ」
 
 ニコラスの頭を撫でながら、私より少し小さい彼と目線を合わせるように膝を曲げる。
 「そんなの信じない…。だって、皆そうだった! 僕が娼婦の子どもだから汚い、出来損ないだって! どうせ貴方も同じなんだろう! 口でなら何とでも言えるからな!」
 ニコラスはついに泣き出して、声を震わせながら叫んだ。その姿が見ていて痛々しくて、私は思わず彼を抱きしめていた。
 急に抱きしめられたニコラスは、肩をビクリとさせて硬直した。
 「な、にを...」
 「...ねぇ、ニコラス。確かに君は娼婦の子どもで、これからもきっと多くの貴族から非難されることだろう。でもね、皆が皆同じ考えを持っていると決めつけてはダメだ」
 「…決めつけじゃない、事実だから言ってるんだよ」
 「決めつけだよ。世界には、沢山の人がいてそれぞれ違った考えを持っている。だから君も、自分をそんな風に哀れむのはやめて堂々としていればいい。大丈夫。何かあれば、父上や私がちゃんと君を支えてみせるから」
 「.........本当に?」
 「勿論。君は私の大切な弟だからね」
 私がそう言うと、ニコラスは幼子のように私に抱きついて堰を切ったように泣いた。私はその間、優しくニコラスの頭を撫でていた。
 やがて、ニコラスは泣き終わると私から身体を離してふわりと微笑んだ。
 「ありがとうございました、ロザリー様」
 「ふふ、兄上でいいよ」
 兄弟なのに様付けなんて変だから、と言うとニコラスは困ったようにキョロキョロと視線を彷徨わせた後、再び私を見つめて照れくさそうにはにかんだ。
 「はい、兄上。...その、僕のこともニコでいいです」
 頬を紅くして一生懸命に伝えようとしてくるニコが可愛くて、私は自然と微笑んでいた。
 「それじゃぁニコ、改めてこれからよろしく頼むよ」
 「はい、よろしくお願いします」
 私達はこの日、初めてちゃんと兄弟になれた気がした。
 ニコラス・ルビリアン
 ロザリーより1つ年下で10歳。
 元々ルビリアン公爵家の分家の父親と娼婦の間にできた子どもだったため、周りから散々な扱いを受けて育つ。そのため、他人を信用し切れない部分があり陰気な性格に。
 本来の性格は、素直で頑張り屋なよく笑う子です。
 次回、ニコラス視点です。お楽しみに!
 コンコンッ
 「おはようニコラス、ロザリーだ。もう起きているかい?」
 誕生日の次の日。私は今、ニコラスに邸内を案内する為に彼の部屋の前に来ている。
 「...はい。」
 少しして、ニコラスがドアを開けて出てきた。表情は昨日と同じ無表情のままだが、目の下に薄らとクマができている。
 もしかして、緊張してあまり眠れなかったのかもしれない。まぁ、突然知らない家に来ても寝れないよね。今日一日、邸内を歩き回れば疲れて自然と眠れるだろう。
 そう思った私は、早速ニコラスを連れて邸内を案内することにした。
 「ニコラス。これから邸内を案内するけど、逸れるとたいへんだから手を繋ごうか」
 「いえ、このままで結構です」
昨日と同じように手を差し伸べたけど、また手を取ってはくれなかった。中々難しいなぁ…。
 「それじゃぁ、逸れないようにしっかりついておいで」
 なるべく笑顔でそう言えば、ニコラスは頷いて私の後をついてきた。
 それから、私はニコラスを連れて邸内を歩き回ったが、彼は表情を崩さず事務的な返事ばかりしてきた。
 「うーん、大体案内したしここで最後かな。」
 「ここは…、庭園ですか?」
 「そう、亡くなった母上が大好きだった庭園だよ。天気のいい日は、よくここでお茶をするんだ。良かったらニコラスも一緒にどう?」
 ダメ元で誘ってみたが、やはり怪訝な顔をされてしまった。そんなに嫌か…、と思っていると。
 
 「どうして…」
 「え?」
 「どうして、そんなに僕に構おうとするんですか? 上辺だけなら迷惑です、放っておいて下さい」 
 嗚呼、既にゲームキャラが確立されてしまっている。
 「ごめんね、しつこかったかな? 弟が出来たことが嬉しくて、少しはしゃいじゃってたみたいだ」
 「嬉しい…? 僕は娼婦の子どもですよ?!」
 ニコラスは眉間に皺をよせて、やや取り乱して言った。
 「そんな事関係ないよ。例えニコラスが誰の子どもだろうと、君は君でしょう?」
 彼は娼婦の子どもなんて言うけど、前世でゲームをプレイした時からそんな事気にしてなかった。それは今も同じ。
 この世界にいる貴族の多くは、血筋を重んじるが私はその人の能力や努力次第だと思っている。
 「なっ...、軽蔑しないんですか? 他の皆のように。」
 一瞬驚いた表情を見せたニコラスの瞳は、不安と困惑に揺れていた。
 きっと、彼は今まで沢山苦しんできたんだと思う。傷つけられて疎まれて、そうしてついに諦めてしまったんだろう。
 私は、今にも泣き出しそうな顔のニコラスの頭をそっと撫でた。いつもお父様がそうしてくれるように。
 「軽蔑なんてしないよ、そんな事絶対にしない。だから安心していいよ」
 「嘘だ...」
 「今は信じてくれなくていい、でも嘘じゃないよ。私は君と仲良くなりたいんだ」
 
 ニコラスの頭を撫でながら、私より少し小さい彼と目線を合わせるように膝を曲げる。
 「そんなの信じない…。だって、皆そうだった! 僕が娼婦の子どもだから汚い、出来損ないだって! どうせ貴方も同じなんだろう! 口でなら何とでも言えるからな!」
 ニコラスはついに泣き出して、声を震わせながら叫んだ。その姿が見ていて痛々しくて、私は思わず彼を抱きしめていた。
 急に抱きしめられたニコラスは、肩をビクリとさせて硬直した。
 「な、にを...」
 「...ねぇ、ニコラス。確かに君は娼婦の子どもで、これからもきっと多くの貴族から非難されることだろう。でもね、皆が皆同じ考えを持っていると決めつけてはダメだ」
 「…決めつけじゃない、事実だから言ってるんだよ」
 「決めつけだよ。世界には、沢山の人がいてそれぞれ違った考えを持っている。だから君も、自分をそんな風に哀れむのはやめて堂々としていればいい。大丈夫。何かあれば、父上や私がちゃんと君を支えてみせるから」
 「.........本当に?」
 「勿論。君は私の大切な弟だからね」
 私がそう言うと、ニコラスは幼子のように私に抱きついて堰を切ったように泣いた。私はその間、優しくニコラスの頭を撫でていた。
 やがて、ニコラスは泣き終わると私から身体を離してふわりと微笑んだ。
 「ありがとうございました、ロザリー様」
 「ふふ、兄上でいいよ」
 兄弟なのに様付けなんて変だから、と言うとニコラスは困ったようにキョロキョロと視線を彷徨わせた後、再び私を見つめて照れくさそうにはにかんだ。
 「はい、兄上。...その、僕のこともニコでいいです」
 頬を紅くして一生懸命に伝えようとしてくるニコが可愛くて、私は自然と微笑んでいた。
 「それじゃぁニコ、改めてこれからよろしく頼むよ」
 「はい、よろしくお願いします」
 私達はこの日、初めてちゃんと兄弟になれた気がした。
 ニコラス・ルビリアン
 ロザリーより1つ年下で10歳。
 元々ルビリアン公爵家の分家の父親と娼婦の間にできた子どもだったため、周りから散々な扱いを受けて育つ。そのため、他人を信用し切れない部分があり陰気な性格に。
 本来の性格は、素直で頑張り屋なよく笑う子です。
 次回、ニコラス視点です。お楽しみに!
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